2024年は「袴田事件」の再審無罪判決が確定し、冤罪問題に関心を持つ人にとって忘れられない年になった。年末にはもう一つ福井事件(福井・女子中学生殺害事件)の再審開始も確定した。(事件名は出来るだけ地名で呼ぶべきで、福井事件と描きたい。)10月24日に名古屋高裁金沢支部で開始決定が出て、検察側は異議申立てを行わなかった。再審法廷では新たな証拠調べを申請ぜず、2025年前半には無罪判決が言い渡される見通し。この事件については、以前『福井事件の再審開始を考える』『大崎事件・福井事件の再審棄却』を書いた。つまり一度棄却された再審請求をやり直して、新たに認められたのである。
この事件はもともと変遷を繰り返した知人の証言しか「証拠」らしいものがなく、しかもその「知人」とは覚醒剤事件で警察に勾留中の暴力団少年組員だった。冤罪事件にもいくつかのタイプがあるが、もっとも恐ろしいのがこのタイプだ。自分はずっと否認しているのに、血の付いた被告人を車に乗せたという「証言」が出て来て、それだけで有罪になってしまった。さすがに1審福井地裁は無罪判決だったが、名古屋高裁金沢支部で有罪にひっくり返り、最高裁も追認した。2011年に一度再審開始決定が出たが、これも検察側の異議で棄却に変わり、最高裁も追認した。警察や検察もひどいけど、こうした経過を見てみると、裁判所の責任を考えないわけにはいかない。本来なら1審で、あるいは少なくとも第1回再審開始で終わっていた事件なのである。
このような相次ぐ再審開始を受けて、いよいよ長年懸案の「再審法改正」が現実の課題として浮上してきた。(もちろん「再審法」という法律はなく、刑事訴訟法の再審に関する部分を仮に「再審法」と呼んでいる。)法務省は25年春にも再審制度の見直しについて法制審議会に諮問すると報道されている。法制審の答申は(夫婦別姓制度のように長年放って置かれることもあるが)、基本的には国会に「内閣提出法案」として出されるはずである。再審に関しては、具体的な進行手続きが全く規定されていない。それは明らかに不備なので、改正は当然だ。しかし、なぜ法務省はいま動き出したのだろうか。
再審法改正に関しては、長年日弁連が中心になって改正運動を進めてきた。その様子はホームページ「再審法改正に向けた取組(再審法改正実現本部)」に詳細に出ている。それを見ると、2019年の大会で「①再審請求手続における全面的な証拠開示の制度化の実現、②再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止を含む再審法の速やかな改正を求める決議を採択」と出ている。今までは「絵に描いた餅」のようなものだったが、秋の衆院選で与党過半数割れという状況が生まれた。野党がまとまることにより、日弁連案が衆議院を通過する可能性が出て来たのである。これこそ法務省が「心配」する事態だと考えられる。
いま地方議会では再審法改正を求める動きが拡がっている。すでに全国400超の議会が法改正などを訴える意見書を可決したという。特に袴田事件があった静岡県では年内に県議会と35町村の全議会でそろう予定だ。(東京新聞12月11日社説。)静岡県弁護士会は「法改正を求めるのは冤罪から住民を守る地方議会としての責務」として各議会に働きかけてきたという。これらの「地方の声」は改正が急務であることを法務省に訴える力になる。
日弁連ホームページには「諸外国における再審法制の改革状況」が掲載されている。フランス、ドイツ、イギリスでは検察官の上訴が禁止されている。韓国、台湾を含め、21世紀に各国の法制が変わってきたことも明らかだ。「証拠開示の明確化」だけに止まらず、日弁連や各野党も含めて幅広く検討し「検察官上訴禁止」を実現するべき時だ。袴田事件では検察側は再審法廷でも有罪を主張したのである。それが出来る以上、何も再審開始決定に異議を申したてる必要はなく、異論があれば再審法廷で述べれば済む。法制審答申を待たず、各野党も真剣に検討を開始して欲しい。
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