2月18日に新宿末廣亭で2月中席夜興行を見てきた。トリを「笑点」新メンバーで一般知名度が一気にアップした桂宮治が務める。他にも旧「成金」メンバーが勢揃いで、勢いだけで言えば現在最強かもしれない。ということで行きたいと思ったのだが、こういう人気番組は今までだとかなり早くから並ばないとダメだった。寒い中並んで、自分の前で終わったら悲劇だから行きたくなかったが、この興行からイープラス(e+)で前売するようになった。そこでイープラスに新たに登録して買っておいた。
と思ったら、末廣亭ホームページには、何と桂宮治が「みなし陽性」で自宅待機になって初日から5日間休演と出た。結局6日目まで休演で、7日目から登場した。僕は18日だから間に合った。休演ばかりになっている「ラ・マンチャの男」を前日に見たのに続き、今回も予定通り。何だか運がいいけど、今年の運を使い果たしてしまわないか心配。やっと出られた前日にはテレビ局が何局も入っていたというが、18日は「ヨネスケちゃんねる」(桂米助のYouTube番組)だけが来ていたというのが笑える。
「成金」というのは、落語芸術協会の二つ目11人で結成したユニットで、2013年から2019年まで活動した。誰かが真打に昇進したらオシマイと決めていて、柳亭小痴楽の昇進で解散した。その後、六代目神田伯山、「昔昔亭A太郎、瀧川鯉八、桂伸衛門」、桂宮治、「三遊亭小笑、春風亭昇々、笑福亭羽光」と次々に昇進して、ここで書いた人も多い。2022年5月に「春風亭柳若、春風亭昇也」が昇進して全員が真打となる。カギ括弧は同時昇進で、ない人は単独昇進。今回は全員が出ている。(昨日は昔昔亭A太郎が休演。伯山は浪曲の玉川大福と交代出演。)これだけそろうのは貴重な機会だ。見逃せない。
トリの桂宮治から書くと、鬱憤を晴らすかのような異様なハイテンションで、マクラからオチまで駆け抜ける。いつも全力投球ではあるが、知名度急上昇さなかの定席トリが、まさかの6日休演。これは悔しいだろうが、他の皆にネタを提供していた。「絶対ズル休み」などと言われる中、ぶっ飛んでおかしかったのは瀧川鯉八。「冬の寒い夜、新作を作っていてどうしても出来ないで悩んでしまう。そんな時に、欲しくなるのは、薬物です。」なんて始まって、「宮治はやってますよ。あのハイテンション見れば判るでしょう。私も宮治から買っています。」と続くあたりの悪ノリに爆笑である。
演目は「死神」で非常に素晴らしかった。この前好楽でも聞いたけど、勢いでは宮治が上だったと思う。まあ落語は勢いではなく、淡々と話す中に深みを感じさせるという方向もあると思うが、宮治の場合は話芸という以上に「一人芝居」に近い。体全体で演じるという趣で、緩急、陰影のある話ぶりが立体的に伝わる。ちょうどⅠ年前の真打昇進興行の時はマクラの面白さばかり覚えているが、やはり相当の実力だなと思った。願わくば「笑点」で変になっちゃわないことを祈る。
(桂宮治)
今回聞いた中で、話の面白さで抜群なのは柳亭小痴楽だなあと思った。「粗忽長屋」という何度も聞いてるネタだけど、小痴楽がやるといつも以上におかしい。行き倒れの死体に行き会って、ああこれは熊の野郎だ、今朝会ったから間違いない、みたいな展開がおかしいわけである。大体落語というものは、人の「粗忽」を笑うものだが、これだけおバカぶりが堂に入っていると、嫌みにならずにほとんどシュールになる。久しぶりの小痴楽だが、やっぱり面白い。
(柳亭小痴楽)
前座は別にして最初は春風亭昇也で、最初だから宮治をいじって受けていたが、噺は「時そば」。奇術のポロンに続いて、三遊亭小笑は「転失気」(てんしき)。「おなら」のことであるが、それを知らずに知ったかぶりをする。最初の方だから大ネタは出来ないが、今ひとつ。笑福亭羽光は大阪出身だが、東京で活躍する鶴光に弟子入りした。関東、関西の友人二人が秘湯の宿に泊まるが、そこの主人は関西出身者にいじめられて死んだので、関西人っぽいシチュエーションになると化けて出る。何か飲み物をお出ししますと聞かれて、関東人が「アイスレモンティー」を注文するが、関西人が「レイコ」というと幽霊が出るという新作。
バイオリン漫談のマグナム小林を間にはさみ、今も大人気の神田伯山。こういう中にはいると、何だか普通に思えてくる。ネタは平手造酒で、これは一発変換できないから「ひらて・みき」とフリガナを付けないと今は読めない人が多いだろう。天保時代の下総(千葉県北部)にいた剣客で、博徒笹川繁蔵方に付き飯岡助五郎との出入りで死んだ。「天保水滸伝」の途中まで。
(神田伯山)
桂伸衛門は前に超絶的「寿限無」を聞いたけど、この人も相当変な人だと思う。今回は「マスクの女」という新作で、ある女子生徒を男子生徒が好きになる。コロナ禍の高校生事情を軽妙に描く作品で、女子高生のマネがおかしい。確かに今はマスク越しの会話が多く、マスクなしの顔を体育の時間に見て好きになったというと、「キモい」と返される。女子が男子を見るのはいいけど、男子が女子のマスクなし顔をチェックするのは「キモい」という。だからマスクを取って見せてくれと言って、もめてるところに用務員が現れて…。コロナ時代を代表する新作に磨き上げられていくのか。それとも忘れられてしまう作品か、まだ見極めは難しい。
(桂伸衛門)
18日が誕生日の「ねづっち」の謎かけ、小痴楽で中入り。春風亭柳若は古典が多いと言うけれど、今回はロック音楽ファンならではの新作。ロックでメジャーデビューしてインタビューを受ける兄弟グループ。父親がロックなんだから、スラム育ちと言えとか押しつけてくる。瀧川鯉八は前に聞いてるけど、どうにも可笑しなニキビの新作。「ニキビ」というらしいが、ニキビをつぶすかつぶさないかをめぐる祖母と孫の会話なんて、どうしてこんな新作を思いつけるのかな。次の春風亭昇々は見習い泥棒の間抜けぶりを描く「鈴ヶ森」。曲芸のボンボン・ブラザースを経て、いよいよトリの宮治である。
(瀧川鯉八)
全体を通して、かつてないほど受けていた落語の定席だったと思う。しかし、コロナ禍で飲みにも行けないかつての仲間たちが内輪ネタで盛り上がるサークル同窓会の趣がある。盛り上がりすぎじゃないか、と思わないでもない。桂宮治は笑点メンバーに選ばれたが、それが吉と出るかは本人次第。「笑点」には株価ばかりを気にする外資ファンドみたいなところがある。じっくり聞かせることより、目先の受け狙いにならないで欲しい。とにかく現時点ではもっとも受ける芸人の一人。
と思ったら、末廣亭ホームページには、何と桂宮治が「みなし陽性」で自宅待機になって初日から5日間休演と出た。結局6日目まで休演で、7日目から登場した。僕は18日だから間に合った。休演ばかりになっている「ラ・マンチャの男」を前日に見たのに続き、今回も予定通り。何だか運がいいけど、今年の運を使い果たしてしまわないか心配。やっと出られた前日にはテレビ局が何局も入っていたというが、18日は「ヨネスケちゃんねる」(桂米助のYouTube番組)だけが来ていたというのが笑える。
「成金」というのは、落語芸術協会の二つ目11人で結成したユニットで、2013年から2019年まで活動した。誰かが真打に昇進したらオシマイと決めていて、柳亭小痴楽の昇進で解散した。その後、六代目神田伯山、「昔昔亭A太郎、瀧川鯉八、桂伸衛門」、桂宮治、「三遊亭小笑、春風亭昇々、笑福亭羽光」と次々に昇進して、ここで書いた人も多い。2022年5月に「春風亭柳若、春風亭昇也」が昇進して全員が真打となる。カギ括弧は同時昇進で、ない人は単独昇進。今回は全員が出ている。(昨日は昔昔亭A太郎が休演。伯山は浪曲の玉川大福と交代出演。)これだけそろうのは貴重な機会だ。見逃せない。
トリの桂宮治から書くと、鬱憤を晴らすかのような異様なハイテンションで、マクラからオチまで駆け抜ける。いつも全力投球ではあるが、知名度急上昇さなかの定席トリが、まさかの6日休演。これは悔しいだろうが、他の皆にネタを提供していた。「絶対ズル休み」などと言われる中、ぶっ飛んでおかしかったのは瀧川鯉八。「冬の寒い夜、新作を作っていてどうしても出来ないで悩んでしまう。そんな時に、欲しくなるのは、薬物です。」なんて始まって、「宮治はやってますよ。あのハイテンション見れば判るでしょう。私も宮治から買っています。」と続くあたりの悪ノリに爆笑である。
演目は「死神」で非常に素晴らしかった。この前好楽でも聞いたけど、勢いでは宮治が上だったと思う。まあ落語は勢いではなく、淡々と話す中に深みを感じさせるという方向もあると思うが、宮治の場合は話芸という以上に「一人芝居」に近い。体全体で演じるという趣で、緩急、陰影のある話ぶりが立体的に伝わる。ちょうどⅠ年前の真打昇進興行の時はマクラの面白さばかり覚えているが、やはり相当の実力だなと思った。願わくば「笑点」で変になっちゃわないことを祈る。

今回聞いた中で、話の面白さで抜群なのは柳亭小痴楽だなあと思った。「粗忽長屋」という何度も聞いてるネタだけど、小痴楽がやるといつも以上におかしい。行き倒れの死体に行き会って、ああこれは熊の野郎だ、今朝会ったから間違いない、みたいな展開がおかしいわけである。大体落語というものは、人の「粗忽」を笑うものだが、これだけおバカぶりが堂に入っていると、嫌みにならずにほとんどシュールになる。久しぶりの小痴楽だが、やっぱり面白い。

前座は別にして最初は春風亭昇也で、最初だから宮治をいじって受けていたが、噺は「時そば」。奇術のポロンに続いて、三遊亭小笑は「転失気」(てんしき)。「おなら」のことであるが、それを知らずに知ったかぶりをする。最初の方だから大ネタは出来ないが、今ひとつ。笑福亭羽光は大阪出身だが、東京で活躍する鶴光に弟子入りした。関東、関西の友人二人が秘湯の宿に泊まるが、そこの主人は関西出身者にいじめられて死んだので、関西人っぽいシチュエーションになると化けて出る。何か飲み物をお出ししますと聞かれて、関東人が「アイスレモンティー」を注文するが、関西人が「レイコ」というと幽霊が出るという新作。
バイオリン漫談のマグナム小林を間にはさみ、今も大人気の神田伯山。こういう中にはいると、何だか普通に思えてくる。ネタは平手造酒で、これは一発変換できないから「ひらて・みき」とフリガナを付けないと今は読めない人が多いだろう。天保時代の下総(千葉県北部)にいた剣客で、博徒笹川繁蔵方に付き飯岡助五郎との出入りで死んだ。「天保水滸伝」の途中まで。

桂伸衛門は前に超絶的「寿限無」を聞いたけど、この人も相当変な人だと思う。今回は「マスクの女」という新作で、ある女子生徒を男子生徒が好きになる。コロナ禍の高校生事情を軽妙に描く作品で、女子高生のマネがおかしい。確かに今はマスク越しの会話が多く、マスクなしの顔を体育の時間に見て好きになったというと、「キモい」と返される。女子が男子を見るのはいいけど、男子が女子のマスクなし顔をチェックするのは「キモい」という。だからマスクを取って見せてくれと言って、もめてるところに用務員が現れて…。コロナ時代を代表する新作に磨き上げられていくのか。それとも忘れられてしまう作品か、まだ見極めは難しい。

18日が誕生日の「ねづっち」の謎かけ、小痴楽で中入り。春風亭柳若は古典が多いと言うけれど、今回はロック音楽ファンならではの新作。ロックでメジャーデビューしてインタビューを受ける兄弟グループ。父親がロックなんだから、スラム育ちと言えとか押しつけてくる。瀧川鯉八は前に聞いてるけど、どうにも可笑しなニキビの新作。「ニキビ」というらしいが、ニキビをつぶすかつぶさないかをめぐる祖母と孫の会話なんて、どうしてこんな新作を思いつけるのかな。次の春風亭昇々は見習い泥棒の間抜けぶりを描く「鈴ヶ森」。曲芸のボンボン・ブラザースを経て、いよいよトリの宮治である。

全体を通して、かつてないほど受けていた落語の定席だったと思う。しかし、コロナ禍で飲みにも行けないかつての仲間たちが内輪ネタで盛り上がるサークル同窓会の趣がある。盛り上がりすぎじゃないか、と思わないでもない。桂宮治は笑点メンバーに選ばれたが、それが吉と出るかは本人次第。「笑点」には株価ばかりを気にする外資ファンドみたいなところがある。じっくり聞かせることより、目先の受け狙いにならないで欲しい。とにかく現時点ではもっとも受ける芸人の一人。