尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

もう一度見たい映画・外国編

2018年01月03日 22時54分44秒 |  〃  (旧作外国映画)
 もう一度見てみたい外国映画編。外国映画に関しては、日本上映権という期限があるので、昔の映画は基本的に上映できないことが多い。最近は「午前10時の映画祭」でずいぶん昔の映画をリバイバルしてくれたが、それでも70年代、80年代の名作の多くは見られない。とは言うものの、1975年のベストテンに入ってるアルトマンの「ナッシュビル」やキューブリックの「バリー・リンドン」など、二度と見られないと思ってた映画をやってくれたりすることがある。待ってるといろいろある。

 昔の映画が突然まとまって上映されることもあるので注意してないといけない。ただ、それは配給会社がちゃんとしてないと出来ない。民間会社がやってるんだからやむを得ないけど、最近は倒産したり廃業する会社もある。日本で絶大な(過大な?)評価を受けるクリント・イーストウッド監督は、時々特集上映が行われるが、アカデミー作品賞の「ミリオンダラー・ベイビー」だけ上映できない。配給会社が倒産したから。僕の好きな「ブロークバック・マウンテン」も同様。世界の名画をいっぱい公開してくれたフランス映画社も数年前に倒産した。そのフィルムはどうなるんだろう?

 僕の若いころは、外国映画と言えばアメリカ、時々フランスイタリアイギリスぐらいで、その他の国々の映画は珍しかった。ドイツやスペインの映画はほとんどなかった。(そもそも、ドイツは東西分裂、スペインはフランコ独裁だったんだから、映画どころではない。)もちろん、中国や韓国の映画が一般公開されることはなかった。(自主上映みたいな形で公開されることは時々あったが。)ということで、もう一度見たいなあと思う映画も、大体はアメリカやヨーロッパの映画が多い。

 僕が最初に挙げたいのはペルー映画の「みどりの壁」。ペルーはラテンアメリカの中でも映画が盛んとは言えない。そんな国の映画がなぜか1970年に公開された。大阪万博時に国際映画祭も行われて、スウェーデンの「私は好奇心の強い女」、フェリーニの「サテリコン」などが人気の中、ひっそり上映された「みどりの壁」。それが感動的だと評判を呼び、正式に公開されたのである。ジャングルの開拓村に住む若い夫婦、子どもが毒蛇にかまれて…という大自然と貧困、家族の結びつきが印象的な映画。監督のアルマンド・ロブレス・ゴドイは、75年に幻想的な「砂のミラージュ」も公開された。見てみたいが、そもそも上映素材がちゃんとあるのか。

 アメリカ映画では、村上春樹訳で翻訳された「卵を産めない郭公」の映画化「くちづけ」みたいに、大傑作でもないけど若いころに見たから思い出深い映画が誰にでもあると思う。僕が好きなロバート・マリガン監督「おもいでの夏」は甘美なテーマ曲とともに忘れられない。原題は「Summer of '42」で、戦時下の避暑地で夫を戦地に送っている人妻に憧れてしまった少年を描く。大西洋に面した海辺の素晴らしさ、年上の美女に憧れてしまう少年…。ミシェル・ルグランの音楽がアカデミー賞を受賞した。口ずさめる人もきっと多いと思う。ヒロインはジェニファー・オニールという人。

 音楽が忘れられないと言えば、マーク・ライデル監督の「ローズ」。紅白で島津亜矢が英語で歌ってたけど、主題歌だけ残ってる。僕はぜひこの映画を大画面でもう一度見てみたい。ジャニス・ジョプリンにインスパイアされた物語で、主人公をベット・ミドラーが演じた。1980年に日本公開されたとき、たしか2回は見ている。ベトナム戦争は終わっていたけど、ジャニスの破滅的な生き方が身近な感じがした時代だった。すごく好きな人が多かったのに、リバイバルされないのが不思議。

 ヨーロッパの映画では、今は忘れられた感がするコスタ=ガヴラスの映画をまず挙げたい。特に70年にアカデミー外国語映画賞を得た「Z」は、日本でも大きな評判となった。大歌手イヴ・モンタンを主人公にした三部作の最初で、ギリシャの独裁政治に抵抗する政治家を描いた。すごく面白いと思うが、背景の政治事情が違ってしまった。次の「告白」は50年代のチェコスロヴァキアの政治裁判を描く。スターリン主義の実態、ソ連の東欧支配の実態を僕はこの映画で教えられた。最後がウルグアイの左翼ゲリラのアメリカ人誘拐事件を描く「戒厳令」。政治的なテーマをスリリングに描いた傑作群だが、だからこそ忘れられたかなと思う。もう一回見るのは難しいかもしれない。

 他にぜひ見たいのは、ユルマズ・ギュネイ監督作品。トルコのクルド人で、拘禁中に指示を出して作った「」がカンヌ映画祭で大賞を受けた。その後、90年前後に「群れ」や「」などの映画が日本でも上映されて高い評価を受けた。非常にみずみずしい感性で抵抗の精神を世界に示したが、1984年に47歳で亡くなり、日本でも最初の公開以来、ほとんど上映の機会がない。

 イタリアでもフェリーニやヴィスコンティは今も上映されるけど、政治的な映画を多く作ったフランチェスコ・ロージは日本でほとんど忘れられている。「黒い砂漠」や「ローマに散る」など、すごいサスペンスが忘れられない。「キリストはエボリで止まった」(岩波文庫)を映画化した「エボリ」は、ファシズム政権下にイタリア南部の貧しい土地に流刑された男を描き、非常に感動的だった。他にはサム・ペキンパーも何故か「わらの犬」「ジュニア・ボナー」が上映されない。ウォーレン・ビーティがロシア革命を描いた「レッズ」もまた見たい。フランコ・ゼッフィレリ監督がアッシジの聖フランチェスコを描いた「ブラザー・サン、シスター・ムーン」にはものすごく感動して何度も見た。十字軍時代を描いて、ベトナム戦争で傷ついた世代の物語になっていた。物質的な豊かさではなく、精神性を大切にしたいという思いに共感した。大スクリーンで若い人にも見て欲しいがm自分でもDVDを持ってる。テイタム・オニールが可愛らしかった「ペーパー・ムーン」も同様。

 1971年にATG系で上映されベストテンに入った「真夜中のパーティー」もものすごい緊迫感に引き込まれれた。舞台劇で今も時々上演されるが、同性愛をテーマにしている。僕が初めて見たセクシャリティをめぐる映画だと思う。ダスティン・ホフマンとミア・ファローが主演した「ジョンとメリー」は、僕が初めて自分で見に行ったロードショー映画だった。日比谷のみゆき座で、今とは違って芸術座(今のシアター・クリエ)の地下にあった。
コメント (1)
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