尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

2014年の書き残しー映画編

2014年12月31日 22時30分04秒 | 映画 (新作日本映画)
 大みそかは池袋の新文芸坐で「舞妓はレディ」「蜩ノ記」の2本立て。こういうウェルメイドな作品は評しにくいが、まずは満足。2013年は「舟を編む」、2012年は「終の信託」と3年連続で大みそかは新文芸坐。「蜩ノ記」は直木賞作品の映画化だから、年明けに「私の男」と合わせて書きたいなと思っている。「舞妓はレディ」は楽しいけど、顔ぶれが「おなじみ」すぎるのと、しょせん舞妓に関心がない(「花街」文化に関心がない)ので、まあ楽しく見たという以上の言葉がない。周防正之も2作も「マイ・フェア・レディ」を作るというのも、何だろうという気がする。

 30日は紀伊國屋寄席600回に行ったら、夜遅くなってしまった。それを書こうという気も合ったけど、一日たったらもういいかという気になった。新宿の紀伊國屋書店ビルが建って50年。紀伊國屋ホールも50年。このビルを建てた田辺茂一大島渚「新宿泥棒日記」に出ているけど、ここが時代の象徴、知の象徴みたいな時代もあったのである。今は紀伊國屋でもサザンシアターも出来て、演劇公演もそっちに行くことが多いけど、紀伊國屋ホールには(俳優座劇場や文学座アトリエなどと同じく)、何か独特のムードがある。(新国立劇場や東京芸術劇場にはない。)

 さて、紀伊國屋寄席は5代目小さんを語るという企画で、息子の6代目小さん、孫の花緑さん橋、落語協会会長になった柳亭市馬という豪華な顔ぶれ。座談会も楽しい。演劇公演の合間を縫って平日夜に行われる紀伊國屋寄席は実は初めて。毎月やってて、第2回から古典中心。最初は柳朝、円生、文楽、正蔵、小さんという顔ぶれだったという。そういう時代は知らないわけだけど、まあ今を楽しむしかないという「笑い納め」。今までのマクラを集めたCDをくれた。その前に「6歳のボクが、大人になるまで」を見ようと思ったら満員。実はその前にもいっぱいで入れなかったので、2回も逃している。夜まであるので、雷蔵を見た後で「サンバ」を見た。「最強のふたり」の監督、主演の「サンバ」はフランスの移民問題を背景にしたコメディで、とてもいいんだけど、「まあ、いいんだけどね」という映画。雷蔵も狂四郎を久しぶりに見て、面白いけど、知ってると飽きる面白さでもあるなと思わないでもなかった。

 映画の話をしてしまうと、年末にシネマヴェーラ渋谷で曽根中生、フィルムセンターで千葉泰樹の特集を結構見た。まとめを書くつもりで見てたんだけど、途中で所要や体調で抜けた作品も多いうえ、大した作品でもないのが多いから、だんだん面倒になってしまった。曽根監督は自伝が面白く、こうやって日活ロマンポルノや鈴木清順作品が作られたのかと勉強になる。今や無くなってしまった撮影所システムの記録でもある。今回は「嗚呼!花の応援団」がないこともあり、結局「天使のはらわた 赤い教室」と「博多っ子純情」が面白いと確認しただけのこと。

 千葉泰樹監督の後期作品は、昔の東宝のスターシステムの映画作りを堪能できる。その意味では損はないし、時代をうかがうこともできる。でも見逃しが多い。3年前に神保町シアターでやった時に確か「千葉泰樹監督の映画①」を書いたまま、2を書いてない。「大番」シリーズなどを見て書くつもりだったんだけど、どうも嫌になってしまったのである。加東大介の代表作と言ってよい「大番」は確かに面白いし、獅子文六再評価の必要もあると思うけど、この株屋一代記のほとんどは「インサイダー取引」の歴史である。まあ、今の言葉にしてしまえばということだが。いかに重要情報を早くつかむかで、仕手戦を仕掛ける話で今では問題でしょ。「狐と狸」という映画も非常に面白く、舞台になった茨城県霞ケ浦の近くにわざわざドライブに行ったぐらい。でも、商人と農漁民がだましあう話で、商人道にもとる。50年代はこういう話が面白いと映画化できたのである。

 僕が好きなのは宝田明とユー・ミンの香港三部作、「香港の夜」「香港の星」「ホノルル・東京・香港」で、今見ると夢のような映画だなあと思う。海外に自由に行けなかった時代、商用、つまり貿易商や特派員で海外に行く日本人の男と香港(3作目はハワイの中華系住民)の美女がどう出会い、付き合うか。シナリオの工夫も面白い。香港や東京、ホノルル、マカオ、札幌、雲仙、シンガポール、クアラルンプールなどの風景も貴重である。実際に、ユー・ミンが実業家にプロポーズされた時に、宝田明に結婚の意思があるかどうかと聞かれたことを本人が語っていた。当時のこととて、国際結婚に踏み切れなかったということだが。続いて、加山雄三とタイの華僑系との「バンコックの夜」というのも作られ、それも見たけど、これは悲劇に終わる話だった。フランキー堺が落語家になる「羽織の大将」が40年ぶりぐらいに見た。全然忘れていた。見直したかったけど、なかなか都合がつかなった作品で、桂文楽が「べけんや」「あばらかべっそん」と例の口癖を連発する。安藤鶴夫が大学教授、先ごろ亡くなった桂小金治が先輩落語家という、実に貴重な映像。フランキーがテレビの売れっ子になり、選挙違反に問われて失墜する。一度は出入り禁止の師匠(加東大介)に許される下りは、よくある筋立てだが、泣かされた。

 2014年の新作映画と言っても見逃しが多いが、好きなのは「アデル、ブルーは熱い色」「リアリティのダンス」「グレート・ビューティ―」。日本映画はもう少し見てから。「そこのみにて光り輝く」「2つ目の窓」は書きそびれたけど良かった。「ほとりの朔子」が案外好き。ダメなのは「愛の渦」。こんな映画もあるという意味では「馬々と人間と」「シンプル・シモン」「イーダ」「フランシス・ハ」などもおすすめ。でも、全部見直したトリュフォーと沖縄の高江のヘリパッド反対運動を扱う記録映画「標的の村」が力強い印象という意味では一番かもしれない。ちょうど今、紅白で司会をしている吉高由里子の本格映画デビュー、園子温「紀子の食卓」も見てない人が多いだろうけど、今年見た中でも奇昨というべき映画だったなあ。この頃は売れてなかったと園監督が言っていた。
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