尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「東京12区」の研究-総選挙の結果④

2014年12月24日 23時37分09秒 |  〃  (選挙)
 師走も押し詰まって、24日のクリスマスイヴに特別国会が召集されて、第3次安倍晋三内閣が発足した。安倍氏は通算で3年ほどしか首相を務めていないが、もう第3次とは一種の珍記録ではないか。さて、総選挙も遠くなってきつつあるので、書きたいことが他にないわけでもないが、今日で終わりにしたいと思う。最後は、具体的な票の出方を検討する。対象にするのは、「東京12区」である。
 ここを取り上げるのは、全国屈指の「票の出方が興味深い地区」だからだが、自分にとって隣の選挙区という「地縁」もある。ただし、東京12区は北区と足立区の西端部で構成されているため、難しい点もある。小選挙区と異なり、比例区や参院選、都知事選は「北区」「足立区」という区選管単位の開票状況しか発表されない。場合によっては北区だけで比較するしかない場合もある。

 まず、今回の得票状況を見ておきたい。
 太田明宏  88,499 (北区=60,399、足立区=28,100) 当選
 池内沙織  44,721 (北区=33,810、足立区=10,911) 比例で当選
 青木愛   40,067 (北区=29,885、足立区=10,182)
 田母神俊雄 39,233 (北区=30,116、足立区=9,117)

 続いて、比例区の票を見ておきたい。
 自民党 63,383 (北区=46,667 足立区=16,716)
 公明党 37,822 (北区=23,898 足立区=13,924) 
 共産党 37,788 (北区=28,616 足立区=9,172)
 維新の党24,885 (北区=18,353 足立区=6,532)
 民主党 24,210 (北区=18,497 足立区=5,713)
 次世代 12,169 (北区=9,340 足立区=2,829)
 生活の党11,044 (北区=8,131 足立区=2,913)
 社民党 4,515 (北区=3,523 足立区=992)

 ここは東京唯一の公明党現職で国土交通相の太田明宏氏が出ている。太田氏は1993年総選挙で旧東京9区(板橋区と北区)で初当選した(公明党)。96年は新進党、00年は新党平和から比例区で当選。03年に小選挙区から初めて自公協力候補として当選した。自民党の八代英太(元タレントで、無所属、福祉党、自民党で参議院議員に3回当選、落選後に衆院に鞍替えし、東京12区で2回当選)がいたが、八代は比例区に回ることになった。しかし、八代は郵政法案に反対したため、05年には公認されず、東京12区から無所属で出馬した。09年には、民主党が青木愛参議院議員を擁立して、太田は落選した。12年は太田が当選したが、日本未来の党から出た青木は比例で復活当選した。一方、共産党は09年に26歳の池内沙織を擁立。池内は12年、14年にも出馬し、次第に票を伸ばし、今回は小選挙区で2位となり、比例区で共産党が3議席獲得したため当選した。

 という興味深い経緯をたどってきた選挙区である。今回はここに「自民の右から自公連立を批判する」と「次世代の党」から田母神俊雄が出馬したわけである。さて、まず田母神票を検討したい。比較すべき対象が少ないからである。
 2014年2月の都知事選を見てみると、北区で田母神票は、16,605票が出ている。今回は北区で約3万票だから、倍近くに伸ばしている。しかし、今回比例区で次世代の党に入れたのは、北区で9,340票、足立区12区分で2,829票、合計12,169票しかない田母神票の3分の2は流出しているのである。これは公明党候補に入れたくない自民党の宗教票、反自公票が保守の田母神に流れているのではないかと思う。田母神票は比例区では、自民、維新、次世代に三等分されている感じがする。(比例の自公票は約10万あるので、1万2千ほどが他に流出している。公明票の流出は少ないだろうから、それは自民票である。その票は田母神に流れたと考えられる。しかし、その票と比例次世代票では2万4千しかない。だから、比例で維新に入れた人のかなりが田母神に入れたと思われる。)

 太田票の推移を見ておく。その前に1996年を見ると、八代英太(自民)=61,461、沢たまき(新進)=60,289で、他に共産4万5千、民主3万8千ほどがある。この時は公明党は新進党である。2000年には自公連立が成立していたが、八代英太=90,208、藤田幸久(民主)=64,913票で、他に共産4万5千、栗本慎一郎2万がある。2003年に初めて太田が小選挙区で出たわけだが、太田昭宏(公明)=98,700、藤田幸久=95,110(比例当選)で、他に共産3万がある。この時は民主が都市部では伸びたが、それ以上に反自公票があったことをうかがわせる。

 2005年は、太田=109,636、藤田=73,943、八代(無所属)=44,279、野々山研(共産)=26,068
 2009年は、青木=118,753、太田=108,679、池内(共産)=31,475、幸福実現党=3,813
 2012年は、太田=114,052、青木=56,432、池内=41,934 幸福実現党=9,359
 2014年は、大田=88,499、池内=44,721、青木=40,067、田母神=39,233

 こう見てくると、ずっと11万票ほどを獲得してきた太田票が、低投票率もあって、今回は8万8千に留まった。05年と09年の太田票はほとんど変わらないが、05年の藤田(民主)と八代(無所属)を合わせた票、118,222票はほぼ09年の青木愛獲得票に等しい。しかし、12年には青木票は5万も減ってしまった。太田が6千、池内が1万増やして、残りの4万ほどは棄権した。今回はさらに青木が1万6千も減らした。全体では前回より8,600票ほど棄権が増えている。太田は2万5千ほど減らした。共産党の池内は4千票を増やしている。これを見ると、田母神票は、前回は太田票や青木票、さらには主張が似ている幸福実現党から回ったと考えられる。ここでは自公の基礎票が10万程度で、自民の調子がいい時は浮動票が1万近く上乗せされる。一方、自民の中には反公明票が1~2万票ほどあると思われるのである。これは「次世代の党」をイデオロギー的に支持していると言うよりは、今でも公明党に投票したくない自民支持者がいるということだろう。 

 今回、事前の情勢報道で、「太田、引き離す」とされながら、二位以下は「池内、青木、田母神、追い上げ図る」とされていた。これを見て、共産党が2位になるのかとちょっとびっくりし、当選は決まりだが焦点は「野党の順位争い」だと認識した。田母神が最下位になるだろうということは、多くの情報から予測されたことだが、実際に事前報道通りに共産党が2位になった。今回は、比例区の共産は3万7千だから、7千票ほど個人票の方が多い。社民党などの他、個人票を獲得してきたということだろう。しかし、今までの票を見れば、96年、00年は4万5千票を取っているので、史上最高ではない。民主党がいないので、反安倍票として認知されたが、共産党は昔はもっと取っていたのである。

 民主党は2回連続して候補者がいないので、これでは比例票が出ないのも仕方ない。維新より下で第5党である。青木も「生活の党」の比例票が1万1千で、これは田母神票以上の流出ぶりである。もっとも生活の党が比例で当選者を出すことは難しいと予想されていたから、青木の支持者も入れる気はしないだろう。公明も共産も田母神もいやという人は結構いるだろうから、選挙区では4万票入ったけれど、これは当選度外視票ではないか。もしかして、維新か民主で出ていれば、もっと票を取ることができたのではないかと思う。

 これを見て判ることは、東京の「下町」地区(庶民的な住宅街や商店街が多い地区)では、圧倒的に自民、公明の固い岩盤が存在するということである。それを打ち崩すことは、右からも左からも難しい。ただし、「政権交代」で盛り上がった09年ほどの投票率があると、民主党が反自公票の受け皿になったこともあるわけだが、民主党政権の失墜とともにその可能性も霧散した。自公票が過半数を取っているわけではないが、現行の選挙制度を取る限り、自公政権に勝つ可能性は少ないと言わざるを得ない。それをどう変えられるかは、選挙分析からは出てこない課題なので、ここで終わりにしたい。次世代の党が今回仮に東京ブロックで1議席取れたとしたら、当選者は惜敗率から山田宏になっていた。田母神の比例区復活当選は、この次世代票を見る限り難しかった。イデオロギー的批判だけでは、自民支持者も動かないということである。それは恐らく左の場合も同じだろうから、身近な生活の問題を地道に訴えていく以外に、どこの党にも今後はないということだろう。
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