照る日曇る日 第2116回
同じ訳者による「心は孤独な狩人」「結婚式のメンバー」を興味深く読んだので、この新訳にも飛びつきました。
男勝りの女主人公と、彼女を取り巻く恋人のせむし男、元夫の副主人公がこれ以上ないくらい特異な人物なので驚きましたが、俊才マッカラーズは慌てず騒がず自分の物語を粛々と進めていきますが、そのどこにもひとかけらの希望も明るさもありません。
題名通りの「哀しい」御噺なのですが、それでも飽きずに読者がついてくるのは、作者の文章自体が持っている「物語を湧出する底知れぬ力」のせいなのでしょう。
50歳という若さで命終した作者ですが、亡くなる少し前に「針のない時計」という小説を書いているようなので、最近小説がてんで書けなくなった村上春樹選手に是非とも翻訳して頂きたいものです。
なお本書は、絵本でも「星の王子様」でもないのに、山本容子の銅版画が挿絵としてつけられているのですが、小説世界を自分だけの空想で想像したい読者にとっては、紫式部や藤原道長の世界を脚本家や公凶放送の3流演出家の自儘で汚染されるのと同じくらい迷惑なはなし。できれば止めて欲しかったといわざるを得ません。
いざゆかん「どこでもドア」を開け放ち三千世界へ飛ぶぼくドラえもん 蝶人