尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

原子力発電が「温暖化」を進めるー地球温暖化の論点②

2022年02月01日 22時34分30秒 |  〃 (原発)
 「地球温暖化」を防ぐために「二酸化炭素を排出しない原子力発電所」を増設するべきだという議論がある。ヨーロッパではドイツのショルツ新政権は脱原発と脱火力発電をともに目指す姿勢を受け継いでいるが、フランスは原発回帰が明確である。1月1日にはEUの欧州委員会(European Commission)が「原発と天然ガスをグリーンエネルギーと認定する」とし「投資を歓迎する」という方針を出した。(欧州委員会は、加盟国一人の合計27人で構成される政策執行機関。)これに対し、日本の元首相5人が再考を求める書簡を送ったという。(この元首相は、小泉純一郎、細川護熙、菅直人、鳩山由紀夫、村山富市の5人。)
(欧州委員会の方針を伝えるニュース)
 こういうような「温暖化防止のための原発推進」には多くの批判もある。それらは大体「事故が起きた場合の重大被害」あるいは「放射性廃棄物の処分方法がない」(現状ではどこかの場所に数百年厳重に保管する以外なく、日本ではその最終処分場が決まっていない)という反対論が多い。また日本では福島第一原発事故で多くの人々が家に戻れないままなのに原発を推進するのは倫理的に許されないという考えもある。僕もこれらの意見には賛成だが、原発と地球温暖化の問題はどう考えるべきなんだろうか。

 原子力発電では発電過程では二酸化炭素を排出しないというのは、もちろんその通りである。発電というのは、太陽光そのもののエネルギーを電気に変換する太陽光発電は別として、大体の場合は発電用のタービンを回して電気を作っている。「位置エネルギー」を利用してタービンを回す水力、風力もあるが、多くは熱によって水蒸気を発生させてタービンを回す。その意味では火力発電も原子力発電も「蒸気機関」の一種になる。そして火力発電の場合は、化石燃料を燃焼させて酸化エネルギーを利用する。一方、原子力発電の場合は、原子核分裂を人工的に起こして得られたエネルギーで水を温めることになる。
(フランスは圧倒的に原発に依存)
 酸化の副産物が二酸化炭素だから、核分裂の熱を利用する原子力発電では確かに「温室効果ガス」を出さない。しかし、問題は幾つもあって、最大の問題は排出熱量が大きすぎることである。火力発電の場合は止めればいいだけだが、原発は経済効率的な観点から発電を開始したら(核分裂反応を始めたら)ずっと続けることになる。そのため発電に必要な量を上回るエネルギーが発生する。そこでタービンを回した後の蒸気を水に戻して海に排出する。これが「温排水」だが、ところによっては本来の海温より7度も高いという。原発は点検中のものも多いが、全世界で434基もあるという。それだけ原発が作られて温排水を出していることは地球温暖化の大きな原因の一つなのではないだろうか。

 次に原発の燃料の濃縮ウランの問題。石炭はただ燃やすことも可能だが、原子力の燃料であるウランはそのままでは使えない。核分裂を起こさない大部分のウラン238から、核分裂を起こすウラン235(ウランの0.7%)を取り出す必要がある。これがウラン濃縮で、様々な方法が存在するようだが、どれもものすごく大きなエネルギーを必要とするようだ。日本では原発に使える効率のいいウランは存在せず、核濃縮も(政治的に)出来ないことになっているから、濃縮ウランは全量を輸入している。このウラン燃料の濃縮過程で必要な膨大なエネルギーを温室効果ガスに換算するれば、一体どのくらいになるか。誰かちゃんと計算して欲しい。
(フランスの原発)
 また原発では建設までに膨大な審査がある。そのために火力発電とは比べものにならないぐらい厳格なシステムが作られている。核廃棄物の処理にかかる手間もあるし、危険な核燃料を保管する原発は厳重な警備が(他の発電所以上に)必要になっているはずだ。そのような諸々の(発電以外の)外部費用を全部計算すれば、原発は恐ろしいぐらいに効率が悪くなるのではないか。もちろん火力発電所だって大きな問題はあるが、原発が二酸化炭素を出さないという認識には問題が多い。発電以外の、燃料濃縮、建設までの諸問題、温排水、廃棄物処理など、ものすごい熱を排出しているのが原発ではないか。
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