今日は、釧路市域内循環推進事業者の認定式がありました。
これは市が唱える、域内循環のビジョンに賛同し、それに向けた活動をすることを誓うという事業者さん達に対して、市から推進事業者として認定をするというもの。
今回は39の事業者が認定され、そのうち約半数の代表が出席して認定証が手渡されました。
雇用、地域内資源の利用など、事業者が協力できる分野は幅が広く、こうした考え方をなお一層宣伝に努め、賛同者を増やして行きたいものです。
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さて、その認定式にちょうど阿寒町にある(株)北泉開発の曽我部社長が来ていました。
曽我部さんは阿寒町で、罠で捕獲したエゾシカを飼う養鹿牧場と、シカ肉を加工するグリーンファームという施設をもっていて、シカ肉を食材として供給する事業を行っています。
実は今書きかけの本の中にも、「昔は日本人はシカ肉を食べていた」というテーマで一文を起こしているのですが、内容が現時点で変ではないかというチェックをお願いしていたのです。
ちょうどその返事が返ってきたところで会えたので、ついでに最近のホットな話題について教えてもらいました。
「原稿をチェックしていただいてありがとうございました」
「いえ、良く書けているのでいじることはないのかな、と思いましたが、背景などを理解されたうえで書くのとそうではないのではニュアンスが変わるかな、と思って、情報を送りました」
「ありがとうございました。その後、シカ肉の販売はいかがすか?」
「おかげさまで、少しずつ安定的な引き合いが来るようになりました。何よりも、シカ肉を食べるという食文化が少しずつ戻っているような気がします」
「そうですか。いつかのシンポジウムでも、釧路短期大学の西塔学長が、『江戸時代も食べていたのに、明治期に30年ばかり食べない時期があって、その間にブタ、トリ、ウシが入ってきた』と言っていましたもんね」
「シカ肉をやるつもりだ、と前の公立大学の小磯学長にご相談したら、『人間の一番保守的な部分は何か分かりますか?』って謎をかけられました」
「保守的な部分って何ですか?」
「それはね、『食文化』なんだそうです。今まで食べたことのないものを食べるようになる、とか、食べていたものを食べなくなるって事は人間にはものすごく抵抗があるらしいんです。だから小磯先生は『一度消えたシカ肉の食文化を復活するというのは大変だと思いますよ。まあ気長におやりなさい』とおっしゃっていました」
「今年でシカ肉の事業は何年目でしたか?」
「ちょうど10年ですね。最近はコンビニがシカ肉バーガーの材料として養鹿のシカ肉を指定してきたり、ペットフードの缶詰としても人気が出てきたり、使われる先が少しずつ多様になって増えてきている感覚があるんです」
「グリーンファームでは、年間何頭くらいシカを処理しているのですか?」
「ハンターが持ち込んでくるシカが1000頭、養鹿牧場から持ち込むのが500頭、合計1,500頭ですね」
「ハンターが持ち込むのは、ちゃんと頭を撃ったものだけですか?」
「ええ、一見のハンターのモノは引き受けていません。普段からお付き合いがあるハンターさん達に、『首から上を撃ったものだけだよ』と言って、そういうものを引き受けます。そうしたら一頭いくらでハンターさん達にもちゃんと経済が回りますから、彼らも真剣に獲ってきてくれます」
「そこでできる肉は売られて、人びとの胃袋を満たして、森からはシカの被害が消える、というのは良いシステムですね」
「そうなんです。今は年間13万頭のエゾシカを駆除していますが、そこから出る肉の量なんて、計算したら、道民が年に2回か3回のハンバーグやステーキで食べるくらいなものなんですよ。だから道民に、シカ食文化が戻れば、それだけでシカ肉の流通は回るというわけです。もうちょっとですよ」
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ブタ、ウシ、トリ肉に慣れた我々の舌を、シカ肉に向けさせるのはなかなか大変だが、年に一、二度でよいからシカ肉を食べるイベントがあると良いのです。
「小松さん、ドイツでは、『お祝い事の時にシカを食べる』のだそうですよ。日本もそういう食文化が定着すると良いですね」
肉を選ぶ時に、家畜だとただ安いだけだが、ちょっとお高いしか肉に、「その一口が森を守る」なんて書かれていたら、シンパシーが湧かないでしょうか。
なにも森まで行って間伐をしたり手入れ作業のボランティアをするまでもありません。レストランでシカ肉料理を注文したり、シカ肉を使った料理を楽しめばよいのです。
流通ルート→販売店・レストラン開拓→食文化の定着→エゾシカ肉欲しい→流通ルート…というこのループがどんどん回転すると良いですね。
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やっと、本の原稿を全て出しました。この後は使う写真や図のの送り込みと、版を組み上げてもらった後に修正点の再校正が待っています。
まだ気が抜けず、考えたくないサボりたい脳と戦って、いろいろな方のご協力で完成めがけて一歩一歩前へ歩んでいます。