尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「大阪都構想」への疑問①

2012年06月26日 23時28分10秒 | 政治
 続いて「大阪都構想」への疑問点である。東京から見ていて、この「大阪都」というのは、なんだか錯覚に基づいた「壮大な誤解」なのではないかと感じてしまう。大阪は西日本の中心だから、東京が大災害に見舞われても大丈夫なように、機動的に動ける態勢を作っておくことは大切である。近年は、日本内部の東京一極集中、中国経済の成長などで、阪神地域の経済的地位が落ちてきていると言われる。だから、大阪の経済発展のためにいろいろと考えて見るのはいいと思うけど、東京に経済が集中するのは、別に「東京都」制度があるからではないだろう。単に「首都」だからではないかと思う。

 まず、今言われている「大阪都構想」というのはどういうものだろうか。「政令指定都市である大阪市・堺市と大阪市周辺の市を廃止して特別区とし、特別区となった旧市の行政機能や財源を「大阪都」に移譲・統合する」ということらしい。「大阪府と大阪市の二重行政の解消」ということが目的としてよく言われる。具体的な区の数は、大阪市を8程度、堺市を3つ程度、豊中、吹田、門真、東大阪など周りの市も組み込んで、20区程度にするという案もある。はっきり言えば、大阪市と堺市の解体である。

 都道府県の立場から見れば、「政令指定都市に取られていた権限を、都制度で都道府県に取り戻せる」ということになる。それが「二重行政の解消」ということなのだろうか。住民に一番身近な基礎自治体の権限が大きい方がいいんではないだろうか。大阪市民にとっては、よりによって、政令指定都市の市民から、特別区の区民に「身を落とす」ことが改革なんだろうかと僕は疑問を持つのである。
 
 道州制のところでも書いたけれど、日本の政治制度はどこに住んでいても、国、都道府県、基礎自治体の三段階になっている。だから、議員選挙は、国会議員、都道府県議会議員、市町村(区)議会議員の三つが行われている。国政は議院内閣制だけど、地方自治は直接首長を選ぶ選挙だから、都道府県知事と市町村(区)長の選挙も行われている。(なんと、1975年まで東京特別区の区長は選挙で選ぶことができなかったんだけど。)「東京都」も「大阪府」も「大阪都」も、地方自治の大きな仕組みはみな同じ。ただ、都道府県と基礎自治体の大きさと権限が変わってくるだけである。

 基礎自治体の中で、一番権限が大きいのは「政令指定都市」である。具体的には細かい話になるから書かないが、政令指定都市になると、都道府県から権限を委譲されて普通の市以上の権限を持つことになる。2012年に熊本が指定されて、全国に20ある。一方、基礎自治体の中で一番権限が小さいのが「東京特別区」である。一応、近年では「市並み」になってきたものの、普通の市が持っている権限でも都に握られたままになっていることもある。「特別区長会」が組織されていて、都に対しずっと権限の委譲を主張してきている。具体的には細かい話になるので省くが、東京都民はもう慣らされてしまって、「区の権限拡大」などという問題を忘れている人が多いと思う。戦時中に「中央集権」を進める目的で、ドサクサまぎれに「東京市」を廃止され、以来「東京市というものがあった」ということさえ忘れている。

 東京では、周辺「区」に住んではいても、仕事や娯楽、ショッピングは都心の中心部に行くということが多い。だから「基礎自治体」ではあるけれど、区への帰属意識があまりなく、区長選挙や区議会選挙にも無関心な人がけっこう多い。(もっとも大都市部では国政選挙の投票率も高くないけど。)そういう状況を考えると、大阪市議会と堺市議会を解体して、10いくつかの区議会を新設して、より地方自治意識が向上するんだろうか。現在の議員数は、大阪は86、堺は52で、合計138。大阪、堺市域だけで、10以上の区を作るんだから、新設の区議会議員の合計が138を超えるのは間違いない。ちなみに東京23区議会には、911人の区議会議員がいる。人口により25人から50人の議員数になっている。東京の特別区は、戦後すぐから議会があったけど、政令指定都市の区は行政だけで議会はないから、特別区にすると議会場から始めて施設も仕組み作りも全部新しくやらなければならない。その上で、それまでは「大阪全体の未来を考える」という選挙だったのが、「特別区だけの選挙」になるわけで、投票率なんかで苦労するんじゃないか。区議会議員が増えただけ、というのが「大阪都」の未来でなければいいんだけど。
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