尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

黒沢清監督「散歩する侵略者」

2018年01月30日 23時16分02秒 | 映画 (新作日本映画)
 2017年9月に公開された黒沢清監督の「散歩する侵略者」を今頃見たんだけど、とても面白かった。黒沢清監督のことは何度か書いてるが、クリストファー・ノーランなんかと並んで相性が良くない監督だ。見ないつもりじゃなかったんだけど、「宇宙人もの」こともあってつい見逃した。今後あちこちの名画座で上映されるだろうが、是非見ておいて欲しい映画だと思う。

 劇団イキウメの主宰である前川知大の舞台を映画化したものだが、僕はその舞台も見てない。身近な人が宇宙人だったというような設定は、教員時代の経験から敬遠したくなってしまう。なぜか日本に宇宙人が地球侵略の「先遣隊」のようなものを送ってくる。(いや、地球のあちこちにも来たのかもしれないが。)3人の人間の身体に侵入し、人類を「研究」する。この設定は地球侵略が真顔で語られるとはいえ、むしろ「人類」とは何なんだろうという思いを見ているものにもたらす。

 そこが物語としての面白さで、非常によく出来た脚本だと思う。夫の加瀬(松田龍平)が宇宙人になってしまった妻(長澤まさみ)が、次第に夫が宇宙人であろうがなかろうがつながりを求めてしまう設定が興味深い。週刊誌記者の桜井(長谷川博巳)は若者に宇宙人と名乗られ、つい「ガイド」として一緒に行動してしまうようになる。この人間側の二人がうまく、訳が分からなくて信じていいんだかどうだか判らない状況に観客も同調して見ることになる。

 その結果、こちらも「人間ってなんだ」と考えてしまう。人間の持っている「概念」を奪ってしまえる力を持ち、概念を取られた人間はもう元に戻れない。そういう設定になっていて、宇宙人は人間を理解するためにどんどん「概念泥棒」を続ける。その結果、おかしな行動を取る人間が多発する。「仕事」という概念が判らず、イラストレーターの妻の仕事先の社長(光石研)から「仕事」概念を奪ってしまう。そうすると、彼はもう仕事が出来なくなり「奇行」を繰り返す。

 そんな中で、宇宙人が判らないのは「」という概念。教会に行って牧師に聞くと、パウロの手紙で説明されるが、理解できないから奪えない。長澤まさみは「愛が判らないと人類は理解できない」とか言うんだが。そんな宇宙人を国家権力が追い詰めていって、果たしてどうなるか。黒沢清は昨年の「クリーピー 偽りの隣人」「ダゲレオタイプの女」のどっちも出来が良かった。好きか嫌いかという問題はあるが、ここまで安定した力作を連発している映画監督は少ない。笹野高史や東出昌大(牧師役)、長澤まさみの妹役の前田敦子、最後に出てくる小泉今日子など、豪華なチョイ役も楽しい。
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