尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

東京15区の投票行動を見てみる

2017年10月30日 23時51分09秒 |  〃  (選挙)
 総選挙に関してずいぶん書いてきて、これが最後。今までいくつかの選挙区を取り上げて、時系列的に投票行動を調べてみることがあった。ところが今回から小選挙区の区割りが大きく変更され、時系列で比較することが難しくなった。(小選挙区制を取る限り区割りの見直しは当然の事である。この制度そのものの是非は別に考える問題だけど。)

 ところが今回区割りが変わらず、しかも基礎自治体を割ることなく、そのまま一つの選挙区になっている場所が東京にあることに気付いた。区割り変更がないところは他にもあるけど、自治体をいくつか合わせた選挙区だと調べるのも大変。できれば一つの自治体で一つの選挙区がいい。ところで、なんとそこは直近2回の衆院選で候補者がまったく同じである。「奇跡の選挙区」だ。東京だから、注目の都議選があったばかりでもある。ということで「東京都第15区」を取り上げてみたい。

 地名で言えば、ここは東京都江東区になる。人口約50万で、隅田川と荒川に囲まれた地域。区域のほとんどがゼロメートル地帯で、近年は高層マンションが立ち並んでいる。西部は時代小説によく出てくる深川。東部は昭和7年以前は南葛飾郡で、この前書いた関東大震災時の社会主義者、中国人の虐殺が起きた地でもある。つまりかつては大工業地帯だった。一方、南半分は戦後の埋め立て地で、有名な「夢の島」があった。東京五輪でも多くの施設が作られる予定である。

 では、さっそく今回と前回の衆議院選の結果から。
2017年選挙区 (投票率=55.59%、前回とほぼ同じだが、有権者は1万7千増)
 秋元司(自民)   10万1155
 柿沢未途(希望)  7万0325  (比例当選)
 吉田年男(共産) 3万4943
 猪野隆(無所属) 1万5667
2014年選挙区 (投票率は56.03%)
 柿沢未途(維新)  8万8507
 秋元司(自民)   8万5714  (比例当選)
 吉田年男(共産) 3万1384
 猪野隆(無所属)   8759

 柿沢未途は、2009年の総選挙に「みんなの党」から出て比例で当選した。「みんな」初参戦の選挙で、最初の当選者5人の一人だった。その後、2012、2014には小選挙区で当選したが、今回希望の党から出て比例当選に甘んじた。票を1万8千減らしている。なお、父は柿澤弘治元外相で、参院選や都知事選にも出た父親の高い知名度を受け継いだ。民主党都議を務めていたが、酒気帯び運転で自損事故を起こし離党していて、「みんな」の旗揚げに加わった。父も15区で2回当選している。

 秋元司(1971~)は、2012年の自民党政権復帰選挙から3回連続で15区から出て、今回初めて小選挙区で当選した。その前は、2004年の参院選比例区で当選した参院議員だったが、2010年に落選していた。秋元以前の木村勉は3期当選したが、民主党政権勝利の選挙で敗れて引退した。自民党は今回2005年の郵政選挙以来の10万票を獲得した。前回より1万5千ほど増やしている

 共産党の吉田年男は連続して5回立候補している。かつては2万票前後だったが、ここ2回は3万票を超えている。今回3万5千票と一番多いのは、柿沢が民進党を離れて希望から出たためだろう。さて、ここ2回ほど無所属で猪野隆という候補がいる。この人は誰だと調べてみると、2012年の選挙で「日本維新の会」から東京11区に出て、下村博文11万6千に対して約5万票で次点になった過去があった。江東区育ちで、以後は15区から出ている。東大を中退して国税庁などに勤務した後で、大学に再チャレンジして合格、「おっさん東大生」を名乗るホームページがあった。

 では今度は、2017年衆院選の比例区票を見てみる。100票台四捨五入。
自民=7万4千 公明=2万6千 立憲民主=4万6千 希望=4万1千 共産=2万1千 維新=8千
*票数だけを見ると、比例で自民、公明に入った票を足すと、ほぼ秋元票になる。一方、立憲民主に入れた人は、3対1で柿沢と共産党吉田に入れた感じである。

 2014年衆院選の比例区票を見てみたい。
自民=7万1千 公明=2万7千 維新=4万3千 民主=2万4千 共産=3万1千 次世代=8千 生活=6千 社民=4千
*共産党は選挙区と比例区がほぼ同じである。一方、自民、公明を足すと9万8千だが、実際の秋元票は8万6千ほど。維新、民主、社民、生活の比例票を足すと、ほぼ柿沢票にはなるが、多分自民支持者からの個人票も入っていたのではないか。今回柿沢は個人票を秋元に奪われたのかも。

 こうなると、2016年参院選を見ておきたくなる。江東区の投票率は59.0%。
自民=8万3千 民進=4万7千 公明=2万8千 共産=3万2千 おおさか維新=1万9千 生活=6千 社民=5千
*これは比例区票だが、公明党の票は大体同じである。共産党はここ2回3万を超えていたが、今回立憲民主に1万票が流れたと思われる。自民は全体として2016年の比例票が多かったので、ここでも今回は少し減らした。維新の党は、民進党合流組とおおさか維新に分かれていたが、柿沢の支持者も「民進」と「おおさか維新」に分かれたのではないかと思われる。

参院選の選挙区票も見たいところだけど、東京選挙区はあまりに候補者が多くて面倒くさいから省略。ただ簡単に言っておくと、共産党と公明党の票は大体比例区や衆院選で出た票と同じ程度だった。やはり蓮舫候補の得票が、4万3千票で一番多かった。

 最後に、2017年7月の都議会議員選挙の結果。
当選 白戸太朗(都民ファースト新人) 4万5614
当選 山崎輝(自民現、3期目)     3万7970
当選 細田勇(公明新人)        3万6533
当選 畔上美和子(共産現、3期目)  2万9804
次点 柿沢幸絵(無所属現)   2万5908
    高橋恵海(自民新人)   2万1059
    大沢昇(民進前)     1万5409 
    古賀美子(無所属新)    3171
    表奈就子(無所属新)    1403

 この結果をどう見るべきだろうか。確かに自民は衆参の比例区票から大きく減らしている。しかし、自民票と公明票を合わせると、今回の秋元票10万に近い票になる。つまり、公明党が自民に付くことが決まっていた今回選挙では「希望の党」にはもともと可能性が低かった。一方、公明党は国政選挙では出せない票が出ている。いかに都議選重視で頑張ったかがよく判る。次点になった柿沢幸絵は、2009年から練馬区で民主党から都議になった人。当時は野上姓だったが、当時都議だった柿沢未途と結婚して2013年から江東区に移った。今回は直前に民進党を離党し無所属で臨んだが落選してしまった。ここからも民進党と柿沢陣営の暗雲を感じ取ることができるだろう。それにしても「都民ファースト」票が今回どこに流れたかはやっぱりよく判らない。
コメント
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