尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

宮尾登美子、ワイツゼッカー、フランチェスコ・ロージ他ー2015年1月の訃報

2015年02月08日 21時55分31秒 | 追悼
 前回、昨年の12月の訃報をまとめた時には、まだ宮尾登美子(12.30没、88歳)の逝去は公表されていなかった。最近は家族だけで密葬を行い、一週間から10日ぐらい経ってから(時には何カ月も経ってから)世に知らせるというケースが結構ある。僕は直木賞受賞作家は、受賞作程度は読むようにしてるんだけど、数が多いから例外もある。その一人が宮尾登美子で、何しろ長そう、重そうな本で、つい敬遠してしまったままなのである。大体映画化されているけど、映画でも2本しか見てない。
(宮尾登美子)
 月末に亡くなった芥川賞作家の河野多恵子(1.29没、88歳)も読んでない。芥川賞受賞作を収めた「蟹・幼児狩り」という文庫を読み始めたこともあるんだけど、珍しく途中で挫折したままになっている。文化勲章まで取ってしまったけど、作風からするとへェと思った。作家では直木賞作家(をはるかに越えた学識の人だが)陳舜臣氏も亡くなり、追悼を書いた。また、直木賞作家では赤瀬川隼(1.26没、83歳)も亡くなった。赤瀬川原平の実兄で、「白球残映」という野球小説で受賞している。これは読んでる。
(河野多恵子)
 1月は寒いからか、例月にも増して訃報が多かった感じだ。吉行あぐり(1.5没、107歳)が亡くなった。晩年には朝ドラにもなった伝説の美容師だが、何と15歳で人気作家、吉行エイスケと結婚。エイスケは1940年に死んで、作家としては忘れられた。子どもが3人、吉行淳之介、和子、理恵だが、女優の吉行和子だけが生きている。淳之介と理恵は芥川賞を受けた。長生きするのはめでたいが、子どもが先に逝くことにもなる。吉行和子さんは僕の好きな女優なんだけど、母親のあぐりさんに負けないほど元気に活躍して頂きたいものだ。
(吉行あぐり)
 長命女性では、園田天光光(11.29没、96歳)も亡くなった。戦後初の(最初に女性参政権が認められた時の)総選挙で当選した39人の一人である。その時は社会党所属で松谷姓だったが、1949年になって党派を超えて園田直(民主党)と「白亜の恋」を実らせた。とまあよく言われるが、園田には妻子があり、未婚のまま妊娠して結婚に至ったという経緯は当時は非難されることが多く、それまで3回当選していたが、以後は何度か立候補するものの当選できなかった。その時の前妻の子が園田博之で、園田直の死後にはともに自民党の公認を求めて争った。
(園田天光光)
 まだ若い年齢では、ロス、ソウルで金メダルを取った柔道の斉藤仁(1.20没、54歳)、台湾出身で中日で活躍した野球の大豊泰昭(1.18没、51歳)とスポーツ関係者が多い。

 脚本家の白坂依志夫(1.2没、82歳)は、昨年フィルムセンターで行われた増村保造特集で見た映画のかなりの脚本を書いた人である。同時代的には「大地の子守唄」などに感銘を受けたが、50年代末の熱気を反映した開高健原作の脚色「巨人と玩具」が一番好きかもしれない。追悼文を書こうかとも思ったんだけど、書いても増村映画論みたいになってしまうし、それは昨年書いたので書かなかった。

 SF作家の平井和正(1.17没、76歳)は「幻魔大戦」を書いた人だが、「8(エイト)マン」の原作者だと訃報で知った。これは「鉄腕アトム」より好きだったTVアニメだが、その頃は幼すぎて細かいことを覚えていない。その後も調べたことがなかった。でもテーマ曲は歌える。憲法学者の奥平康弘(1.26没、85歳)は、今まさに問題化する「表現の自由」「知る権利」の専門家であり、九条の会の呼びかけ人だった人。新聞等ではいろいろ読んでいると思うんだけど、専門が違うので、本格的な研究書などは読んでいないので、業績を論じるほど詳しくない。

 社会党を離党して社民連で長く活動した阿部昭吾(1.4没、86歳)が亡くなった。かつての「中選挙区」だから当選を続けられたわけだが、山形3区で10回連続当選である。「社会党」を知ってる人がどんどんいなくなる。ここらまでが知ってた人。知らなかった人では邦楽作曲の第一人者、唯是震一(ゆいぜ・しんいち 1.5没、91歳)、バレエダンサーで振付家、小川亜矢子(1.7没、81歳)、音楽写真の第一人者、木之下晃(1.12没、78歳)、能楽観世流の人間国宝、片山幽雪(1.13没、84歳)などの諸氏は訃報で知った方々。

 外国では、リヒャルト・フォン・ワイツゼッカー(1.31没、94歳)が亡くなった。西ドイツの大統領として、戦後40年にあたる1985年に「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる」と歴史を直視する勇気を求めた国会演説で、日本でも非常に有名になった。統一ドイツの初代大統領でもある。(ただし、ドイツでは大統領には、直接の政治的権限はない。日本と同じく議院内閣制である。)元々はキリスト教民主同盟の議員で、保守系の人だということもあって、日本では大きく取り上げられることが多い。僕も使ったこともあるが、演説から30年も経ったのかという感慨がある。
(ワイツゼッカー)
 ドイツでは、社会学者のウルリヒ・ベック(1.1没、70歳)も亡くなった。「危険社会」と訳された本で、「リスク社会論」を唱えて世界的に有名となった。脱原発論にも影響を与えているが、非常に重要な考え方で会って、現代社会を考える時に落とせない。もっとも僕もその代表作は読んでない。だけど、いろんな人が触れているのを読んできた。

 イタリアの映画監督、フランチェスコ・ロージ(1.10没、92歳)も本当は追悼を個別に書こうかと思ったんだけど、今では知る人も少なかろうと止めてしまった。戦後イタリアの「社会派」を代表する映画監督で、「シシリーの黒い霧」(62年)でベルリン監督賞、「黒い砂漠」(72年)でカンヌのパルム・ドールなどを得ている。だけど、僕が一番好きだったのは「エボリ」という映画で、これは「キリストはエボリで止まりぬ」という有名な小説の映画化。ムッソリーニ時代に南部の寒村に流刑になった男の話で、いわば文革の「下放」みたいなもんなんだけど、「キリストの恩寵もやって来なかった」(近くのエボリという町で止まってしまった)という意味の原題だから、本来は日本語題名はおかしい。まあ、それはともかく、ファシズムとマフィアというイタリアの暗部を見つめ続けた映画作家で、その社会派ぶりは好きだった。
(フランチェスコ・ロージ)
 イタリア映画では、フェリーニの「甘い生活」に出たアニタ・エグバーグ(1.11没、83歳)の訃報もあった。正直、まあ生きていたのかという感もあったが、スウェーデンの女優で、「甘い生活」のトレビの泉シーンが圧倒的で、記事でも他の映画には触れていない。調べると、ミスユニバースになって渡米、ハリウッド版の「戦争と平和」何化にも出ている。フェリーニの「道化師」や「インテルビスタ」にも出ているというけど、忘れている。他に、サウジアラビアのアブドラ国王(1.23没。90歳)やノーベル賞学者の訃報もあるけど、まあこの程度で。
(「甘い生活」のアニタ・エグバーグ)
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