アメリカ映画「6才のボクが、大人になるまで。」を見た。去年の11月4日公開で、今もロードショーをやっている。評判が高くなってきて、ずいぶん長くやっている。キネマ旬報ベストテン2位で、米国アカデミー賞の前哨戦と言われるゴールデングローブ賞のドラマ部門作品賞、監督賞、主演女優賞を得た。ニューヨークとロサンゼルスの映画批評家協会賞で、どちらも作品賞、監督賞を得ている他、昨年のベルリン映画祭監督賞も受けている。賞を得たからというわけでもないけど、確かにこれは映画ファンなら見ておかなければいけない作品ではある。アメリカに関心がある人も必見。
監督賞を軒並み取っているけれど、では誰かと言えばリチャード・リンクレイター(1960~)という人である。最近外国人の名前を覚えられないんだけど、「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」「ビフォア・サンセット」「ビフォア・ミッドナイト」というイーサン・ホークとジュリー・デルビーという二人の出会いと別れ(と出会いと別れと出会い)を9年ごとに描いてきた3部作で知られている。他にも、「スクール・オブ・ロック」とか最近では「バーニー/みんなが愛した殺人者」などを作っていて、そう言われると思いだす人である。ビフォア・シリーズは同じカップルで9年ごとだけど、今回の「6才のボクが、大人になるまで。」は、家族4人同じキャストで毎年少しづつ作りためて、12年間を作品にまとめたという仕掛けで、これまでどんな映画監督も考えたことがないような映画になっている。まあ、ドキュメント映画にはあっただろうし、その意味ではドキュメント的な映画。
というか、ミニマリズムとでもいうべき、ごく小さな世界を見続けていくだけなんだけど、6才の子どもが高校を卒業してしまう歳月だから、けっこう長い。アメリカや日本では大体の人は高校まで行くので、誰しも思い当たるような青春の人生行路、あるいは大人(親)との関わりのいいところもあるし、うっとうしいこともある様々の出来事が描き出されていく。イラク戦争や大統領選挙など時事的なテーマも出てくるけど、それはアメリカのこの間の歩みが当然反映されている。しかし、それよりも「家族」のあり方、その変化が見ていていろいろ感じるところで、アメリカ社会というものを考えさせられる。ただし、題名からしても主人公は18歳になるんだろうなと思ってみた。進路選択や恋愛など悩みはあるとしても、まあ主人公は死なないんだろうな、と。これが同じ12年間のイラクの話だったら、家族が死んだり、外国へ逃げたりといったことが出てくるかもしれない。普通の劇映画だったら、主人公が事件に巻き込まれたり、自殺するなどの展開もあるのかもしれないが、この映画に関してはそういった展開はありえない。
最初になんだか判らない感じで母と二人の子(姉と弟)が出てくる。見ているうちに、だんだん人生のありようが判ってくるので、ここでは細かく書かない。どうなってんのかなと見てて、判ってくるところが面白い。母親はパトリシア・アークエット(ロザンナ・アークエットの妹)で、これは生涯の代表作になるだろう。とにかく圧倒的で忘れがたい。最初は応援して見ていたんだけど、最後の頃はまた同じ失敗かよと思わせる人生をうまく演じている。それでも一度は諦めたキャリア設計をやり直し、心理学を学び直して大学で教えるまでになるのは、アメリカならではといえる頑張っている女性ではある。父親はイーサン・ホークで、どうなってしまうのかと思う人生を何とか立て直していく。実際に民主党支持者だというが、「ABB(ブッシュ以外なら誰でも)」と子どもに教えたり、オバマのポスター版を立てる作業を子どもにやらせたりするところも面白い。子どもの方は、男のメイソンは、エラー・コルトレーン、姉のサマンサはローレライ・リンクレイターという監督の娘が演じている。
撮影は監督の生まれたテキサス州で行われているが、家の事情や大学の場所などの関係でヒューストンやオースティンなど移り変わる。テキサスも広いので地図で確認してしまった。離婚と再婚の多さ、キャンプやパーティの持つ意味、戦争、銃、アルコール、マリファナ、男女交際…アメリカの中流白人家庭の「普通の生活」が垣間見えてくる。アーティスト気質のメイソンは学校での生き方もけっこう大変そうで、それは本人の性格もあるだろうけど、これだけ親にいろいろあると子どもは大変だなあと思った。それでも人生は続いて行くし、何かは起きていくのである。振り返ってみれば「いろいろあった」としかまとめられないかもしれないが。
人生を、あるいはアメリカを考える意味で、非常に面白くタメにもなる。子育てや思春期を考えるためにも。子どもたちはケナゲだし、見ていて「癒される」という点は確かにある。監督が「努力賞」に値するのも間違いない。アメリカでは観客にも批評家にも受けが良かった。今後のアカデミー賞でも受賞が期待される作品だろう。その意味でも必見の映画ではあるが、僕はこの映画がものすごく好きなわけではない。どうしてだろう?僕は今の世界を理解するためには、「リアリズム」に基づく描写だけでは不十分だと思っていて、「マジック・リアリズム」的な作品の方が好きなんだと思う。「リアリティのダンス」とか「グレート・ビューティ―」のような。でも、まあよくこんな映画を作ったなあという映画には間違いない。
監督賞を軒並み取っているけれど、では誰かと言えばリチャード・リンクレイター(1960~)という人である。最近外国人の名前を覚えられないんだけど、「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」「ビフォア・サンセット」「ビフォア・ミッドナイト」というイーサン・ホークとジュリー・デルビーという二人の出会いと別れ(と出会いと別れと出会い)を9年ごとに描いてきた3部作で知られている。他にも、「スクール・オブ・ロック」とか最近では「バーニー/みんなが愛した殺人者」などを作っていて、そう言われると思いだす人である。ビフォア・シリーズは同じカップルで9年ごとだけど、今回の「6才のボクが、大人になるまで。」は、家族4人同じキャストで毎年少しづつ作りためて、12年間を作品にまとめたという仕掛けで、これまでどんな映画監督も考えたことがないような映画になっている。まあ、ドキュメント映画にはあっただろうし、その意味ではドキュメント的な映画。
というか、ミニマリズムとでもいうべき、ごく小さな世界を見続けていくだけなんだけど、6才の子どもが高校を卒業してしまう歳月だから、けっこう長い。アメリカや日本では大体の人は高校まで行くので、誰しも思い当たるような青春の人生行路、あるいは大人(親)との関わりのいいところもあるし、うっとうしいこともある様々の出来事が描き出されていく。イラク戦争や大統領選挙など時事的なテーマも出てくるけど、それはアメリカのこの間の歩みが当然反映されている。しかし、それよりも「家族」のあり方、その変化が見ていていろいろ感じるところで、アメリカ社会というものを考えさせられる。ただし、題名からしても主人公は18歳になるんだろうなと思ってみた。進路選択や恋愛など悩みはあるとしても、まあ主人公は死なないんだろうな、と。これが同じ12年間のイラクの話だったら、家族が死んだり、外国へ逃げたりといったことが出てくるかもしれない。普通の劇映画だったら、主人公が事件に巻き込まれたり、自殺するなどの展開もあるのかもしれないが、この映画に関してはそういった展開はありえない。
最初になんだか判らない感じで母と二人の子(姉と弟)が出てくる。見ているうちに、だんだん人生のありようが判ってくるので、ここでは細かく書かない。どうなってんのかなと見てて、判ってくるところが面白い。母親はパトリシア・アークエット(ロザンナ・アークエットの妹)で、これは生涯の代表作になるだろう。とにかく圧倒的で忘れがたい。最初は応援して見ていたんだけど、最後の頃はまた同じ失敗かよと思わせる人生をうまく演じている。それでも一度は諦めたキャリア設計をやり直し、心理学を学び直して大学で教えるまでになるのは、アメリカならではといえる頑張っている女性ではある。父親はイーサン・ホークで、どうなってしまうのかと思う人生を何とか立て直していく。実際に民主党支持者だというが、「ABB(ブッシュ以外なら誰でも)」と子どもに教えたり、オバマのポスター版を立てる作業を子どもにやらせたりするところも面白い。子どもの方は、男のメイソンは、エラー・コルトレーン、姉のサマンサはローレライ・リンクレイターという監督の娘が演じている。
撮影は監督の生まれたテキサス州で行われているが、家の事情や大学の場所などの関係でヒューストンやオースティンなど移り変わる。テキサスも広いので地図で確認してしまった。離婚と再婚の多さ、キャンプやパーティの持つ意味、戦争、銃、アルコール、マリファナ、男女交際…アメリカの中流白人家庭の「普通の生活」が垣間見えてくる。アーティスト気質のメイソンは学校での生き方もけっこう大変そうで、それは本人の性格もあるだろうけど、これだけ親にいろいろあると子どもは大変だなあと思った。それでも人生は続いて行くし、何かは起きていくのである。振り返ってみれば「いろいろあった」としかまとめられないかもしれないが。
人生を、あるいはアメリカを考える意味で、非常に面白くタメにもなる。子育てや思春期を考えるためにも。子どもたちはケナゲだし、見ていて「癒される」という点は確かにある。監督が「努力賞」に値するのも間違いない。アメリカでは観客にも批評家にも受けが良かった。今後のアカデミー賞でも受賞が期待される作品だろう。その意味でも必見の映画ではあるが、僕はこの映画がものすごく好きなわけではない。どうしてだろう?僕は今の世界を理解するためには、「リアリズム」に基づく描写だけでは不十分だと思っていて、「マジック・リアリズム」的な作品の方が好きなんだと思う。「リアリティのダンス」とか「グレート・ビューティ―」のような。でも、まあよくこんな映画を作ったなあという映画には間違いない。