利尻富士には山頂に雪が見えますが、今日やっと稚内の気象台が利尻富士の初冠雪を認めたそうです。冬も近いかな。
さて昨日からの利尻島出張、今日は利尻島で山岳ガイドをしながら利尻島の魅力を発信している渡辺敏哉さんを訪ねてお話を聞きました。
渡辺さんは利尻島出身で、高校で旭川へ出てその後就職しましたがサーフィンがやりたくて神奈川県に住み、2003年に利尻へ戻ってきました。実家が民宿を始めていたということでそれをベースに山岳ガイドを始めます。
冬山登山もやるなかでバックカントリーというアクティビティが面白いことに気がつきました。バックカントリーというのは直訳すれば「裏山」ですが、具体的には山岳斜面に自力で登ってスキーやスノボで滑り降りるという野性味あふれる冬の遊びのこと。
もちろん雪さえ降れば北海道ならばどこでもできそうですが、利尻島は急峻な山が海に浮かぶ丸い島なので、北風ならば南斜面で、西風ならば東斜面でと天気や風向きが悪くてもどこかになんとか滑ることのできる斜面があるということや、どこから滑っても海に向かって滑り降りることになるという絶対的に珍しい条件が揃っていて、それが少数とはいえマニアには憧れのフィールドになりつつあるというのです。
「"りしりあ"という利尻島の水をペットボトルで売っていますがその写真を見て『ここは一体どこだ?ここで滑りたい!』と衝撃を受ける人がいるんです」と渡辺さん。
【りしりあ】
「日本のスキーヤーはリフトのあるゲレンデで滑ることが常識ですが、ヨーロッパの人たちなどは『どうしてそんなところで滑るの?なぜ自然の中で滑らないのか?』とスキーを地球を歩く道具だと思っているような全く違ったマインドを持っています。かつてはそんなバックカントリーの楽しみは長野県の白馬が人気でしたがそれがニセコへ移ってきていよいよ利尻も増えてきました」
「その変化の要因は何ですか?」
「まずは雪質です。北海道のパウダースノーは圧倒的に人気で"Japan+powder"デ"Japow(ジャパウ)"で通じるほどになっています。そしてヨーロッパの人たちは混んでいるのが好きじゃないので空いていて面白そうなところ、というのでニセコからこちらに目が向いてきているんです」
「しかし余程の物好きですね(笑)」
「ええ確かに(笑)。でも相手にするのはごく一部のマニアックな人たちかもしれませんが、世界中にはそんな物好きが沢山いて、しかも『絶対利尻で滑りたい』と思ってくれる人がいるのですから、これからは冬の利尻を目当てに来る人が必ず増えると思います」
「来る人も増えていると」
「ここ五、六年で急に増え始めました。最初は誰も利尻島でバックカントリーができるなんて知らないので、まずは日本のスキーガイドの仲間に声をかけて利尻へ来てもらって実際に滑ってもらいました。そうしたところ、だんだんに仲間が仲間を呼んで来るという感じですね」
そんな利尻の冬山のバックカントリーの楽しさを伝える動画がありますかと訊いてみると、ご自身がアップした動画とウェアメーカーのフェニックスが利尻島で撮影したビデオがあるとのこと。これは奇麗で魅力的に撮られています。
【NORTE RISHIRI TOUR 2013】https://vimeo.com/62685740
【Phoenix ウェブマガジン エピソード11 利尻】https://www.youtube.com/watch?v=dmRCaUWLWVU
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渡辺さんに、ガイドの苦労や課題を訊いてみました。
「一人のガイドで案内できる数ってそう多くはないのでしょうね」
「ええ、一人のガイドで5人くらいまでですね。それで僕が一人でやる分には来たい日がかぶったりすることもあってそういうときは日をずらしてもらいます。本当はもっと案内してあげたいのですが、なにしろ利尻島はおろか日本にもまだ山岳ガイド、それもスキーガイド・ステージⅡという資格を持っている人はまだ少ないので、いかにガイドを増やしてあげるか、彼らがガイドをしながらちゃんと生活していけるか、というところが課題ですね」
最初からガイドとして生活していけるというのはなかなかリスキーな生き方のようにも見えます。
私はこうした過疎の地域が活性化のための人材を活用するためには、「多能工でなくてはならない」とずっと考えています。
観光などで人を呼ぶためにはガイドが必要ですが、そのガイドだって公務員の土・日ガイドのような人材活用の仕方があるのではないかと思います。
公務員は基本的にアルバイトは禁止ですが、アルバイトとしてではなくて地域活性化のための能力の限定的な活用という位置づけで、地方自治体などで認めてあげることはできないでしょうか。
基本的な生活の糧は公務員として得つつ、週末や自分の時間の中で地域の観光振興などに寄与しいくばくかのガイド料は認めるということは行政や地域で認めれば可能なように思えます。
人口減少に悩む地方にとっても人材活用方法として、地方創生の観点から幅広で多様な考えを柔軟に採用してほしいところです。
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今のところ冬のバックカントリーガイドは、本州の他の地域のガイド仲間が自分でお客さんを連れてくるということが多いとのことですが、今後外国からピンポイントで『利尻でガイドしてほしい』というようなニーズが高まればなお一層ガイドの養成や交流が急がれることでしょう。
丸い島利尻島の冬の魅力はますます磨かれつつあるようです。