田村先生の交渉学の続き。お次はロールプレイの演習です。
ロールプレイというのは、ある状況を想定してその状況のなかの役割を演じる演習です。午前に学んだ交渉学を早速活かしてみようという練習をするのです。
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最初の演題は「日本画をめぐる交渉」です。このロールプレイモデルでは、一人が海外流出した価値の高い日本の障壁画を手に入れた画商になり、もう一人が美術館の理事長を演じます。
画商の側は、自分の絵を相手にできるだけ高く売りたいのはもちろんですが、これをきっかけに美術館と近づいて中期的なメリットを得たいと考えています。
また美術館の理事長側は、用意できるお金には限界がありますが少しは調整の余地もあり、できるだけ安く買いたいとは思いつつも海外の日本美術を集めたいという思惑もあります。
双方には互いが知っている共通情報の紙と、片方だけしか知らない秘密が書かれた紙の二枚が配られます。それを熟読してから双方の立場を演じるのです。
交渉を始めてみると、相手の思惑がどこにあるのかを探るのに結構時間がかかります。どうしても高くふっかける画商に対して、絵を欲しいと思いながらも「そんなにお金はありませんよ」と牽制するという交渉が続きます。たかがゲームなのですが、結構真剣に立場を守ろうとしてしまいます。
私は美術館の理事長の役をやりましたが、結局交渉は時間内に合意できませんでした。互いに「相手がどこまで本気なのかが結局読めなかった」という意見で、ゲーム終了後に互いの秘密の紙を見せ合って、それぞれの発言の裏情報を得てみると、相手の立場がよく分かります。
本当に真剣になるものですね。
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ロールプレイモデルの二つ目は「三国間人質交渉」という演題です。これは登場人物が三人でそれぞれ日、仏、米の交渉担当者という立場を演じます。
事態は、政情不安定のA国で、日、仏、米の大使がパーティを開いているところへA国の反政府ゲリラが押し入り、三カ国の大使が人質になってしまったという状況を想定しています。
ゲリラはアメリカに拘束されている仲間の釈放や人質の身代金、アメリカによるA国への軍事援助の停止などを求めていましたが、突然「1時間以内に建設的な回答がなければフランス大使を殺害する」と脅しをかけてきます。
そのため、三カ国の代表が集まって、実際に45分以内に互いの立場を考えながら合意をするということが求められるというものです。
テロには屈しないという原則を掲げすぐに軍の突入を主張するアメリカと、金は出しても武力行使には参加できず血は流して欲しくない日本、それにアメリカに主導権を渡さずに大使の命を助けたいフランスの思惑が複雑に絡みながらも、とにかく45分で三人が合意できる形にたどり着かなくてはなりません。これまた真剣になってしまいます。
これもまた共通情報と、各国だけの秘密の紙が配られてそれぞれの立場を主張しながらどこまで妥協が出来るのか、というシミュレーションをしました。
私はフランスの担当者役でしたが、あるときは日本と協調してアメリカの軍事突入を押さえ込み、またあるときはアメリカと協調して事態が膠着したときにはテロを許さないという原則の下に、軍事突入の可能性があることや身代金支払いを日本に納得させたりする主張を繰り返しました。
こうしたモデルを演じてみると、使える手段を多様に持っているところが強かったり、三カ国の合意が絶対に必要と言うことになると、案外お金を出すことしかできない日本にも立場を尊重しなくてはならず、日本の発言力が合意のための鍵を握っていることなどが分かってきます。
これもそれぞれの秘密をあとで知ると、予想だったり予想を裏切るような事実も明らかになります。
これらには正しい答えはないので、お互いがどういう形で納得をしたか、ということが鍵になります。改めて自分の主張だけでは3人を納得させてまとめることが出来ないとよく分かります。
これもまた力が入りました。
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田村先生はこのような講義やロールプレイを行う6つのカリキュラムを備えたコースも指導されていて、今日はそのミニ版と言ったところ。
そういう意味ではあくまでも入門編なのですが、その雰囲気の一端はよく伝わってきました。
ハーバード大学などではビジネスコースとして教えていたりもしていますが、実に興味深い世界があったものです。これを機会にこの分野も少し勉強を深めてみたくなりました。
目からウロコの一日でした。