尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『山女』、過酷な生を描く力作歴史映画

2023年07月18日 21時02分03秒 | 映画 (新作日本映画)
 福永壮志(たけし)監督の映画『山女』を見てきた。そんな映画は知らないという人が多いだろう。僕もよく知らずに見たのだが、これは非常に力のある歴史映画だった。事前に知っていたのは、柳田国男遠野物語』にインスパイアされた東北地方を舞台にした歴史映画であること。福永監督は前作『アイヌモシリ』を作った人という程度だった。主演の山田杏奈もよく知らなかったが、冒頭にキャストが出て森山未來永瀬正敏三浦透子でんでん白川和子などそうそうたる名前が並んでいて驚いた。それだけの俳優を集めた今年屈指の力作である。見逃さなくて良かった。

 18世紀後半の東北地方。冷害が続いて飢饉が広がっている。これは浅間山噴火後に起こった「天明の飢饉」を思わせる。冒頭にお産が出て来るが、とても育てられないと「間引き」されてしまう。その赤ちゃんを処理するのが「」(りん=山田杏奈)である。僅かな金を貰って、子どもを川に流している。次第に判ってくるが、凛の父親伊兵衛永瀬正敏)の曾祖父の時代に火事を出して、懲罰として村から田畑を取り上げられた。その後は村の汚れ仕事を引き受けて細々と生きてきたのである。

 凛は折々に山(早池峰=はやちね)を仰いで心を静めている。(早池峰は岩手県にある山だが、ラストのクレジットを見るとロケは山形県で行われている。)そんな凛に同情している駄賃付けの泰蔵二ノ宮隆太郎)もいる。一緒に村を出ようと言うが、凛は父と弟を捨てて逃げられないと言う。藩からのお救い米が配給されるが、伊兵衛一家にはごく僅かである。これでは暮らせないと父は蔵から米を盗もうとする。父が村人に責められると、凛は自分がやったと言うのだった。
(凛と泰蔵)
 そして翌日、凛は村はずれの結界を越えて、「山」へ入っていく。父親は凛が「神隠し」にあったという。しかし、泰蔵は凛が山で生きているかもしれないと考えている。ある日、マタギたちが「山男」を見たと言って下りてきて、泰蔵はそこに凛もいると考えて連れ戻そうとする。その間、凛は謎の「山男」(森山未來)に出会っていた。泰蔵たちは結局凛を連れ戻すが、その頃村では凛を新たな犠牲にしようと目論んでいたのである。詳しくは書かないが、ラストまでの「怒濤の展開」には驚くしかない。
(凛と山男)
 東北地方を舞台にした土俗的なホラーっぽい物語を想像していたら、実際は困窮する村の差別構造を厳しく描き出す話だった。映像的魅力もたっぷりで、凛を演じた山田杏奈の魅力も素晴らしい。『樹海村』『ひらいて』『彼女が好きなものは』などに出たというけど、どれも見てない。凛に心を寄せながら、結局連れ戻して苦難に陥らせる泰蔵役の二ノ宮隆太郎は映画監督でもあり、『逃げきれた夢』を見たばかり。定時制高校の教頭を光石研が演じる映画で、題材に興味を持って見たがここでは書かなかった。ロマンポルノの人気女優だった白川和子が巫女を演じて貫禄たっぷり。
(福永壮志監督)
 それより僕がビックリしたのは、共同脚本をお気に入りの長田育恵(おさだ・いくえ)が手掛けていたこと。劇団てがみ座主宰の劇作家で、映画館の紹介記事では「連続テレビ小説『らんまん』を手がける」と出ていた。えっ、『らんまん』は長田育恵が書いてたの? 見てないから知らなかったんですけど。監督、共同脚本の福永壮志は1982年生まれで、『リベリアの白い血』『アイヌモシリ』に続く長編第3作。傑出した演出力と力強い世界観で見るものの心をとらえる。編集のクリストファー・マコト・ヨギ、音楽のアレックス・チャン・ハンタイなど、全然知らないけど国際的スタッフで作られた作品である。
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