尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「道州制」への疑問

2012年06月25日 21時30分39秒 | 政治
 地方自治の制度論は難しくて判らない点も多いけど、少し考えてみたい。「大阪維新の会」では、「大阪都」を実現した後で、「道州制」を目指すと考えているらしい。「大阪都」論は長くなるので、まず「道州制」への疑問から。「道州制」という考えはかなり前からいろいろと出されてきている。日本の地方行政改革のアイディアであり、中央集権国家のあり方を地方重視に変えていこうという趣旨から来ている。人によっては「廃県置州」とまで言う人もいるが、大体は「県は廃止せず、数県の地方連合体をつくって、国家の権限を委譲する」というあたりの考えではないか。北海道はそのままで、後はいくつかの州にまとめるという考えが多いので、「道州制」ということになる。

 これに対する僕の疑問はいろいろあるが、
行政改革をしたつもりで、かえって複雑な行政「焼け太り」になる
 日本全国、どこでも「三重構造」になっている。まず「日本国」というものがあり、国家的な法制度の共通性を維持している。たとえば、日本全国どこへ行っても消費税率は同じである。(江戸時代のように、各藩ごとに年貢率が違うということはない。)
 一方、住民票を取るのは地元の「基礎自治体」。これは市町村と東京特別区を指す。小中学校を設置したり、福祉や選挙など身近な行政の大部分を担っている。「国」と「基礎自治体」の間に、「都道府県」があるが、その上に「州」をおけば、広域行政の名のもと、「四重行政」を作るだけでないのか。もちろん、国も都道府県も大胆にスリム化するというだろうけど、世の中そう簡単にいくのか。

沖縄県にメリットがあるのか?
 道州制で国のあり方を変えると意気込む人もいるが、そういう人も「国の仕事は外交と防衛だけでいい」と言ってるから、最低「外交、防衛を担当する国」があるわけである。先週沖縄県の仲井間知事が「オスプレイ配備反対」を訴えて外務省と防衛省を訪れていた。だから、沖縄県にとって、「道州制」が何のメリットもなく、道州制実現以後も東京に出てこなければならないのは間違いない。その上、「九州州」にも配慮しなければならない。かえって二度手間ではないか。

「州庁所在地」はどこに?-「人口の少ない県」にメリットはあるのか?
 さて、州がおかれることになったら、「州庁」をどこかにおかなくてはならない。僕が思うに、常識をもってすれば、「東北州」の州庁は仙台に、「中国州」の州庁は広島に置かれることだろう。まかり間違っても、東北州庁が秋田に、中国州庁が鳥取に、置かれたりするとは思えない。では、鳥取県に何かメリットはあるのか。東京事務所に加えて、広島の州庁にも人をさからなければならなくなるだけではないのか。
 では、「関西州」の州庁はどこにおかれるのか?「当然、大阪だ」と思ってるから、大阪維新の会は道州制賛成なのではないか。大体、東京、大阪、名古屋など、規模が大きく財政も豊かな町が、国の権限を寄こせという傾向が強い。もし、大阪維新の会が純粋に制度改革を望んでいるというなら、「関西州実現のあかつきには、州庁は日本最古の都があった奈良がふさわしい」くらいのことを言うなら、大阪の権力増大が目的ではないと判るのだが。

「都道府県連合」ではダメなのか?
 今回の大飯原発再稼働問題で、近畿地方の各知事がつくる「関西広域連合」なる集まりが実質的に大きな力を持っていた。各県、各知事ごとに考え方に違いもあったようだが、これが「関西州」ができていたら、「州知事」一人の意向が大きくなっていたわけである。でも、それでいいのだろうか。県という組織がなくならない以上、県の責任を負った知事が集まって広域的な議論を行えばいいのではないのか。県の上に州をおいて、選挙で州知事を選ぶ方が民主的だとは思えない。今、「広域連合」というものができているなら、道州制なんていらないのではないか。

日本の中で、福祉や教育の差が広がっていいのか?
 ところで、「道州制」の前に議論すべきは、「格差の拡大」であると思う。一番極端な「国は外交、防衛だけ」にしてしまったら、「福祉や教育は各地方で基準を定める」ということになる。しかし、東京から大阪、神戸までの「太平洋ベルト地帯」はいいかもしれないけれど、財源のない地方では福祉や教育の水準を下げるしかなくなる。同じ国だというのに、「税の所得再分配」効果が不平等になっていいのだろうか。

 などと思って、僕には道州制に疑問が多い。要するに、「強いものの議論」だと思っているのである。「制度いじり」をしているヒマがあったら、政策の具体論をして欲しい、と僕はいつも思っている。制度いじりをああだ、こうだとやっても、「官僚制度が複雑化するだけだ」と思うのである。それは「大阪都」構想にも言えることである。
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