ロマン・ポランスキー監督がヤスミナ・レザの舞台劇を映画化した「おとなのけんか」。これが滅法面白い、大人の映画になっていて、見落とさないようにお勧め。時間が短いのもいいですね。1時間19分。
セリフのある俳優はたった4人。二組の夫婦のみ。場所も一方の夫婦のマンション。ほぼそこに限定された映画である。いかにも舞台劇の映画化で、そういう時にはセリフの応酬は面白いが、時空を超えていける映画の特性が生かされないで終わる場合も多い。でもこの映画は、カメラが始終動き回り、細かいカット割りをして、クローズアップをうまく生かすなど監督の才気が生きて、映画化が成功している。
この戯曲は「大人は、かく戦えり」の題名で日本でも昨年上演された。僕は見ていないが、評価は大変高かった。日本のキャストは大竹しのぶ、段田安則、秋山菜津子、高橋克実の4人。映画では、ジョディ・フォスター、ジョン・C・ライリー、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツの4人になる。どちらも最初の二人が「被害児童の親」、後者が「加害児童の親」。ジョディ・フォスターはもちろん「羊たちの沈黙」でオスカー。(「告発の行方」と2回受賞。)ケイト・ウィンスレットは「愛を読む人」(「朗読者」の映画化)でオスカーだが、「タイタニック」の彼女と言う方が判りやすいか。クリストフ・ヴァルツと言う人はオーストリアの俳優だけど、タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」のナチス将校役が抜群で、カンヌ映画祭男優賞、アカデミー賞助演男優賞と言う人。ジョン・C・ライリーと言う俳優は受賞はしていないが「シカゴ」で助演男優賞にノミネートされている。そういう芸達者が応酬を繰り広げるさまは、まさに圧巻。
ことは「子供のケンカ」である。一方が公園で棒でなぐってもう一方の歯を二本折った。ということであるらしい。せりふでしか説明されないけど。で、加害児童の親がそろって謝罪に訪れる。初めはおとなしく良識的に始まったかに思われるのだが、ハムスターだのなんだのいろいろからんできて、つい長居してしまい、だんだん収拾がつかなくなる。ヴァルツにはひっきりなしに携帯電話がかかってくるが、弁護士で薬害問題を抱える製薬会社に悪知恵をつける仕事らしい。これが皆をいらつかせ、ついには妻が切れてしまうあたりでケンカも最高潮に達する。夫婦のケンカのはずがが、夫どうし、妻どうしの結託も起こり、それぞれの本性が丸裸になっていく。みなインテリで良識的だったはずが、その仮面の下が見えてくる。
映画ならではのシーンが連発して場内は笑いが絶えない。なんだ、これと言う感じだが、不思議に後味は悪くない。取り繕ったタテマエの話より、ホンネは常に面白いと言うことか。人間の生の姿は、美しいだけではないが、それでもどこか可愛らしいということか。
ロマン・ポランスキー監督は、去年公開の「ゴーストライター」がキネマ旬報ベストワンになった。僕はそれほど優れているかなあと疑問もあるが、「戦場のピアニスト」と並んで21世紀に2度のベストワン監督になった。ポーランド生まれのユダヤ人、母はアウシュヴィッツで死亡。共産党治下のポーランドで評価されず、イギリスに渡るがハリウッドに呼ばれ、女優シャロン・テートと結婚するも、1969年カルト殺人者のチャールズ・マンソンに妊娠中の妻を殺される。1977年にジャック・ニコルソン邸で13歳の少女と性関係を持ったとして逮捕、起訴。保釈中に映画撮影と称してヨーロッパに出国し、未だにアメリカに帰れない。2009年にはスイスで身柄拘束されるなど、アメリカからは逃亡犯扱いを受けているという、波乱万丈すぎる人生を送っている監督である。普通の人生の何十倍も濃い。
僕個人の好みを言えば、70年代の「マクベス」「チャイナタウン」「テス」あたりが最高傑作ではないかと思うのだが、最近の映画も演出や編集のうまさにはうならされる。小品だが傑作。
セリフのある俳優はたった4人。二組の夫婦のみ。場所も一方の夫婦のマンション。ほぼそこに限定された映画である。いかにも舞台劇の映画化で、そういう時にはセリフの応酬は面白いが、時空を超えていける映画の特性が生かされないで終わる場合も多い。でもこの映画は、カメラが始終動き回り、細かいカット割りをして、クローズアップをうまく生かすなど監督の才気が生きて、映画化が成功している。
この戯曲は「大人は、かく戦えり」の題名で日本でも昨年上演された。僕は見ていないが、評価は大変高かった。日本のキャストは大竹しのぶ、段田安則、秋山菜津子、高橋克実の4人。映画では、ジョディ・フォスター、ジョン・C・ライリー、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツの4人になる。どちらも最初の二人が「被害児童の親」、後者が「加害児童の親」。ジョディ・フォスターはもちろん「羊たちの沈黙」でオスカー。(「告発の行方」と2回受賞。)ケイト・ウィンスレットは「愛を読む人」(「朗読者」の映画化)でオスカーだが、「タイタニック」の彼女と言う方が判りやすいか。クリストフ・ヴァルツと言う人はオーストリアの俳優だけど、タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」のナチス将校役が抜群で、カンヌ映画祭男優賞、アカデミー賞助演男優賞と言う人。ジョン・C・ライリーと言う俳優は受賞はしていないが「シカゴ」で助演男優賞にノミネートされている。そういう芸達者が応酬を繰り広げるさまは、まさに圧巻。
ことは「子供のケンカ」である。一方が公園で棒でなぐってもう一方の歯を二本折った。ということであるらしい。せりふでしか説明されないけど。で、加害児童の親がそろって謝罪に訪れる。初めはおとなしく良識的に始まったかに思われるのだが、ハムスターだのなんだのいろいろからんできて、つい長居してしまい、だんだん収拾がつかなくなる。ヴァルツにはひっきりなしに携帯電話がかかってくるが、弁護士で薬害問題を抱える製薬会社に悪知恵をつける仕事らしい。これが皆をいらつかせ、ついには妻が切れてしまうあたりでケンカも最高潮に達する。夫婦のケンカのはずがが、夫どうし、妻どうしの結託も起こり、それぞれの本性が丸裸になっていく。みなインテリで良識的だったはずが、その仮面の下が見えてくる。
映画ならではのシーンが連発して場内は笑いが絶えない。なんだ、これと言う感じだが、不思議に後味は悪くない。取り繕ったタテマエの話より、ホンネは常に面白いと言うことか。人間の生の姿は、美しいだけではないが、それでもどこか可愛らしいということか。
ロマン・ポランスキー監督は、去年公開の「ゴーストライター」がキネマ旬報ベストワンになった。僕はそれほど優れているかなあと疑問もあるが、「戦場のピアニスト」と並んで21世紀に2度のベストワン監督になった。ポーランド生まれのユダヤ人、母はアウシュヴィッツで死亡。共産党治下のポーランドで評価されず、イギリスに渡るがハリウッドに呼ばれ、女優シャロン・テートと結婚するも、1969年カルト殺人者のチャールズ・マンソンに妊娠中の妻を殺される。1977年にジャック・ニコルソン邸で13歳の少女と性関係を持ったとして逮捕、起訴。保釈中に映画撮影と称してヨーロッパに出国し、未だにアメリカに帰れない。2009年にはスイスで身柄拘束されるなど、アメリカからは逃亡犯扱いを受けているという、波乱万丈すぎる人生を送っている監督である。普通の人生の何十倍も濃い。
僕個人の好みを言えば、70年代の「マクベス」「チャイナタウン」「テス」あたりが最高傑作ではないかと思うのだが、最近の映画も演出や編集のうまさにはうならされる。小品だが傑作。