2018年11月に「鈴木家の嘘」という映画が公開された。脚本・監督はこれが初監督の野尻克己(1974~)で、新人だから全然知らない。家族をめぐるコメディとして評判になったけれど、見逃していた。先日キネマ旬報のベストテン号が出たが、「鈴木家の嘘」は6位に入選していた。珍しく自分の評価とベストテンが近い年だったけれど、この映画だけ見逃していた。(他は見ているけど、「斬、」と「友罪」はブログに書かなかった。)調べて見ると、アップリンク吉祥寺や下高井戸シネマなどでいま上映しているとある。そこで下高井戸まで見に行くことにした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/70/00/50e304f56dd3722d19ff0602e6f3aac2_s.jpg)
133分もある映画だが、脚本がよく出来ていて「いい映画を見たな」と思った。見た直後は「万引き家族」「菊とギロチン」の次あたりにしてもいいと思ったが、時間が経つと少し冷めてきた。これだけは書かないと話ができないが、「長男の自殺を母親に隠す話」である。引きこもっていた長男(加瀬亮)が死に、それを発見した母(原日出子)も倒れて意識を失う。その後回復したが、その頃の記憶が欠落した。父親(岸部一徳)と長女富美(木竜麻生)は真実を言い出しかねて、母の弟(大森南朋)がやってる仕事を手伝ってアルゼンチンに行ったことにしてしまった。
2004年に日本でも公開されたドイツ映画「グッバイ、レーニン!」という映画があった。社会主義を信じていた母が意識不明となったが、8か月後に奇跡的に意識を取り戻した。しかし、その間にベルリンの壁は崩壊、ドイツは統一へ向かっていた。母にショックを与えないため、東ドイツがずっとあるように家族皆で演技を続ける。「鈴木家の嘘」も似た話かと思ったら、タッチがかなり違った。「グッバイ、レーニン!」はドイツ統一をめぐるコメディに徹しているが、「鈴木家の嘘」は冒頭で家族の一人が死んでしまう。隠す隠さないを超えて、父も妹も兄の「自殺」に向き合うしかない。日本映画のみならず、ここまで「自殺」を考えさせる映画も少ないと思う。
それがアルゼンチンでエビの輸入に関わるって、突然驚くような発想になる。それも叔父さんが社長でいろんな仕事をしているという設定で、親戚に一人はいるお騒がせものが見事な存在感を発揮している。それでコメディとして進行していくんだけど、この映画は笑っているだけでは済まない。その「重さ」に見合うだけの「軽み」を登場人物が発揮しているから、なかなか見ごたえのある映画になっている。「菊とギロチン」で女相撲を披露した木竜麻生(きりゅう・まい)が素晴らしい頑張りで、大学で新体操をやってる女子大生を演じている。
野尻克己監督は今まで「舟を編む」「テルマエ・ロマエ」「恋人たち」など話題作の助監督をしてきた。最近は新人監督がどんどん登場して、もう覚えられないぐらいだが、また一人自分で優れた脚本を書ける監督が登場した。しかし、家族を亡くした者の会とか、ソープランドをめぐるエピソードなど、どうも盛り込み過ぎの感もある。肝心の長男が「引きこもり」から「自殺」へ至る経緯は全く語られないので、どうも今ひとつ理解が難しい。まあ「引きこもり」や「自殺」を周りがどれだけ「理解」できるのかとも思う。いろんなことを考えさせる映画で、つらいシーンも多いけど見るべき映画。
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133分もある映画だが、脚本がよく出来ていて「いい映画を見たな」と思った。見た直後は「万引き家族」「菊とギロチン」の次あたりにしてもいいと思ったが、時間が経つと少し冷めてきた。これだけは書かないと話ができないが、「長男の自殺を母親に隠す話」である。引きこもっていた長男(加瀬亮)が死に、それを発見した母(原日出子)も倒れて意識を失う。その後回復したが、その頃の記憶が欠落した。父親(岸部一徳)と長女富美(木竜麻生)は真実を言い出しかねて、母の弟(大森南朋)がやってる仕事を手伝ってアルゼンチンに行ったことにしてしまった。
2004年に日本でも公開されたドイツ映画「グッバイ、レーニン!」という映画があった。社会主義を信じていた母が意識不明となったが、8か月後に奇跡的に意識を取り戻した。しかし、その間にベルリンの壁は崩壊、ドイツは統一へ向かっていた。母にショックを与えないため、東ドイツがずっとあるように家族皆で演技を続ける。「鈴木家の嘘」も似た話かと思ったら、タッチがかなり違った。「グッバイ、レーニン!」はドイツ統一をめぐるコメディに徹しているが、「鈴木家の嘘」は冒頭で家族の一人が死んでしまう。隠す隠さないを超えて、父も妹も兄の「自殺」に向き合うしかない。日本映画のみならず、ここまで「自殺」を考えさせる映画も少ないと思う。
それがアルゼンチンでエビの輸入に関わるって、突然驚くような発想になる。それも叔父さんが社長でいろんな仕事をしているという設定で、親戚に一人はいるお騒がせものが見事な存在感を発揮している。それでコメディとして進行していくんだけど、この映画は笑っているだけでは済まない。その「重さ」に見合うだけの「軽み」を登場人物が発揮しているから、なかなか見ごたえのある映画になっている。「菊とギロチン」で女相撲を披露した木竜麻生(きりゅう・まい)が素晴らしい頑張りで、大学で新体操をやってる女子大生を演じている。
野尻克己監督は今まで「舟を編む」「テルマエ・ロマエ」「恋人たち」など話題作の助監督をしてきた。最近は新人監督がどんどん登場して、もう覚えられないぐらいだが、また一人自分で優れた脚本を書ける監督が登場した。しかし、家族を亡くした者の会とか、ソープランドをめぐるエピソードなど、どうも盛り込み過ぎの感もある。肝心の長男が「引きこもり」から「自殺」へ至る経緯は全く語られないので、どうも今ひとつ理解が難しい。まあ「引きこもり」や「自殺」を周りがどれだけ「理解」できるのかとも思う。いろんなことを考えさせる映画で、つらいシーンも多いけど見るべき映画。