尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「滝を見にいく」

2014年12月05日 23時22分59秒 | 映画 (新作日本映画)
 映画「滝を見にいく」のチラシには、「7人のおばちゃん、山で迷う。」と書いてある。まことにその通りで、幻の滝を見にいくバス・ツァーに参加した「7人のおばちゃん」たちが、道に迷って山中で一夜をビバークするハメになってしまったというだけの話である。でも、これが面白い。この設定だけで、それは面白そうと思う人はけっこういるのではないか。脚本、監督は沖田修一
 
 沖田修一(1977~)は、「南極料理人」で注目され、「キツツキと雨」、「横道世之介」とここ数年毎年作品を発表している若手監督。これらを見ると、もう少しパンチが欲しい感じもして、それは長編5作目の今作でも言えないこともない。でも、7人の「おばちゃん」を生き生きと描きだし、素晴らしい日本の大自然の中で人生の不思議を垣間見せてくれる。まあ、このゆるい感じを良しとして、ゆったりと楽し眼場いいのかなと思う。バス・ツァーに参加しているのに、なぜ迷うかというと、旅行社のコンダクターが初めて経験する頼りない男で、地図もよく読めないようなヤツだからである。実際にはそんなトンデモ旅行社はないと思うけど、そうしないと脚本が書けない。で、判らなくなった挙句に、ちょっと見て来ますから、皆さん、ここで待っていてくださいと出ていったまま、全然戻ってこないのである。

 かくして、おばちゃんだけになって、2人連れで参加した人もいるけど、まあお互いにほとんど知らない間柄の七人が山の中に残されてしまったわけである。二手に分かれて探しに行ったりしたが、仕方ない、自分たちで下山しようということになり、道を戻る時に一人が「下山近道」という立札を見つけてしまう。この立札は、大分昔に立った感じで、道も怪しいんだけど、じゃあ行ってみようという話になってしまい…。これは山では絶対にやってはならない。迷って戻る時は、来た道を戻らないと。降りた後で登り返すのがいやさに、つい沢沿いに降りたくなったりするもんだが。これは人生にも言えると思うけど、簡単な道はこっちと出てたら眉唾。僕も何百回も山道を歩いていると思うが、迷う時はハイキング気分で里近くできちんと確かめないで歩きはじめる時である。北や南のアルプスなどを行くならは、誰でも地図をきちんと見るし、道や案内表示もしっかりしている。「何でこんなところで」と思うようなところで、迷ったり転んだりしやすい

 だんだん夜になり、もう下山は無理。がぜん、サバイバル路線になり、クルミやキノコを拾ったり。この辺は出来過ぎで、キノコは危ないと思うが。タバコを吸う人もいて、ライターはあるから火を付けてキノコを焼く。滝を見て温泉に行くつもりだから、本格的な用意はしてないから、食糧も乏しく、寝袋もない。でも、だんだん身の上話を始めるようになって、それぞれの背景も見えてくる。「おばちゃん」だから、いろんなものを持ってきたりしてるし。ああ、ケータイは圏外という設定。まあ、見る限り、実際は通じると思うけど。この設定を、オーディションで選んだほとんど素人の「おばちゃん」が演じる。ほとんど、というのは劇団にいる人もいるからだが、でも有名な人はいない。実際に、山で迷ったようなドキュメント感覚で、現代の等身大の女性像を描き出す手腕は見事。

 ロケは新潟県妙高市で、素晴らしい紅葉を見ることができる。妙高や火打は日本でも最も素晴らしい山のいくつかに入ると思うが、その近くには滝も実際に多い、「苗名の滝」が有名だが、この映画でも実際に最後に「幻の滝」が出てくる。温泉もいっぱいある地域で、このツァ―のアイディアは良かったんだけどな。あれだけキノコがあるなら、「キノコ狩り」も入れればもっと人が来たのではないか。この脚本は舞台劇にすると、もっと面白いのではないか。是非、どこかでやって欲しい。東京では新宿武蔵野館で上映中。各地ではこれから上映されるようだが、ちょっと頭の片隅に。
コメント
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