尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

追悼・平幹二郎

2016年10月24日 21時49分37秒 | 演劇
 現代日本を代表する偉大な俳優、平幹二郎(ひら・みきじろう)が突然亡くなった。10月23日に自宅の風呂で倒れていたところを発見されたが、もう亡くなっていたという。享年82歳。(1933~2016)

 最近まで舞台に立っていたし、見てないけど現在放送中のドラマにも出ていたということだから、本当に突然の訃報だった。本気で言うわけでもないんだけど、蜷川幸雄が呼んだのかと多くの人が一瞬思ったんじゃないか。僕はそんなに平幹二郎を見たわけではないけど、舞台、テレビ、映画を通して、「大きな人だなあ」と思ってきた。実際、身長は180cmだったというから、今でもそうだけど特に戦前生まれの人としては異例なほど大きい。顔も大きいし、舞台では異様なほどの存在感を示していたと思う。それはテレビでも同じで、とても存在感のある俳優として小さいころから知っていた。

 この人もまた俳優所養成所出身の新劇俳優だった。俳優座養成所という場所は、本当に多くの人を輩出したものだと思う。だけど、多くの人がこの人を知ったのは、テレビの「三匹の侍」だった。フジテレビにいた五社英雄が演出した時代劇で、かつてないリアルな感覚の時代劇として大ヒットした。というか、テレビドラマ史上の位置は判らないなりに、とにかく面白いから小学生でも見ていた。つまり、僕と僕の周りの小学生は大体。最高視聴率42%というから、すごい人気だったのである。1963年から1968年にかけて、第6話まで作られた。10月開始の翌年3月か4月まで半年続くドラマである。

 第1話の「三匹」は、丹波哲郎、平幹二郎、長門勇だけど、2話以降は丹波に代わり、加藤剛が加わった。平幹二郎はずっと出ているわけだが、2話以降は丹波に代わってリーダー的存在の役柄になった。ちなみに役名は桔梗鋭之介。ニヒルな浪人だが、最後に弱い者に味方するといった役である。1964年には丹波、平、長門のコンビで映画化もされている。今も時々上映される機会があるが、けっこうおもしろく見られる。時代劇の楽しさは最初にこのドラマで知ったんだと思いだした。その後も大河ドラマの「樅の木は残った」をはじめ、最近まで多くのテレビに出ていた。

 でも、やはり平幹二郎は蜷川演劇を支えた俳優ということになる。70年代後半から、つまり蜷川幸雄が商業演劇に本格参入したころから、主な舞台はほとんど平幹二郎が主演していた。『王女メディア』『近松心中物語』『NINAGAWAマクベス』『タンゴ・冬の終わりに』『リア王』なんかである。そして、最終的にはシェークスピア役者ということになるんじゃないかと思う。僕は『近松心中物語』は見てないのははっきりしているけど、多分『マクベス』は見てるんじゃないかと思う。忘れるわけないと思うかもしれないが、シェークスピアは読んで話を知ってるので、映画も含めて何を見たのかよく覚えてないのである。(オリビア・ハッシーの出たフランコ・ゼッフィレリ監督「ロミオとジュリエット」だけはよく覚えているわけだけど。)最近ではもうクラシック作品は見てないけど、永井愛作の「こんはんは、父さん」で、その大きな存在感を堪能した思い出が鮮明である。(写真は「王女メディア」)

 ところで、仲代達矢と違って、平幹二郎は映画俳優としてはあまり語られない。確かに平幹二郎なくして成立しなかったような映画は数少ない。でも、助演などではけっこういろいろ出ている。安部公房原作の「他人の顔」の医者とか、岸田國士「暖流」の3回目の映画化の日疋とか。「暖流」の日疋というのは、戦前の映画化では佐分利信がやった役で、病院を救うためにやってきて院長令嬢と看護婦の二人から惚れられる。平の出た「暖流」では、令嬢が岩下志麻で、看護婦が倍賞千恵子。これじゃ選びようがないというもうけ役で、そういう鮮やかな立ち役だったのである。美男俳優として、映画であれ、舞台であれ、人気大スターを通す道もあったんだろう。でも、根は演技派であって、芝居がしたいということで、蜷川の同志を選んだのだと思う。

 それでも、若いときに出た映画作品は、若いころの平幹二郎の魅力を詰め込んで今に伝えている。もう2本書いておくと、川端康成ノーベル賞記念で映画化された「千羽鶴」。これもいろんな女に言い寄られる役だが、若尾文子が印象的。平幹二郎は、こんな二枚目俳優だったのかという感じで出ている。もう一本、最近再評価の声が高い中村登監督の「夜の片鱗」という映画。女工だった桑野みゆきを堕落させてゆくヤクザな男役で、女を餌食にして生きていきながら、時たま優しさをふっと見せるという、すさんだ人物をこれ以上ないほどうまく演じている。こういう役をできるんだから、単なる二枚目では満足できないだろう。それほど存在感をここでも感じる。映画でも振り返っておく必要がある俳優だと思って、特に触れておく次第。
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