尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ウクライナ侵攻、戦後国際秩序に挑戦するロシアの侵略

2022年02月25日 23時10分53秒 |  〃  (国際問題)
 ロシアがウクライナに対する全面的侵攻を開始した。すでに首都キエフにロシア軍が侵入しているという報道がある。現時点では不明なこともあるが、2月24日のモスクワ時間午前4時にプーチン「事実上の宣戦布告」演説が行われ、キエフ、ハリコフ、オデッサ等各地にミサイル攻撃が行われた。ウクライナ国防省によれば、ウクライナ時間午前5時(日本時間午後14時)頃にロシア軍が東部戦線で全面攻勢を始めたという。また午前7時頃にはベラルーシ国境からもロシア軍が越境したという。今後さらに詳しく詳しく明らかになっていくと思うが、世界の多くの人は驚きと恐怖をもってニュースを聞いただろう。
(攻撃される首都キエフ)
 僕も今ここまで本格的な攻撃が始まるとは思っていなかった。プーチン大統領は21日にウクライナ東部から事実上の「独立」状態にあった「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」を国家として承認すると発表した。それ自体が国際法違反なのでタテマエでは非難すべきことだが、現実的には「それ以前と変わらない」わけである。そこで「独立」した国同士で条約を結び、「合法的」にロシア軍を駐留させ、ドネツク、ルガンスク両州を「切り取る」方向にロシアが行動すると思っていたのである。だから、当面首都を攻略するというリスクの大きな戦略は採らないのかと思っていたわけである。

 ところでプーチンの事実上の宣戦布告では「特別な軍事作戦を行う」としている。目的は「キエフの政権に8年間虐げられてきた市民の保護」で「ウクライナの非軍事化に努める。領土の占領は計画していない。」と言う。「ロシアに希望を持つ100万人へのジェノサイド(集団殺害)を止めなければならない。ドンバスの人民共和国の独立を認めたのは、人々の望みや苦痛が理由だ。」とも言っているが、どこにジェノサイドがあるのか。「ウクライナの極右勢力とネオナチ」に責任があり、「ヒトラーの共犯者同様、市民を殺害する。ロシアと自国民を守るにはこの手段しかない。」ここまで言うかという非道な演説である。
(「特別な軍事作戦」演説のプーチン)
 ところでこの24日に放送された演説と以下に載せる21日に放送された演説(東部二つの「人民共和国」承認)をよく見ると、背景もネクタイも全く同じではないかという指摘がある。なるほどほとんど同じである。その指摘の意味は、実は21日演説と24日演説は同じ時に取ったのではないかという「疑惑」である。ヴァラエティ番組などでは2回分の収録を同じ日に行うことはよくある。そういうことだったのか。いや、場所が同じなのは当然、ネクタイもたまたまとも言えるが、要するに「すべては事前に決められていた侵攻作戦だったのか」ということである。現時点では何とも言えない問題だ。
(2つの「人民共和国」承認演説)
 ウクライナ危機は昨年末からアメリカなどから何度も警告されていた。しかし、日本での関心は低かったと思う。僕も今までに2回書いたが、読まれた数は映画の感想に比べて明らかに少なかった。24日朝にラジオを聞いていたら、新聞がウクライナ問題ばかりでコロナを軽視しているという特集をしていた。(朝日新聞に抗議したという聴取者がいた。)しかし、東京新聞を見ていると、さすがに今日は別だけど、今までに一度も一面トップでウクライナ問題を報じていない。2つの「人民共和国」承認時も一面トップは「優性保護法、違憲判決」だった。それはもちろん重大判決だが、時事的緊急性からは順序が逆だったと思う。一般では「物価が上がると困る」レベルの心配が多いのではないだろうか。

 しかし、このウクライナ戦争は第二次世界大戦後、もっとも重大な問題と言っても言いすぎではないと思う。第二次大戦後の世界は、国際連合が作られ、国連安全保障理事会が世界の平和を維持することが考えられた。それでも今までに戦争は幾つもあり、悲劇が起こってきた。冷戦時代はその多くが「代理戦争」だった。朝鮮戦争ヴェトナム戦争などである。それらもアメリカ、ソ連などが関わっていたものの、米ソが直接戦ったわけではない。英仏が参戦した「スエズ動乱」(1956)は英仏イスラエルがスエズ運河をめぐってエジプトに侵攻したが、失敗に終わった。

 2003年のイラク戦争では、米英がイラクに侵攻してフセイン政権を打倒した。「戦争という手段はダメだ」「かえって中東情勢を混乱させる」という反対論が多く、結果的にまさにその通りになった。しかし、フセイン政権が独裁政権であるのは間違いなく、アメリカもイラクを領有するわけではない。フセイン政権を打倒した後は、民主的な政権を樹立するとしたわけで、一応その通りになっている。1979年のソ連のアフガニスタン侵攻は、当時のアフガニスタンでは社会主義政党が政権にあり、政権崩壊を避けるため軍の派遣が要請された。だから良いわけではないが、相手政府からの要請に基づくものだったのである。

 それを考えると、戦後で一番似た事態は、1990年8月のイラクによるクウェート侵攻になるのではないか。この時はアメリカを中心にした多国籍軍がクウェートを解放する湾岸戦争(1991年)となった。本来は国連憲章に基づき、ウクライナ防衛のために国連軍が結成されるべきである。しかし、それはロシアの拒否権で不可能だ。では多国籍軍を結成して、ウクライナ支援を行うのか。それも無理だろうと思われる。どこを本拠地とするのか。NATOが介入した場合、「核戦争になる」とプーチンは明言している。自国に核ミサイルが飛んでくる可能性があるのに、ウクライナに介入するヨーロッパ諸国はない。

 プーチンはウクライナ政権を「極右」「ネオナチ」などと呼ぶ。それが自国存立に危機を及ぼす場合、自衛戦争を起こせるというのは、イラク戦争直前の「ブッシュ・ドクトリン」そのものだ。しかし、その論理を主張するなら、ウクライナ現政権を打倒した後で、「国連管理下で真にウクライナを代表する民主的政権を選ぶ自由な選挙」を実施しなければならない。しかし、そんなことをしたら、反ロシア政権樹立が確実である。従って、ロシア軍が長期にわたって駐留してかいらい政権を成立させるということにならざるを得ない。主権国家が侵略されるのを「核の脅し」によって見殺しにするしかないのか

 そんなことは起こらないということを前提に、第二次大戦後の世界は構築されていた。ロシアが安保理常任理事国であって良いのか。この前提が大きく崩れるとき、様々な問題に波及していく可能性がある。それはまた考えるとして、今回のロシアの行動は、2020年のベラルーシの民主化運動をロシアが介入して弾圧したことあって可能だった。ルカシェンコ政権なくして、キエフ攻撃は不可能だった。従ってベラルーシの民主化支援も同時に行う必要がある。ロシアの行動は「支配権確保」という「帝国主義的ふるまい」に近い。僕の見るところ、プーチンこそナチスに近く、2共和国問題はヒトラーによるチェコのズデーテン地方割譲要求に近い。キエフ攻撃は大日本帝国による中華民国首都の南京攻撃に近い。そう思っている。
コメント
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