様々な商品企画や界隈整備の企画に携わり、手がけたものをことごとく成功させてきた、伝説的なプロデューサー、それが浜野安弘さんです。
浜野さんは自分のことは「ライフスタイル・プロデューサー」と自称していて、それはつまり自分自身の生き方から物事を考えようと言う姿勢を表しているようにも思われます。
以前、掛川でスローライフ活動の中心となっている一人のSさんと、電話で「今新宿のこれまでのまちづくりを反省して、人とふれあえる高層ビルってどんななのだろうと考えているんですよ」と言ったところ、「それなら浜野さんの本を読むと良いですよ、送りますよ」と送ってくれたのが、この『人があつまる』という本でした。
実はSさんはこの浜野さんと親交が厚く、そのおかげで週末の掛川のイベントにも応援に来てくれていて、そこで私も会うことができたのでした。本を読んでいたので感動もひとしおで、これを機会に今度は青山の事務所をお訪ねしようと思っているのです。それもまた楽しみ。
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この『人があつまる』は、実は30年前にベストセラーとなった同名の本の復刻版です。しかし30年前にほえまくっていたことが今となってはことごとく当たっているのですから、改めてこの本の価値を感じることになったのです。
この本の中で紹介されているのが、実は浜野さんもこの新宿の初期の立ち上げの際の委員会に弱冠28歳の最年少委員として参加していたという思い出です。
そのときに「こんなプランではよいまちはできない」とマスタープランに異議申し立てをしていたのが、浜野さんともう一人、当時三井不動産の社長であった坪井東さんだったといいます。
浜野さんは新宿のマスタープランに五項目の反対意見を述べていたのですが、その二番目は「公開空地と高層ビルを野放しにして、公共街路との関係を無視したこのプランは、人間のアメニティー及び商業を無視した都市計画であり、したがって歩行者には全く面白みのない、すさんで、間延びしたまちになってしまうであろう。少なくとも、私有地が沿道に接する部分は、公と私が協調してコモン・スペースを創り、ストリートライフを提供すべきである」となっています。まさに今の新宿に欠けているものが指摘されているのです。
そしてこのとき、同じくマスタープランに反対を唱えた坪井さんだけが『私の意見を新宿三井ビルに採用し、街に開かれ、沿道とのコモンな関係を実験させてくださったのである。』とも書かれています。
そこで外出先から帰ってくる際に、この新宿三井ビルの開かれた空間を見学してきました。
新宿は歩行者空間と車道が立体交差になっているのですが、その高い方から近づいてみると、地下空間になった部分はまさにカフェの様相です。これを浜野さんは言い続けていたんだな、と思わせる空間ができあがっています。
丸い椅子に思い思いに座るお客さんたちがいます。そして店の回りにはコーヒーやサンドイッチを注文できるお店が張り付いています。そしてここは新宿の地下の道路からも入りやすい構造になっていて、沿道とビルとの心地よい共同空間が演出されているのです。
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せっかくこうした良い事例もあるのですが、他のビルの一階部分に広がる空地は、ただ緑にしたり、ただ舗装にしたり、通路にしたりと、あまり人との触れあいやそのスペースの利用について考えられているとは言い難い状態です。なるほど、浜野さんが頭に来るのも無理はないなあ、と思わせます。
わずかにわが新宿アイランドビルの地下の円形広場が、浜野流のカフェの香りを漂わせているようです。
私有物であるビルのプライベートな空間と、みんなのものであるパブリックな空間をどのように共有できるかをもっと考えるべき時代になったのではないでしょうか。
都市空間をもっと人間のものに、もっと楽しい空間にしたいのです。