先実、道内の道銀地域総研で「不確実性高まる今後の景気展開と政策運営」という特別経済ゼミが開催され、夜の勉強会でしたが参加してきました。
講師は、日銀から出向中の日本経済研究センター研究本部主任研究員である愛宕伸康さん。
現在の日本経済やアベノミクスの背景、そして世界経済の動向などについて縦横にお話をしていただきました。
まず講演のテーマの意味として、「日本経済は、12年度補正予算の効果や消費増税前の駆け込みにより、13年度中は高成長を続けるが、それらの反動が出る14年度はゼロ成長まで減速する。
そして、政府は追加補正で成長率維持を図ると見られるが、果たして消費増税に伴う物価上昇に日本経済は耐えられるのか?」ということを述べられています。
日本政府がどのような世界的な景気環境の中で日本経済をどのように導こうとしているのか興味深いものです。
まず「日本の景気と政策」については、安倍政権が誕生してからの金融政策をアベノミクスと呼んでいますが、具体的には、QQE(量的質的金融緩和)と呼ばれる大規模の金融緩和を行っていて、オリンピックの東京開催決定など、「安倍さんやはり何かを持っていると思う。経済学的な答えではないが、何かを持っているリーダーにはついて行った方が良い(笑)」と笑わせます。
当面の日本経済は、①海外経済の持ち直しや円高修正を背景とする外需の回復、②12年度補正予算の押し上げ、③株高・円高修正を背景とするマインド改善、④消費税率引き上げ前の駆け込み、などから高成長となり、実質GDP成長率は2.7%と12年度の1.2%から大幅に拡大する見通しであること。
しかし、14年度は上記②と④の反動が出るために、実質GDP成長率は0.2%に大幅に減速する。そのうえで、「平成14年度については不確実性が高い。消費税率引き上げの影響は、賃金が明確に上昇し『生産・所得・支出の好循環』が機能するかどうかで変わってくる」とやはり不透明感が否めません。
問題は賃金だ、ということを理解している人は多いのですが、なかなか賃金水準が上がることは考えにくい、という
【世界経済の見通し】
世界経済は、アメリカが牽引する形で緩やかに持ち直して行く、と見ています。
アメリカは、自動歳出削減、給与税減税の終了など、「財政の崖」の影響が徐々に薄れて行く中、住宅市場の回復が明確になり、シェール革命による生産性向上もあって、実質成長率は拡大して行くと予想しているのです。
一方、ヨーロッパは、欧州債務問題への取り組みが着実に進む下で、13年後半に向け緩やかに回復して行くものと考えています。13年の実質成長率は小幅なマイナスを余儀なくされるが14年にはプラスに転じると予想されるとのこと。
さて、中国ですが、「成長vs金融システム不安防止(シャドーバンキング規制)」という難しい舵取りの下で、当面景気減速が続き、実質成長率は政府目標である7.5%を下回るレベルまで下振れすると見ています。
中国では成長率7%前半にソフトランディングさせようと、公務員に対して倹約令を出し贅沢な浪費を取り締まるなど当局は相当神経を使っているのだそう。
ところでこの倹約令にはこんな笑い話があったそう。
習近平総書記が出ていたパーティの映像で、習氏の前のテーブルに料理の皿が四皿並べられていたことから、「パーティでも四皿までは贅沢ではないらしい」という話が広まり、パーティでも皿の数は四皿になったのだそうですが、それではやはり足りないということで、目の前には四皿でも次々に取り替えて回転させることで、足りるような料理を出しているのだとか。それでもとにかく五皿以上出すと、倹約令で取り締まりを受けるかも知れないという恐怖が浸透しているのがいまの中国らしいです。
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全体を通じた議論の前提は、緩やかな円安・株高・長期金利高の三点セットが続くだろうとしていることですが、何もハプニングがなければそうなると読めるのでしょう。
「ブラックスワン」という本を書いた、ニコラス・タレブという作家がいます。
タレブ氏はウィリアム・シャイラーというジャーナリストが、今の歴史では第二次世界大戦中という時代に書いた「ベルリン日記:1934ー1941」を読んで、あることに気がつきました。
「…シャイラーの本に出会って、歴史の仕組みについて直感的に分かったことがある。第二次世界大戦の始まりの頃を生きた人たちは、何か大変なことが起こっていると書き留めていたに違いない、今の人はそう思うかも知れない。でも、まったくそんなことはなかった」
何かが起きるときって予兆があるように思えますが、過去の歴史をさかのぼると、あれだけの世界大戦が起きようとしているときでも、人々は何かが起きているとは思わないようです。
世界の情報にもっと敏感になっていないといけませんし、逆説的ですが、敏感になってもダメなときはだめなのかもしれないし。
まあ精々勉強は続けておくことでしょうか。
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ところで、最後の質疑応答の時間に質問を一つしました。
「講師の愛宕さんとしては、消費税増税をすると景気が腰折れになるとお考えでしょうか。仮にそうだとしても、今消費税を上げないという選択肢があるとお考えでしょうか?」というもの。
それに対する答えは、「ある人は消費税は最後は25%くらいにしないと国全体の富の再配分はできない、という人もいるくらいです。計算上はどうしても増税前の駆け込み需要とその反動が出てくるので、増税の年はGDPが下がります。しかし私はそれが消費税を上げない理由にはならないと思います。逆に、国として国民に対して『反動でGDPは下がるけれど、それは想定の範囲内である』として、冷静な対応と未来への覚悟を促すようなメッセージを発する方が良いのではないか、と思います」というもの。
私もその意見には共感する部分が大きいと思いました。
いずれにしても、公共事業に携わる者として経済の問題や国の財政や福祉などにも広範な興味と勉強は欠かせませんね。
講師の愛宕さんは、割と早口で、専門用語をポンポン使ってそれを知っている前提でどんどんと話を進めるので、頭の中は情報を処理するのに必死に回転していました(笑)
そして、こういう興奮は東京っぽいとも思いました。こういうテンポで情報が交換され人が繋がってゆくのが東京なのだ、と。
久しぶりに東京を感じた反面、札幌の情報交換レベルの寂しさもちょっと残念に思いました。
たまにこういう勉強会に出るのは良いものです。