エドワード・スノーデンに関する2本の映画を見た。記録映画の「シチズンフォー スノーデンの暴露」と劇映画「スノーデン」(オリヴァー・ストーン監督)。(池袋の新文芸座で7日まで。)
(左が劇映画のチラシ、右が本人)
スノーデンというのは、2013年にアメリカのNSA(国家安全保障局)が世界各地で違法な個人情報を大量に収集していると告発した人物である。アメリカのCIA、NSAの元職員で、告発当時はアメリカのコンサルタント会社「ブーズ・アレン・ハミルトン」からNSAに派遣されていた。
告発当時は、彼はハワイのNSAの拠点に勤めていた。情報を持ち出して、「休暇」として香港へ出かけ、そこで情報をマスコミ等に提供したのである。その様子を「同時進行ドキュメント」として撮影したのが「シチズンフォー」という記録映画である。監督のローラ・ポイトラスはもともとアメリカ政府の暗部を批判する映画を作っていたということで、スノーデンの方から接触したのである。こうして、世にも珍しい「世界的スキャンダル」を同時進行で眺められる映画が作られた。
この映画は2014年のアカデミー長編ドキュメント映画賞を受賞している。「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」や「セバスチャン・サルガド」を押さえての受賞なんだけど、映画としては「同時性」こそが一番の魅力になっている。ということは、逆に言えば「全体像は見えにくい」ということになる。
スノーデンはどうなるか、香港にいるのか、出国できるかといったスリルが見どころでもある。スノーデンはロシアまで行ったところで、オバマ政権がパスポートを無効にした。結局、ロシア政府が滞在を許可して、今もロシアに滞在している。そういったことがすでに判っている現在からみると、全体像に迫った劇映画の方が面白い。例えば、スノーデンが勤めていたハワイの施設だけど、そこに潜入して映像を撮りましたということは不可能である。でも、劇映画ではセットを作って撮影できる。
そりゃまあ、ホンモノを使って撮影しているはずがないと思うわけだけど、おおよそこんなものだろうと思う。取材もせずに作っているわけがない。そうやって、ドラマとしてスノーデンの人生を追っていく。そこで思うことはいろいろあるけど、「9・11がいかにアメリカ人に大きな影響を与えたか」を再確認できる。彼のような体格的には大したことがない青年でさえ、愛国的情熱に駆られて軍隊に志願した。それは途中で挫折したけど、彼のコンピュータに関する知識と情熱が、もっと大きな役に立った。しかし、彼は次第にアメリカ政府の行動に疑問を持つようになっていく。
それをいちいち書いていても仕方ないので、映画を直接見て欲しい。結構長い映画だけど、「情報映画」的な面白さと貴重さはある。中身のことは最後に書くけど、オリヴァー・ストーンとしては最近になく面白いと思う。ストーンはリベラルとして旗幟鮮明になってる分、「JFK」以後は「演説的映画」も多い。だけど、今回に関しては演説するよりも、現実の話のスリリングさを追った作りになっている。
主演のジョゼフ・ゴードン=レヴィットは、見れば一目瞭然、そっくりである。覚えにくい名前なんだけど、「(500日)のサマー」とか「50/50」に出ていた人。似てるだけでなく、多分こんな感じなんだろうなというイメージに合ってる。記録映画の監督ローラも劇映画に出てきて、それは女優のメリッサ・レオがやってる。複雑だけど、現実に記録映画を撮ってるシーンを劇映画でも再現しているわけ。
ところで、スノーデンはなぜ告発を実行したのか。映画でもよく判らない部分が多い。「隠された動機はない」という言う彼の言葉には真実性が感じられる。アメリカ国民の同意なく大量の個人情報を政府が収集していることに本気で怒っているわけである。そのことは、ウィキペディアのスノーデンの項目を見て、なるほどと思った。彼は元々「リバタリアン」で、共和党のロン・ポールの支持者だった。
リバタリアンとは、政府の関与を極端に嫌う自由主義者である。ブッシュの共和党でテロ対策の名のもとに情報収集が進んだことに違和感を持っていたが、オバマ政権で是正されると最初は信じていた。だけど、オバマケアなど「大きな政府」政策は進めるが、個人情報集収集などには関心を示さないオバマ政権にも失望したということが背景にあるらしい。
スノーデンの告発には、さまざまの問題が含まれている。オバマ政権が主張するように、諜報機関を持つ政府は皆同じことをしているという側面もあるだろう。中国やロシアもやってるんだから、アメリカもそういう技術を持っていなくてはならない。そういう考えもあるかもしれない。だけど、スノーデンの告発により、アメリカの情報企業が皆アメリカ政府の情報収集に協力しているという告発は重大だ。マイクロソフト、アップル、グーグル、Facebook、Yahoo、YouTubeなどなど。それはまあ知られていたとも言えるけど、やっぱりそうだということ。
そして、日本の問題も重大。彼は横田基地に勤務した経験がある。富士山に登ろうと思っていたが、前日に恋人とケンカして流れたと出てくる。映画によると、横田基地は日本の死命を制する情報基地になっていて、日本が同盟国ではなくなった瞬間に、発電所やダムなどのサイトがすべてハッキングされ、日本は電力を失うような設定が完了しているという話。ホントかよと思うけど、ありそうな話だと思う人が多いだろう。菅官房長官が例のごとく、そっけなく否定していることも、かえって真実性を高めている。調べてみる必要もないという態度は、今の森友学園や加計学園問題と同じで、だからこそ逆に怪しい。日本政府がアメリカべったりな裏には、こういうこともあるのだろうか。
(左が劇映画のチラシ、右が本人)
スノーデンというのは、2013年にアメリカのNSA(国家安全保障局)が世界各地で違法な個人情報を大量に収集していると告発した人物である。アメリカのCIA、NSAの元職員で、告発当時はアメリカのコンサルタント会社「ブーズ・アレン・ハミルトン」からNSAに派遣されていた。
告発当時は、彼はハワイのNSAの拠点に勤めていた。情報を持ち出して、「休暇」として香港へ出かけ、そこで情報をマスコミ等に提供したのである。その様子を「同時進行ドキュメント」として撮影したのが「シチズンフォー」という記録映画である。監督のローラ・ポイトラスはもともとアメリカ政府の暗部を批判する映画を作っていたということで、スノーデンの方から接触したのである。こうして、世にも珍しい「世界的スキャンダル」を同時進行で眺められる映画が作られた。
この映画は2014年のアカデミー長編ドキュメント映画賞を受賞している。「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」や「セバスチャン・サルガド」を押さえての受賞なんだけど、映画としては「同時性」こそが一番の魅力になっている。ということは、逆に言えば「全体像は見えにくい」ということになる。
スノーデンはどうなるか、香港にいるのか、出国できるかといったスリルが見どころでもある。スノーデンはロシアまで行ったところで、オバマ政権がパスポートを無効にした。結局、ロシア政府が滞在を許可して、今もロシアに滞在している。そういったことがすでに判っている現在からみると、全体像に迫った劇映画の方が面白い。例えば、スノーデンが勤めていたハワイの施設だけど、そこに潜入して映像を撮りましたということは不可能である。でも、劇映画ではセットを作って撮影できる。
そりゃまあ、ホンモノを使って撮影しているはずがないと思うわけだけど、おおよそこんなものだろうと思う。取材もせずに作っているわけがない。そうやって、ドラマとしてスノーデンの人生を追っていく。そこで思うことはいろいろあるけど、「9・11がいかにアメリカ人に大きな影響を与えたか」を再確認できる。彼のような体格的には大したことがない青年でさえ、愛国的情熱に駆られて軍隊に志願した。それは途中で挫折したけど、彼のコンピュータに関する知識と情熱が、もっと大きな役に立った。しかし、彼は次第にアメリカ政府の行動に疑問を持つようになっていく。
それをいちいち書いていても仕方ないので、映画を直接見て欲しい。結構長い映画だけど、「情報映画」的な面白さと貴重さはある。中身のことは最後に書くけど、オリヴァー・ストーンとしては最近になく面白いと思う。ストーンはリベラルとして旗幟鮮明になってる分、「JFK」以後は「演説的映画」も多い。だけど、今回に関しては演説するよりも、現実の話のスリリングさを追った作りになっている。
主演のジョゼフ・ゴードン=レヴィットは、見れば一目瞭然、そっくりである。覚えにくい名前なんだけど、「(500日)のサマー」とか「50/50」に出ていた人。似てるだけでなく、多分こんな感じなんだろうなというイメージに合ってる。記録映画の監督ローラも劇映画に出てきて、それは女優のメリッサ・レオがやってる。複雑だけど、現実に記録映画を撮ってるシーンを劇映画でも再現しているわけ。
ところで、スノーデンはなぜ告発を実行したのか。映画でもよく判らない部分が多い。「隠された動機はない」という言う彼の言葉には真実性が感じられる。アメリカ国民の同意なく大量の個人情報を政府が収集していることに本気で怒っているわけである。そのことは、ウィキペディアのスノーデンの項目を見て、なるほどと思った。彼は元々「リバタリアン」で、共和党のロン・ポールの支持者だった。
リバタリアンとは、政府の関与を極端に嫌う自由主義者である。ブッシュの共和党でテロ対策の名のもとに情報収集が進んだことに違和感を持っていたが、オバマ政権で是正されると最初は信じていた。だけど、オバマケアなど「大きな政府」政策は進めるが、個人情報集収集などには関心を示さないオバマ政権にも失望したということが背景にあるらしい。
スノーデンの告発には、さまざまの問題が含まれている。オバマ政権が主張するように、諜報機関を持つ政府は皆同じことをしているという側面もあるだろう。中国やロシアもやってるんだから、アメリカもそういう技術を持っていなくてはならない。そういう考えもあるかもしれない。だけど、スノーデンの告発により、アメリカの情報企業が皆アメリカ政府の情報収集に協力しているという告発は重大だ。マイクロソフト、アップル、グーグル、Facebook、Yahoo、YouTubeなどなど。それはまあ知られていたとも言えるけど、やっぱりそうだということ。
そして、日本の問題も重大。彼は横田基地に勤務した経験がある。富士山に登ろうと思っていたが、前日に恋人とケンカして流れたと出てくる。映画によると、横田基地は日本の死命を制する情報基地になっていて、日本が同盟国ではなくなった瞬間に、発電所やダムなどのサイトがすべてハッキングされ、日本は電力を失うような設定が完了しているという話。ホントかよと思うけど、ありそうな話だと思う人が多いだろう。菅官房長官が例のごとく、そっけなく否定していることも、かえって真実性を高めている。調べてみる必要もないという態度は、今の森友学園や加計学園問題と同じで、だからこそ逆に怪しい。日本政府がアメリカべったりな裏には、こういうこともあるのだろうか。