今夜は札幌市内の会議場で、都市計画学会の都市地域セミナーが開かれました。
セミナーのテーマは「ガーデンツーリズムによる観光とまちづくりの可能性」と題して、昨年上川町を中心に開催された『北海道ガーデンショー2015』の名誉ディレクターを勤めた高野ランドスケーププランニングの取締役会長である高野文彰さんに講演をしていただきました。
様々なガーデン作家が作品を競い合う北海道ガーデンショーは、2012年に帯広千年の森を会場に初めて開催され、昨年の上川町は二度目の開催です。
高野さんは、世界を股に駆けて空間デザインのコンペに参加して高い評価を受けてきたランドスケープアーキテクチャー(景観造形家)です。その高野さんは、「帯広でガーデンショーをやってくれないか」という相談を受けたときに、最初はいやだったのだそう。
それは、対象が庭という小粒なものになることが、自分が嫌がってきた建築作品の後始末的なものになってしまうのではないか、という危惧と、もう一つはガーデンショーというイベントそのものがせっかく作った庭を短期間だけ展示して終われば壊してしまうようなもので、評価の指標も何人の来場者がいたか、という数字でしかないようなものをむなしく思っていたからだ、と高野さんは言います。
「じゃあそうでないものを作ればいいじゃないか」と言われてやってみるきになったのが、第一回目の千年の森でのガーデンショー。
しかしその背景には、2004年から、「北海道を美しい庭園の島にしよう」という民間の有志やガーデニング愛好家が結集した「ガーデンアイランド北海道(通称GIH)」という活動が継続して行われていて、美しい庭を求める機運が高まっていたことも感じていました。
そして「よし、庭園を文化として価値あるものにするために、GIHの運動にもう一つのエンジンをつけてみよう」として、ガーデンショーを企画することになりました。
結果として帯広のガーデンショーでは会期中に20万人の来場者を向かえ、造られた庭は千年の森の中に残されることとなり、旭川から富良野を経由して十勝へと向かう道路はガーデン街道と呼ばれて、庭園観光のメインルートとなるなど大成功を収めました。
第二回目は、こうした動きに注目しており、人口減少に苦しむ人口四千人の町、上川町が名乗りを上げて、同町に整備が進められていた大雪森のガーデンを主会場として開かれることになりました。
今回のガーデンショーは会場を三ヶ所とし、本格的なガーデンとして上野ファームを位置づけ、自然がはぐくんだ雄大なガーデンとして大雪山の高地のお花畑そのものを第二会場とし、その大雪山を借景というにはあまりにも雄大な景色に溶け込んだ庭としての大雪森のガーデンをメイン会場としたのでした。
会期中は悪天候に見舞われて、来場者数は予想したほどには伸びませんでしたが、多くの上川町民の支持と協力を得て、地域が誇る「ウチの庭」として定着したといいます。
周辺の観光事業者や鑑賞ツアー、さらに関連の飲食やお土産などの経済効果は約60億円と試算されましたが、経済効果に加えて地域の住民の誇りにつながるまちづくりの実践としても評価される取り組みになったことでしょう。
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今日、世界には十カ国が参加する国際ガーデンツーリズム協会(IGTN)という組織があって、ガーデンとツーリズムを融合した『ガーデンツーリズム』を積極的に進めています。
昨年の大雪でのガーデンショーは、この協会で「今年最も注目すべきガーデンショー」として表彰を受けましたが、今注目されている「特別なテーマを持つツーリズム」の一つとしても、庭園めぐりは注目されるコンテンツになりうるということなのだと思います。
雄大な北海道の風景ですが、すぐには入ってゆける優しいものではなく、本格的にチャレンジするかあるいは遠くから眺めるくらいしかなかったところが、その差を縮めるような庭園という北海道の新しい文化。
日本庭園でもなく、北海道らしい庭園という提案は北海道観光のコンテンツを重層的なものにしてくれると期待しています。
さあ雪が解けたら、庭園めぐりのドライブはいかがですか。