吉本隆明全集35「中学生のための社会科」を読んで
照る日曇る日 第2119回
2005年3月に市井文学から刊行された不思議な1冊。
題名につられて中学生がお勉強のために読みだしたら、慌てふためいて投げ出してしまうこと請け合いの吉本選手から全国民への2004年の「贈物」である。
でも初めは処女の如くデリケートで、第1章の言葉と情感では、宮澤賢治の「母」、萩原朔太郎の「旅上」、伊東静雄の「わがひとに与ふる哀歌」、そして僕の大好きな中原中也の「はるかぜ」を全文掲載して、「ここに挙げた詩人たちの詩作品は、たった一行、あるいは一篇の言葉だけの表現で、読む人によってはメロデイ、長短調、人生体験の個性のすべてが含まれるように作られている」と総括しているので、かつて中学生であった我々もなるほどなあ、と勉強になる。
しかし「作り手である詩人もまたこの社会では詩のほかに関心をもつものは何もないというところまで行ってしまうこともある。ここで挙げた詩人たちもそれに近いところまで行った」と続けられると、三流のへっぽこ詩しか作れないおらっちとしては、何やら背中に冷たいシャンペンを浴びせられたような気にもなるのである。
社会科の教典はこれで終わりではなく、「自己表出」と「指示表出」で区分けされた「吉本文法」、「老齢とは意志と行為の背理なり」という発見、社会と国家に関する3つの類型、民族国家についての考察、「シュンペーターとマルクスの違い」などさながら神出鬼没の脱兎の如く続けられるのであるが、御用とお急ぎのない方は是非ちょくせつ手に取って拝読されんことを!
両翼を伸ばして秋の陽を受けるアカタテハてふ天与の色柄 蝶人