朝早く起きて6時半の電車に乗り池袋駅へ向かいます。
池袋で7時55分発上田行きの高速バスに乗り長野県へと出発です。風は身を切るように冷たい冬の一日ですが、天気は快晴、関東の冬は明るくて良いですね。
バスが高速に乗ったところでもう渋滞気味。天気の良い週末ですから、長野や新潟方面へのスキーリゾートの車が多いみたい。
上田には予定時間から10分くらい遅れて到着しましたが、接続の電車の時間までには余裕があったのでこれは大丈夫。今日の目的地のしなの鉄道戸倉駅には12時10分に到着です。
※ ※ ※ ※
会場に着くと、昔お世話になった懐かしい人たちの顔が見えます。その一方で、一緒にダイビングをした人たちの姿はあまり見られずちょっと寂しい思いも。これも時の流れでしょうか。
今日の午後は、NPOの研修会でこの一年間の活動や日頃の研究の成果の発表会が行われました。
今年で80歳になる蝶に関しては誰もが一目置く市井の蝶研究家のHさんは10年前と変わらずに、若々しい講演を聴かせてくださいました。
「蝶は彼らが生息できない道路、線路、住宅地といった大きな裸地の空間があると移動が出来ません。オオムラサキという蝶を調べてみると、生息地の山から川べりのエノキの群落へ移動するときに、山裾から川の群落までの距離が500mに達するともう渡れないのです」
「しかしそんなときでも、その途中にちょっとしたケヤキの林があるとそこで一度産卵をして、翌年にその子供が川縁へ移動するという現象も見られます。こういうのをビオトープネットワークと言いますが、こういう現象を一つ一つ積み上げていって、彼らが行動を広げられるような社会にして行かないといけません」
「ゼフィルスと呼ばれるシジミチョウの仲間は体が小さくて行動範囲が小さい種類があって絶滅の危機に瀕していますが、その中には、高い山の上流域で河川が1年や2年の間に氾濫をして河原の草を根こそぎ流してしまい、そこに生えてくる背丈の低い草を食草にしているものもあります。こうした蝶のためには砂防工事で土砂を止めてしまうことはマイナスに働くこともあります。そうしたときには河原をひっくり返すなど、洪水に似た環境を人工的に作ってやらなくてはなりません。難しいものですね」
飛ぶ蝶の影を見ただけで蝶の名前を言い当てるとまで言われた伝説の研究家のHさんの、するどい眼力をまた見せて頂きました。
※ ※ ※ ※
夜はみんなで宴会。昔は夜遅くまで飲んで、近くのうどん屋まで食べに走ったものですが、もうそこまでする人はいませんでした。
この席には、国の河川行政の先輩お役人のKさんも参加してくれましたが、この方も同じようなシンパシーでこの会を温かく見守ってくれている方です。
このKさんは、河川事務所の所長をしていたときに一つのエピソードがあります。それは、河川事務所が木で櫓を組んだ木工沈床という装置を川に沈めて、こういう魚の隠れ家があると川魚が寄りつく、ということを主張していたときのことでした。
Kさんがこの会の人たちと「本当に木工沈床を設置したら魚が寄りつくのか」と問答になったときに、「それなら実際に潜って調べてみよう」ということになり、ダイビングの免許を取って、会のダイバーたちと一緒に潜って木工沈床の中の様子を見たのだそうです。
「その結果はどうでしたか?」と私。するとKさんは「確かに魚はいるんだけど、いるのは陸側からの水がしみ出して湧いているようなところに限られていたんですよ。ビオトープだと言って、隠れ家になるような装置があれば魚はすぐに住み着くと思っていたけど、やつらはやつらで気持ちの良いところにしかいなかったというわけだね。いやこの目で見てよく分かったよ」とのこと。
河川行政が生態に配慮するようになったとは言え、河川を仕事にする人で、ここまで気持ちを入れている人はそうはいないと思います。探せば人はいるものです。
すごい人たちと一緒にいると力が湧いてきますね。穏やかな飲み会で懐かしい昔話に花を咲かせたひとときでした。