知人のAさんを誘ってお昼にイタリアンレストランに行きました。
ちょっと小洒落た感じのレストランで、ここの料理人は世界ピザ大会で日本人として一位を取ったこともあるということで、本格的なイタリアンが楽しめるのです。
でも今日はピザよりはパスタ気分だったので、パスタメニューからチョイスしよう問う事にしました。
ところがこのAさん、「僕は実は本格的なイタリアンよりも、昭和なナポリタンが食べたいんだな。でもこういう感じのお店だったらそんなメニューはないよね」というワガママを言い出しました。
仕方がないので、かわいらしい女性スタッフに声をかけて「実はかくかくしかじかというわけなのですが、そんな昭和なナポリタンなんてないよねえ」と言ってみると、「あら、そうですか。たぶんできると思いますが、一応調理担当に確認してきますね」という対応。
(え?作れるの?)と、驚いたのもつかの間、件の女性スタッフが返ってきて、「作れると思いますので、どうぞご注文下さい」とのこと。
「へー!じゃあお願いします。昭和風味でね(笑)」
待つこと10分。注文の品ができてきました。
熱々の麺にトマトと粉チーズがたっぷりかかったパスタが登場です。
【写真はイメージです】
「やったー、いいぞ」 そう言って、一口二口食べたAさん。
「どうです、お味は?」と訊くと、ちょっと苦笑いをしてひと言、「んー、細いアルデンテのパスタ(笑)」
昭和のナポリタンのイメージは、太い麺が茹ですぎたくらいに柔らかく、そこにケチャップとウィンナーと玉ねぎがたっぷり、というのが彼のイメージで、さすがにちょっとイメージが違いましたか。
「美味しいんだよ、美味しいの。でもね、昭和のナポリタンじゃないんだなあ(笑)」
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完食をしてコーヒーを飲んでいると、いろいろと労を取ってくれた女性スタッフが調理したという男性スタッフと一緒にやってきて、「いかがでしたか?」とにこやかな笑顔。
「うん、美味しかった。でもね、昭和の喫茶店のナポリタンじゃなかったね(笑)」
そこで私も、「ケチャップをたっぷりかけてくれれば良かったかなあ」というと、「申し訳ありません、うちのお店にはケチャップを置いていないんです」という衝撃の告白。
「あ、そうなの?さすがは本格イタリアンのお店だね」と皮肉でもなく感想を述べると、「ご希望がそうであれば、近隣の系列の店からケチャップを取り寄せて、昭和のナポリタンを作るようにします。それで、今回の経験を次に活かしたいので、ぜひお名前を教えていただけますか?」
Aさんも、「それじゃあ」と名前とメニューを出されたカードに書き込んでおりました。新しい隠れメニューの誕生です。
名前を書き込んだ後に、「でもあなたたちは、昭和生まれじゃないでしょう?」と訊くと、女性の方は平成生まれでしたが、男性の方は「僕は昭和62年生まれです。ぎりぎり昭和です(笑)」と応えてくれましたが、「でもそれじゃあ昭和の味は覚えていないね」と一同笑って和やかになりました。
美味しく料理をいただいて、お店から帰る道すがら、Aさんに「次にここへ来ると昭和のナポリタンが食べられますよ」というと、「ははは、本当は昭和のナポリタンを注文したらそれが出てくる喫茶店を知っているんだよ。でも次回ここへ来たら、ピザとか他の品を注文しずらくなったねえ」と言うので二人して笑いました。
さてさて、昭和は遠くなりにけり、です。