尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

北方領土問題ー第二次大戦を直視できないロシアと日本

2019年01月26日 22時30分24秒 |  〃 (歴史・地理)
 せっかく病気も治って書きたくてたまらないのに、今度はパソコンが不調でなかなか書けない。日ロ首脳会談前に北方領土問題を書こうと思って途中まで書いていた。現実には交渉は厳しく進展が難しい印象だが、やはり一度まとめておきたいと思う。(かつて尖閣諸島や竹島が問題化したころ、北方領土についても書いた。もう6、7年も前の記事で今回は読み直していない。かなり長く書いた記憶があるが、わざわざ読み直さなくてもいいかなと思う。)

 安倍政権は日ロ平和条約交渉を加速させ、ロシアとの関係改善を目指している。その方針自体は正しいだろう。日本もロシアも米中を見据えたとき、相互の関係強化の持つ戦略的価値は非常に大きい。しかし、そのためには「国境線の画定」、つまりは日本側の言う「北方領土」問題をどのように解決するかが焦点になる。その問題に対して様々な考え方があるだろうが、あまり意識されてない歴史を指摘しておきたい。

 さてロシアのラブロフ外相が盛んに「日本は第二次大戦の結果を承認せよ」的な発言を行っている。これに対して日本政府は、きちんと反論できていない。僕が思うに、ロシアも日本も第二次世界大戦を直視できていない。ロシア当局には「誤解」がある。日本が第二次大戦の結果を承認しているから、「北方領土問題」があるのである。もし日本が大戦の結果を認めてないのなら、「南樺太」と「千島列島全体」の返還を要求するはずである。

 ところで「第二次世界大戦」とは何だろうか。細かく書けば長くなりすぎるけど、宣戦布告もなしに大陸で残虐行為を繰り返した中国戦線、日本が宣戦布告して英米蘭の植民地に侵略した東南アジア、太平洋戦線。そして、中立条約を侵犯して「戦争終了後」に攻略された「千島・樺太戦線」では、それぞれ性格がまったく異なる。ラブロフ外相は日本とナチスドイツを同一視しているのだと思うが、日本とソ連の戦争に関してはソ連が加害者日本が被害者の側である。

 今書いた中で、「中立条約を侵犯」と書いた。1941年4月に締結された日ソ中立条約は有効期間が5年間だった。だから19945年8月のソ連軍侵攻は中立条約違反になるわけだが、僕はこの問題はあまり重視していない。日本側も2か月後の独ソ戦開始時には、「関東軍特種演習」と称して対ソ戦準備を公然と進めた。ソ連は「延長しない通告」を一年前に行っていて、だからいいとも言えないだろうが、日本もそうそう強く出られない問題だと思う。

 日本は1945年8月14日に、連合国に対してポツダム宣言の受諾を通告した。ポツダム宣言は英米中の名で発せられたが、ソ連の参戦以後にソ連も加わっている。ソ連は単独で戦っているのではなく、「連合国軍」の一員という立場である。8月15日に天皇の名で「終戦の詔勅」が発せられ、日本軍は連合国軍に降伏する。だから8月15日以後、アメリカ軍の空襲はなくなる。15日未明にはあったのである。それが「敗戦」であり「第二次大戦の結果」というもんだろう。

 ところが当時のソ連軍が千島列島を攻略するのは、8月16日以後なのである。そんなバカなことがあるのか。あっていいのだろうか。最北の占守(シュムシュ)島が攻撃されたのが8月18日のことである。日本軍は応戦し21日の停戦までに多くの死傷者を出した。ソ連軍は南樺太を28日までに制圧し、その後29日に択捉島9月1日に国後島、色丹島を制圧した。歯舞諸島に至っては、降伏文書調印後の9月5日に占領されている。これが「第二次大戦の結果」の真実である。
 (色丹島)
 日本はサンフランシスコ平和条約で、戦争で獲得した領土を放棄した。それは今さら変えられない現実で、南樺太の放棄は当然だ。それこそ「第二次大戦の結果」を日本人が受け入れているのだ。一方、千島列島は平和的に獲得した地域だが、それも条約により放棄した。ただし「千島列島の範囲」が問題になる。歴史上択捉島以南の南千島は日本以外の国家に属したことがないから当然である。日本はロシアに対し、ソ連軍の行為を問うべきだが、中国や韓国に対して「歴史を直視」できない安倍政権には、ロシアにも要求できないのだろう。
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