幕張ベイタウンの続きです。
打瀬(うたせ)小学校には敷地境界にフェンスがありません。変わりに公園を帯状に配置して緑あふれる校庭になっています。
M先生「この建物も建築学会賞を取りました。『学校もまちの一部である』という発想で中に通路もあるんですよ。今は一部のドアが閉められているようですが」
私「学校に不審者が入り込むという事件もあって、学校関係者はぴりぴりしそうですが」
「回りをご覧なさい、建物に囲まれているでしょう。たくさんの人の目から学校が見られているんです。そういうところは大丈夫です。大体フェンスがあったって本気で入ろうと思えば入れますからね」
「なるほど」
「この小学校は最初にすばらしい校長先生を配属してくれました。開校当時は毎日学校便りを近隣に配ってくれたりして、学校と地域の関係性を構築してくれました。おかげで、非常に優秀な生徒さんたちが集まってレベルの高い小学校になりました。そしてそのことが『子どもを通わせるんだったらここの学校だ』というので地域の価値をさらに上げました。成績の良い学校は地域の価値を上げる資産になりうるんです」
以前掛川にいたときに、名古屋に自宅のあるお医者さんとお話をしましたが、家族で移住をしようかどうかの決断の鍵は、行く先に良い学校があるかどうかだ、という話題になりました。
全国的に医療崩壊や医師不足が叫ばれて、「国はもっと予算をつけるべきだ」という声が高まっています。しかしお医者さんも家庭を持つ人間です。いくらお金を積まれるかどうかに関わらず、行きたい場所、行っても良い場所、行きたくない場所の別があります。
そのときのポイントの一つが地域の学力なのだとしたら、教育にもまちづくりの資源としての新たな見方をしなくてはなりません。
良い学校の回りにはそれを求めてより収入の高い人がきやすくなります。そのことが地域の質を上げて行くことにも繋がることでしょう。
※ ※ ※ ※
いよいよロの字の住宅の方へ行きました。
日本の集合住宅は基本的には多くの住戸が南に向いたつくりをしているので、ニの字型に配置をされます。
最近はタワー型の超高層マンションなどで北向きの住戸も作られますが、値段が低かったりします。日本人には南向きで光を受ける生活がすばらしいというライフスタイル上の神話が生きているのです。
私「北向き住戸ができてしまって人気がないというようなことはなかったのですか」
M先生「それがなかったんですよ。南向きが良いのは神話の世界です。もちろんそれを好む人は多いのですが、北向きでも良い、北向きの方が良いというニーズだってちゃんとあるのです。例えば高級な家具や高級な絨毯をもっている人たちは直射日光でそれらが痛むのを極端にいやがります。日中は仕事が遅いので夜遅くに帰るから、北向きで安い方が良いという人だっています。万人に受けるいろいろなニーズがあっても良いのです」
※ ※ ※ ※
M先生がこの街区の一角にお持ちの部屋に案内されて、中庭なども見れました。植物なども実に立派に手入れがされていて素晴らしい雰囲気です。
私「こうしたまちづくりはどんどん周辺に広がっているのでしょうか」
M先生「そこが問題です。最初のうちはデザイナーグループが認めなければ建築をさせないシステムが機能していたのですが、後代になり人も代わり開発が周辺部に及んでくると、容積をもっと取って儲けたいという要望が強くなり始めて、高層のマンションが建ち始めました。質の高いまちづくりを継続するには行政と住民を含めた継続した取り組みが必要なので、今まさにそれをやろうとしていますがね」
初期の先駆者たちが頑張って質の高いまちづくりを行っても、その周辺でその恩恵を貪ろうとする力学も働いてくるものです。自分たちは景観づくりにも貢献せずに、良質な景観の地域ブランドの恩恵を利用するのです。
こうして日本の街並みは乱れて行くのですが、M先生はそもそも日本人がコンクリートで出来た集合住宅に住むという文化を持ってからまだ50年なのだとおっしゃいます。
M先生「かつて『住宅すごろく』という言葉がありました。独身時代の小さな賃貸アパートから始まって、結婚して子どもが生まれ育つに従って大きな住居に移ってゆき、最後は郊外の一戸建てが上がり、というわけです」
私「そうですね、今でもあるのではないでしょうか。やはり最後は郊外の一戸建てに住みたいという希望は多いと思います」
M先生「そうですね。そしてその頃は集合住宅なんて一時の仮住まいという認識でしかありませんでしたが、今や集合住宅が終の棲家になる時代になったのです。こういう住居環境で生活をするという文化がもう少し育たなくては。それには、南向き一辺倒の考え方の転換も必要になるかも知れませんよ」
※ ※ ※ ※
幕張ベイタウンを見学してM先生と意見交換をしながら、これからの日本の住まいについて深く考えることが出来ました。
だだっ広い郊外に展開した戸建て住宅は人口減少と共に衰退が予想されています。コンパクトシティとはよく言われますが、その実現の方向性について興味深い示唆を得ることが出来ました。
日本人はどういう暮らしをすることになるのでしょうか。
【おまけ】
中庭に配置されたこのコンクリートの建物は集会場なんだそう、へー!
打瀬(うたせ)小学校には敷地境界にフェンスがありません。変わりに公園を帯状に配置して緑あふれる校庭になっています。
M先生「この建物も建築学会賞を取りました。『学校もまちの一部である』という発想で中に通路もあるんですよ。今は一部のドアが閉められているようですが」
私「学校に不審者が入り込むという事件もあって、学校関係者はぴりぴりしそうですが」
「回りをご覧なさい、建物に囲まれているでしょう。たくさんの人の目から学校が見られているんです。そういうところは大丈夫です。大体フェンスがあったって本気で入ろうと思えば入れますからね」
「なるほど」
「この小学校は最初にすばらしい校長先生を配属してくれました。開校当時は毎日学校便りを近隣に配ってくれたりして、学校と地域の関係性を構築してくれました。おかげで、非常に優秀な生徒さんたちが集まってレベルの高い小学校になりました。そしてそのことが『子どもを通わせるんだったらここの学校だ』というので地域の価値をさらに上げました。成績の良い学校は地域の価値を上げる資産になりうるんです」
以前掛川にいたときに、名古屋に自宅のあるお医者さんとお話をしましたが、家族で移住をしようかどうかの決断の鍵は、行く先に良い学校があるかどうかだ、という話題になりました。
全国的に医療崩壊や医師不足が叫ばれて、「国はもっと予算をつけるべきだ」という声が高まっています。しかしお医者さんも家庭を持つ人間です。いくらお金を積まれるかどうかに関わらず、行きたい場所、行っても良い場所、行きたくない場所の別があります。
そのときのポイントの一つが地域の学力なのだとしたら、教育にもまちづくりの資源としての新たな見方をしなくてはなりません。
良い学校の回りにはそれを求めてより収入の高い人がきやすくなります。そのことが地域の質を上げて行くことにも繋がることでしょう。
※ ※ ※ ※
いよいよロの字の住宅の方へ行きました。
日本の集合住宅は基本的には多くの住戸が南に向いたつくりをしているので、ニの字型に配置をされます。
最近はタワー型の超高層マンションなどで北向きの住戸も作られますが、値段が低かったりします。日本人には南向きで光を受ける生活がすばらしいというライフスタイル上の神話が生きているのです。
私「北向き住戸ができてしまって人気がないというようなことはなかったのですか」
M先生「それがなかったんですよ。南向きが良いのは神話の世界です。もちろんそれを好む人は多いのですが、北向きでも良い、北向きの方が良いというニーズだってちゃんとあるのです。例えば高級な家具や高級な絨毯をもっている人たちは直射日光でそれらが痛むのを極端にいやがります。日中は仕事が遅いので夜遅くに帰るから、北向きで安い方が良いという人だっています。万人に受けるいろいろなニーズがあっても良いのです」
※ ※ ※ ※
M先生がこの街区の一角にお持ちの部屋に案内されて、中庭なども見れました。植物なども実に立派に手入れがされていて素晴らしい雰囲気です。
私「こうしたまちづくりはどんどん周辺に広がっているのでしょうか」
M先生「そこが問題です。最初のうちはデザイナーグループが認めなければ建築をさせないシステムが機能していたのですが、後代になり人も代わり開発が周辺部に及んでくると、容積をもっと取って儲けたいという要望が強くなり始めて、高層のマンションが建ち始めました。質の高いまちづくりを継続するには行政と住民を含めた継続した取り組みが必要なので、今まさにそれをやろうとしていますがね」
初期の先駆者たちが頑張って質の高いまちづくりを行っても、その周辺でその恩恵を貪ろうとする力学も働いてくるものです。自分たちは景観づくりにも貢献せずに、良質な景観の地域ブランドの恩恵を利用するのです。
こうして日本の街並みは乱れて行くのですが、M先生はそもそも日本人がコンクリートで出来た集合住宅に住むという文化を持ってからまだ50年なのだとおっしゃいます。
M先生「かつて『住宅すごろく』という言葉がありました。独身時代の小さな賃貸アパートから始まって、結婚して子どもが生まれ育つに従って大きな住居に移ってゆき、最後は郊外の一戸建てが上がり、というわけです」
私「そうですね、今でもあるのではないでしょうか。やはり最後は郊外の一戸建てに住みたいという希望は多いと思います」
M先生「そうですね。そしてその頃は集合住宅なんて一時の仮住まいという認識でしかありませんでしたが、今や集合住宅が終の棲家になる時代になったのです。こういう住居環境で生活をするという文化がもう少し育たなくては。それには、南向き一辺倒の考え方の転換も必要になるかも知れませんよ」
※ ※ ※ ※
幕張ベイタウンを見学してM先生と意見交換をしながら、これからの日本の住まいについて深く考えることが出来ました。
だだっ広い郊外に展開した戸建て住宅は人口減少と共に衰退が予想されています。コンパクトシティとはよく言われますが、その実現の方向性について興味深い示唆を得ることが出来ました。
日本人はどういう暮らしをすることになるのでしょうか。
【おまけ】
中庭に配置されたこのコンクリートの建物は集会場なんだそう、へー!