市川海老蔵特別公演 「舞妓の花宴」「弁天娘女男白浪」(4月10日・御園座)
昨年10月以来の御園座での歌舞伎は「市川海老蔵特別公演」。本来であれば”十三代目市川團十郎白猿”襲名披露の興行は昨年に行われ、この4月の御園座が名古屋での襲名披露公演になるはずだった。ご存じの通り、コロナ禍で襲名披露自体が延期となり、結局1年経っても終息は見えず、先のスケジュールは発表されていない。歌舞伎界にとって”團十郎”の名跡は最も大きなもの。襲名~襲名披露~東京オリンピック開催(何らかの演出)と様々な企画があっただろうに、全く大変な事になってしまったものだ。
公演初日の席を取ったのは初めて。いつもなら酒を持ち込んで弁当と一緒にいただくのを楽しみにしているが、この日は大人しく会場に来る前に購入した和菓子とお茶のみ。現在、御園座は収容人数を70%に抑えているらしい。ところどころが空いているのはその為だろう。自分の隣も片方は空いていたが、もう片方は普通に他の客が座っていた。
一幕目は中村児太郎による舞踊「舞妓の花宴」。春らしく桜が満開の舞台が綺麗。現実の桜は先週で散ってしまったが、もう一度お花見だ。烏帽子と太刀を持った男装の白拍子(児太郎)が、美しく着飾った娘姿に変化していく。静と動の変化が見もの。そういえば児太郎も本来ならもう”福助”を名乗っているはずが、女形の名跡”歌右衛門”を襲名するはずだった父九代目福助の急病により、襲名披露が延期になったまま。児太郎を観るのは5年ぶりくらいだと思うが、少し顎の線がふっくらとしたかな(←女形に合わせて当り障りの無い言い方・笑)。
幕間を挟んで海老蔵の「弁天娘女男白浪」。女装をした盗賊の弁天小僧菊之助(海老蔵)が、南郷力丸(右團次)と共に濱松屋の店先で悪事を働く。美しい女性を演じていたのに、一転、正体がばれてからの開き直りは「知らざぁ言って聞かせやしょう。」の台詞で有名。この演目は以前に七之助で観たことがあるのでどうしても比べてしまうが、役柄とはいえ、さすがに女装の部分では海老蔵に分が悪いか(笑)。あの美形なのでもっと似合うと思っていたんだけど。ま、女装だからこれでいいのか。彼の口跡はあまり得意ではないが、やっぱりこうして見ると華のあるイイ男だ。通しで観ると分かるのかもしれないが、相変わらず男女蔵演じる日本駄右衛門の役柄がどうにも頭に入ってこない…。最後に5人の悪党が1人1人名乗りをあげる場面は、戦隊ものの元祖「秘密戦隊ゴレンジャー」のモデルになったのだとか。
幕間を含めても正味2時間の舞台はやや物足りなさが残るが、特別公演だからこんなものだろうか。大向うの掛け声も禁止なので舞台としては寂しいが、こうやって乗り越えていくしかないのだろう。海老蔵、児太郎両人とも早く無事に襲名披露が行われるといいねェ。
一、舞妓の花宴(しらびょうしのはなのえん)
白拍子和歌妙 中村児太郎
二、弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)
浜松屋見世先の場
稲瀬川勢揃いの場
弁天小僧菊之助 市川海老蔵
日本駄右衛門 市川男女蔵
赤星十三郎 中村児太郎
浜松屋宗之助 大谷廣松
忠信利平 市川九團次
浜松屋幸兵衛 片岡市蔵
南郷力丸 市川右團次