尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

小池都政をどう見るか

2017年06月22日 22時53分15秒 | 政治
 先に都議選をめぐる話題を書いたけど、その時には小池百合子知事の都政に関して書く余裕がなかった。明日から都議選が始まるので、その前に小池知事をどう評価するべきか、考えておきたい。ところで、昨年の舛添問題がヒートアップしていた時に、僕は「舛添保存論」を書いた。

 舛添は石原に比べて、特に悪くない。だから、せめて秋まで舛添でいいじゃないかという意見である。何で秋かというと、2016年参院選前に辞めさせたことで、東京五輪をやるという2020年7月に、次の都知事選挙があることになってしまった。都議会主要政党は、どこも五輪返上を唱えていないのだから、この選挙は馬鹿げていた。まあ、五輪反対論者の僕には関係ないようなもんだけど…。

 実際に当選した小池知事の都政運営は、事前に心配したよりはうまくやって来たのかと思う。僕は鈴木、石原知事以後しか知らない。だから、はっきり言って知事に対する期待値が低い。小池知事は、工業高校に行って生徒を励ましたり、ハンセン病療養所多磨全生園を訪れて入所者と面会したりした。その程度のことをした知事さえ今まで全然いなかった。まあ、石原のように障がい者施設に行って暴言を吐かれては困るから、都庁官僚もセッティングしなくなったのかもしれない。

 そういう意味では、「都民の声を聞く」などという当たり前のことをするだけで、なんだか新鮮な感じがするのである。そういう風に都民をしてしまった今までの都知事の責任は大きいだろう。だけど、小池知事のもとで、石原知事以来の「権力的教育行政」には変化が見られない。まあ知事が変わって急に変わるのもおかしいけど、だけど何らかの発信も特にない。むしろ都立看護学校の卒業式で「国歌斉唱」を行うなどの変化がある。小池知事を「忖度」したかなどと言われるが、「都民ファースト」と言いつつ、「国家」を強烈に意識しているようだ。(ちなみに東京には「東京都歌」もあるらしい。)

 小池都政に関しては、ほとんど「政治家小池百合子をどう評価するか」で決まってくると思う。小池氏の知事になってからの「活躍」を見ると、近年の小池氏は「役不足」だったんだなあと思う。(よく「力不足」と「役不足」が混同されるが、言葉の真の意味での「役不足」である。)力を持て余していたんだろう。小池氏と言えば、自民党総裁選に出たこともある有力政治家である。なんで自民党都連は小池氏ではダメだったんだろうか。自民が最初から小池擁立でまとまれば、大差で当選して決まりである。ただ、それで小池知事がおとなしく都連の操り人形に留まり続けたとは思えない

 かつて石原知事は高い知名度で自民党に頼らず当選した。しかし、あまり登庁せず細かいことは都議会多数党の自民の意向に任されたという。次の猪瀬知事も、副知事に登用され事実上の後継ということで当選した。ノンフィクション作家として無所属で出馬しても当選しなかっただろう。舛添知事は知名度は高かったけど、民主党政権下で自民を離党したものの支持は広がらず、2013年の参院選には出馬せず浪人中だった。だから自民党には「離党者を拾ってもらった」恩義がある。

 そういう経緯から石原、猪瀬、舛添と、自民党東京都連は知事に対して強い影響力を持った。2009年には都議選で民主党に大敗し、続く夏の総選挙で民主党政権ができた。その時は東京の小選挙区も民主が圧勝したが、小選挙区で石原伸晃、下村博文、平沢勝栄等は当選した。小池百合子も小選挙区では敗れて、比例区で当選している。小池は2005年の郵政選挙で東京に「刺客」としてやってきた「外様」である。その後、2012年、2014年の総選挙では若い自民候補が大挙して当選し、すっかり若返っている。東京都連は石原伸晃や下村が主導権を持っていて小池の勢力が弱い。

 自民党内で小池百合子はどのように思われてきたのか。それは一言で言えば「裏切者」ということになる。もともと細川護熙に誘われて日本新党から参院、衆院に出馬した。その後、新進党結成に参加したが、新進党解党の際は、小沢一郎の自由党に参加した。自由党は自民党との連立に参加し、その後2000年に連立を離脱する。その時は自由党を離党して、保守党を結成して自公との連立に留まった。その後、保守党解党で自民党に入党する。

 2003年9月、第一次小泉内閣で環境大臣に就任。以後、第2次、第3次小泉内閣で留任し続け、「クールビズ」などで知られ、「初の女性首相候補」などと言われるようになった。第一次安倍内閣では、首相補佐官に就任し、久間防衛相の辞任後に女性初の防衛相に抜てきされた。このように、細川、小沢、小泉、安倍と、なかなかうまく権力者に付き従ってきたのである。

 そして2008年、福田康夫首相の辞任後の自民党総裁選に立候補した。これは自民党史上最初の女性総裁候補である。その時は、麻生太郎が351票で当選した。次が与謝野馨66、小池百合子46、石原伸晃37、石破茂25という結果になった。特に支持基盤もない小池が、石原、石破をこの時点では上回っていたのである。ところが、2012年の総裁選では自身は出馬せず、石破を支持したとされる。

 もう忘れている人が多いと思うけど、2009年の下野後の総裁選で谷垣禎一が総裁になり、石原伸晃を幹事長とした。ところが、2012年の総裁選(その時点では野党)では、内心再選を期待していたと言われる谷垣を無視して、幹事長の石原が出馬を表明。党内基盤の弱い谷垣は出馬辞退に追い込まれた。石破茂は野党時代に全国を回って支持を広げていて、総裁選は石原・石破の一騎打ちと思われていた。2007年の参院選で敗北し、その後病気を理由に退陣した安倍晋三が再び復活するとは、誰も思っていなかったのである。しかし、石原の支持が広がらず、1位が石破、2位が安倍で決選投票になった。こうして安倍総裁が誕生するが、これは小池にとって見込み違いだっただろう。

 この経過が安倍陣営から見ると、かつて小泉、安倍内閣で小池百合子は重用されたのに裏切ったと見えているのではないだろうか。だから、与党に復帰したというのに、小池百合子の出番がない。安倍が使うのは、稲田朋美、高市早苗などの自分に近い女性ばかりである。この経過を見て、安倍内閣が続く限り自分の出番は来ないと思ったのが、都知事に転じた最大の理由だと思う。

 ところで、この「裏切者」という評価は、客観的に見てどうなんだろうか。ある意味ではまさに正しいとも言えるだろう。細川、小沢に付いていって政治的に活躍できたか。小泉から安倍には付いていくが、安倍内閣退陣で安倍を見切るというのも、決して間違いとは言えない。現に党員投票では石破が1位になっている。こうして先行きを読んで行動を変えていくのが、小池百合子という政治家の根本的生き方だと思う。

 となると、もともと自民党に支持されて知事に当選したとしても、高い人気を背景に党に対して強い態度に出たと思う。それはかつて大阪府知事になった橋下徹が自民を離れて「維新」を立ち上げたのと同様である。だから、そういうことを心配して、小池には国政で活躍を、知事には地方自治の専門家を、などと画策した当時の自民党都連も、あながち間違っていたわけではないと思う。小池という政治家は、こういうこと(自民を離れて批判する)をやりそうだと直感していたのだろう。

 小池百合子という政治家の行動パターンを僕は以上のように思っているのだが、それは今後どのようになるのだろうか。現在は自民党を批判して自派を増やさないといけない。その意味では、戦略的に融通無碍に行動する。築地市場の移転問題でも、一時は豊洲移転を凍結したものの、結局は豊洲移転、築地も活用などとよく判らない方針を打ち出した。当面はこのような、どっちつかずで支持層の期待をつなぎとめる政策が多くなると思う。

 今の時点では「都民を味方に付けて、自民党都連を批判する」という構図である。だけど、それは今後の情勢の推移で変わってくる。変わって生き延びてきたのが小池百合子である。何度でも変わるだろう。五輪を名目にして安倍政権とベッタリになるかもしれないし、安倍政権に対して今よりもずっと厳しいことを言うかもしれない。僕はいろんなことがあり得ると思うけど、それを期待もしないし、驚きもしない。しかし、評価できるときは応分の評価はする。小池百合子の本質は「風を読む政治家」だと思うから、ちょっとした言動にいちいち反応する気はしない。まあ石原知事よりはいいだろう。
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