『戦雲』(いくさふむ)というドキュメンタリー映画が公開された。三上智恵監督の作品なので、これは見ないといけない。三上監督は毎日放送、琉球朝日放送を経て独立、沖縄をテーマにドキュメンタリーを作り続けている。特に『標的の村』(2013)、『沖縄スパイ戦史』(2018)はキネマ旬報文化映画部門ベストワンを獲得した。これらの映画はちょっと遅れて見たので、記事としては書いてないと思う。しかし、大変スリリングで「面白い」(という表現は語弊があるかもしれないが)映画だった。
今回の『戦雲』も沖縄を舞台にしているが、今まで沖縄本島や沖縄戦を扱っていたのに対し、南西諸島の中でも「先島」と呼ばれる島々、具体的には与那国島、石垣島、宮古島に続々と自衛隊の基地が作られた経過を追っている。8年間に渡り取材を積み重ねた映画で、大変な力作だ。反対派ばかりでなく、多くの人々に取材していて見ごたえがある。というか、事態をどう考えればよいのか、見る者に難問を突きつけてくる。内容的には「政治」「社会」などのカテゴリーで書くべきかもしれないが、映画だから映画館で見るしかない。東京ではポレポレ東中野で上映している。
(南西諸島地図)
日本最西端、台湾に最も近い島である与那国(よなぐに)島に自衛隊が基地を作ろうとしているという話は新聞などで見た記憶がある。反対運動があり、島が大きく揺れたと報道されていたが、2016年に自衛隊の駐屯地が完成した。石垣島や宮古島でも自衛隊基地が増強され、弾薬庫やさらにミサイル基地まで計画されている。これらは東京でも折々に小さく報道されているが、地元の人々の声を含めきちんと取り上げられることは少ない。この間の変化を映像で見ると、この8年間であっという間に軍事化が進行したことが判る。もちろん、言葉で言えば「東アジアの安全保障環境」が悪化しつつあるという背景がある。だが、位置が近いというだけで人口も少ない島々に、これほど軍事基地を集中させるのは何故だろう。
(与那国島)
住民からすれば、「基地があるから戦争に巻き込まれる」心配がある。中国軍がこれらの島々を軍事侵略するというのだろうか。「台湾有事」があったとして、ミサイル基地は攻撃の対象になりうる。基地も何もなければ、外国軍隊は素通りするだろう。特に占領して意味があるとも思えない。基地があって、住民が戦争に巻き込まれる恐れはないのか。それは自衛隊側も認識していて、その際の避難計画を練っているらしい。かつての伊豆大島の三原山噴火時の「全島避難」が前例として参照されている。住民説明会も開かれているのである。事態はそこまで切迫しているのだ。
(与那国馬)
ところで、そういう風なことが起きているのだが、そこには反対運動だけがあるわけではない。基本的にそこにも「日常」がある。与那国島と宮古島は日本在来馬(全部で8種)の「与那国馬」と「宮古馬」がいるところだ。宮古馬は北部にある牧場でしか見られないので与那国馬もそうなのかと思ったら、基地の前の道を悠然と馬が歩いていたりしてビックリ。カジキマグロを追う漁師は、ある日カジキマグロの「角」(正確には前方に長く延びた上顎で、「吻」(ふん)というらしい)に足を刺されて大ケガをしてしまう。しかし、負けてたまるかと奮起しカジキマグロを捕まえると誓う。カジキマグロ漁に成功するかも大きな見どころ。
(集英社新書『戦雲』)
冒頭で反対運動をしている山里節子さんの歌が流れる。「戦雲がまた湧き出てくるよ 恐ろしくて眠ろうにも眠れない」と始まる琉歌である。ここで恐れているのは、沖縄が再び(本土の)犠牲になるのかという気持ちだろう。自衛隊は初めからミサイル基地を作るとは言わなかった。駐屯地を作った後で、どんどん既成事実にしてしまう。宮古島の弾薬庫も初めは訓練はしないと言っていたらしいが、今は日々銃声が聞こえるらしい。しかし、反対運動に参加していた人が、次のシーンでは市議に当選したりしている。日々の日常と進行する軍事基地化、そして抗い続ける人々。是非多くの人に見て欲しいドキュメンタリー映画だ。
今回の『戦雲』も沖縄を舞台にしているが、今まで沖縄本島や沖縄戦を扱っていたのに対し、南西諸島の中でも「先島」と呼ばれる島々、具体的には与那国島、石垣島、宮古島に続々と自衛隊の基地が作られた経過を追っている。8年間に渡り取材を積み重ねた映画で、大変な力作だ。反対派ばかりでなく、多くの人々に取材していて見ごたえがある。というか、事態をどう考えればよいのか、見る者に難問を突きつけてくる。内容的には「政治」「社会」などのカテゴリーで書くべきかもしれないが、映画だから映画館で見るしかない。東京ではポレポレ東中野で上映している。
(南西諸島地図)
日本最西端、台湾に最も近い島である与那国(よなぐに)島に自衛隊が基地を作ろうとしているという話は新聞などで見た記憶がある。反対運動があり、島が大きく揺れたと報道されていたが、2016年に自衛隊の駐屯地が完成した。石垣島や宮古島でも自衛隊基地が増強され、弾薬庫やさらにミサイル基地まで計画されている。これらは東京でも折々に小さく報道されているが、地元の人々の声を含めきちんと取り上げられることは少ない。この間の変化を映像で見ると、この8年間であっという間に軍事化が進行したことが判る。もちろん、言葉で言えば「東アジアの安全保障環境」が悪化しつつあるという背景がある。だが、位置が近いというだけで人口も少ない島々に、これほど軍事基地を集中させるのは何故だろう。
(与那国島)
住民からすれば、「基地があるから戦争に巻き込まれる」心配がある。中国軍がこれらの島々を軍事侵略するというのだろうか。「台湾有事」があったとして、ミサイル基地は攻撃の対象になりうる。基地も何もなければ、外国軍隊は素通りするだろう。特に占領して意味があるとも思えない。基地があって、住民が戦争に巻き込まれる恐れはないのか。それは自衛隊側も認識していて、その際の避難計画を練っているらしい。かつての伊豆大島の三原山噴火時の「全島避難」が前例として参照されている。住民説明会も開かれているのである。事態はそこまで切迫しているのだ。
(与那国馬)
ところで、そういう風なことが起きているのだが、そこには反対運動だけがあるわけではない。基本的にそこにも「日常」がある。与那国島と宮古島は日本在来馬(全部で8種)の「与那国馬」と「宮古馬」がいるところだ。宮古馬は北部にある牧場でしか見られないので与那国馬もそうなのかと思ったら、基地の前の道を悠然と馬が歩いていたりしてビックリ。カジキマグロを追う漁師は、ある日カジキマグロの「角」(正確には前方に長く延びた上顎で、「吻」(ふん)というらしい)に足を刺されて大ケガをしてしまう。しかし、負けてたまるかと奮起しカジキマグロを捕まえると誓う。カジキマグロ漁に成功するかも大きな見どころ。
(集英社新書『戦雲』)
冒頭で反対運動をしている山里節子さんの歌が流れる。「戦雲がまた湧き出てくるよ 恐ろしくて眠ろうにも眠れない」と始まる琉歌である。ここで恐れているのは、沖縄が再び(本土の)犠牲になるのかという気持ちだろう。自衛隊は初めからミサイル基地を作るとは言わなかった。駐屯地を作った後で、どんどん既成事実にしてしまう。宮古島の弾薬庫も初めは訓練はしないと言っていたらしいが、今は日々銃声が聞こえるらしい。しかし、反対運動に参加していた人が、次のシーンでは市議に当選したりしている。日々の日常と進行する軍事基地化、そして抗い続ける人々。是非多くの人に見て欲しいドキュメンタリー映画だ。
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