注意していると、ずいぶんたくさん昔の映画を見られるもんだ。池袋の新文芸座のクラシック映画特集で、フランスのアンリ=ジョルジュ・クルーゾー(Henri-Georges Clouzot、1907~1977)の「恐怖の報酬」と「悪魔のような女」の2本立て。ミステリー映画として有名な「悪魔のような女」は実は初めてなので、シモーヌ・シニョレとヴェラ・クルーゾー(監督夫人)の絡みを大いに楽しんだ。もう一本の「恐怖の報酬」は昔見ていて久しぶり。最近1977年にウィリアム・フリードキン監督によって作られたリメイク版が公開されているので、両方を比べて紹介することにしたい。
(クルーゾー版)
1953年に作られたクルーゾー監督版は、カンヌ映画祭グランプリ(男優賞も)とベルリン映画祭金熊賞を受賞している。昔は両方に出品することができたのか。(カンヌは今はパルムドールという最高賞ができたけど、当時はグランプリが一番上だった。)日本でも1954年のキネマ旬報ベストテンで2位になっている。世界中で大評判になった非常に有名な作品で、「南米奥地でニトログリセリンをトラックで運ぶ」というシチュエーションそのものが圧倒的な迫力である。僕らは「そういう映画だ」と知って見るからあまり感じないけど、最初に見た時は大興奮しただろう。
53年版の主役はイヴ・モンタン(1921~1991)で、大スターの若き日を堪能できる。歌手としては「枯葉」などをヒットさせていたが、俳優としては活動初期にあたる。南米(ベネズエラの設定)の田舎町に流れ着いた男たちの過去は描かれない。スペイン語の現地民衆の中に、フランス語や英語を話す人もいる。アメリカの石油会社サザン・オイル(SOC)が事実上の支配者になっている。原油火災が発生し、爆破するしか手がないとなり、流れ者たちにニトログリセリンを運ばせる。2台×2人が選ばれ出発するが、さまざまな障害が連続する。
そこらへんの基本構造はリメイク版も同じ。だけど、リメイクでは雨と泥の印象が強いのに対し、原作ではなんとトラックに幌もないのでビックリ。ロケした時点が乾季で、雨の心配はなかったんだろう。狭い道や障害物は同じだが、原作はパイプラインが破損していて「原油池」を渡らないといけない。一方、リメイクでは壊れかけた板のつり橋を渡り切れるかがアクションの見せ場になっている。どっちがどっちという比較はできないが、アクション映画としてはリメイク版も優れている。
(フリードキン版)
ウィリアム・フリードキン(1935~)は、「フレンチ・コネクション」(1971)でアカデミー作品賞、監督賞を受賞、続くホラー映画「エクソシスト」(1973)も世界的に大ヒットした。70年代初期に一番活躍していた監督だが、次の「恐怖の報酬」(1977)は金をかけた割りには興行も評価もいま一つだった。世界版は30分近くカットされ、日本でもそれが公開されたが、僕も見たかどうか覚えてない。監督自身が権利を獲得して4Kデジタルリマスター化したものが、今日本でも公開されている。
男たちが吹き溜まりにやってくるには訳があるはずだ。それを律儀に描いているのがフリードキン版で、なかなか南米にならない。それらのシーンが必要かどうかは、僕は疑問。背景を不問にしてニトロ運びに集中する方がいいと思うが。過去を知ってると、理に落ちたり余計な同情をしてしまう。しかし、基本ベースは原作と同じ設定なので、どうなるかが観客には判っている。リメイク版の主演はロイ・シャイダーで、「フレンチ・コネクション」「オール・ザット・ジャズ」で2回アカデミー助演男優賞にノミネートされている。僕はけっこう好きな俳優だったけど、主演していたのか。
全体的には、もとの脚本も担当したクルーゾーの功績が圧倒的に大きいと思う。アクション映画的にはフリードキン版も捨てがたいけど、映画そのものとしてはクルーゾー版の方が上だろう。映画内に余計なものがなく、ストレートに進行する。まあ、その後もう少し付け加えたくなってしまうのも理解できるけど。アンリ=ジョルジュ・クルーゾーは戦時中にデビューして、「密告」「犯罪河岸」など犯罪映画を作った。1949年の「情婦マノン」も有名。ヌーヴェルヴァーグ以後、フランスの文芸映画が否定されてしまい、ジェラール・フィリップ主演映画を除いてフランス文芸映画が忘れられていて残念な気がする。狭心症の薬でもあるニトログリセリン(C3N3H5O9)って何だろうということも昔から疑問だった。昔は爆発事故も多かったが、今は原液として出荷することはないそうだ。
(クルーゾー版)
1953年に作られたクルーゾー監督版は、カンヌ映画祭グランプリ(男優賞も)とベルリン映画祭金熊賞を受賞している。昔は両方に出品することができたのか。(カンヌは今はパルムドールという最高賞ができたけど、当時はグランプリが一番上だった。)日本でも1954年のキネマ旬報ベストテンで2位になっている。世界中で大評判になった非常に有名な作品で、「南米奥地でニトログリセリンをトラックで運ぶ」というシチュエーションそのものが圧倒的な迫力である。僕らは「そういう映画だ」と知って見るからあまり感じないけど、最初に見た時は大興奮しただろう。
53年版の主役はイヴ・モンタン(1921~1991)で、大スターの若き日を堪能できる。歌手としては「枯葉」などをヒットさせていたが、俳優としては活動初期にあたる。南米(ベネズエラの設定)の田舎町に流れ着いた男たちの過去は描かれない。スペイン語の現地民衆の中に、フランス語や英語を話す人もいる。アメリカの石油会社サザン・オイル(SOC)が事実上の支配者になっている。原油火災が発生し、爆破するしか手がないとなり、流れ者たちにニトログリセリンを運ばせる。2台×2人が選ばれ出発するが、さまざまな障害が連続する。
そこらへんの基本構造はリメイク版も同じ。だけど、リメイクでは雨と泥の印象が強いのに対し、原作ではなんとトラックに幌もないのでビックリ。ロケした時点が乾季で、雨の心配はなかったんだろう。狭い道や障害物は同じだが、原作はパイプラインが破損していて「原油池」を渡らないといけない。一方、リメイクでは壊れかけた板のつり橋を渡り切れるかがアクションの見せ場になっている。どっちがどっちという比較はできないが、アクション映画としてはリメイク版も優れている。
(フリードキン版)
ウィリアム・フリードキン(1935~)は、「フレンチ・コネクション」(1971)でアカデミー作品賞、監督賞を受賞、続くホラー映画「エクソシスト」(1973)も世界的に大ヒットした。70年代初期に一番活躍していた監督だが、次の「恐怖の報酬」(1977)は金をかけた割りには興行も評価もいま一つだった。世界版は30分近くカットされ、日本でもそれが公開されたが、僕も見たかどうか覚えてない。監督自身が権利を獲得して4Kデジタルリマスター化したものが、今日本でも公開されている。
男たちが吹き溜まりにやってくるには訳があるはずだ。それを律儀に描いているのがフリードキン版で、なかなか南米にならない。それらのシーンが必要かどうかは、僕は疑問。背景を不問にしてニトロ運びに集中する方がいいと思うが。過去を知ってると、理に落ちたり余計な同情をしてしまう。しかし、基本ベースは原作と同じ設定なので、どうなるかが観客には判っている。リメイク版の主演はロイ・シャイダーで、「フレンチ・コネクション」「オール・ザット・ジャズ」で2回アカデミー助演男優賞にノミネートされている。僕はけっこう好きな俳優だったけど、主演していたのか。
全体的には、もとの脚本も担当したクルーゾーの功績が圧倒的に大きいと思う。アクション映画的にはフリードキン版も捨てがたいけど、映画そのものとしてはクルーゾー版の方が上だろう。映画内に余計なものがなく、ストレートに進行する。まあ、その後もう少し付け加えたくなってしまうのも理解できるけど。アンリ=ジョルジュ・クルーゾーは戦時中にデビューして、「密告」「犯罪河岸」など犯罪映画を作った。1949年の「情婦マノン」も有名。ヌーヴェルヴァーグ以後、フランスの文芸映画が否定されてしまい、ジェラール・フィリップ主演映画を除いてフランス文芸映画が忘れられていて残念な気がする。狭心症の薬でもあるニトログリセリン(C3N3H5O9)って何だろうということも昔から疑問だった。昔は爆発事故も多かったが、今は原液として出荷することはないそうだ。