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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

とおいところ

2005-07-22 15:48:09 | 好きな本

 しんとした気持ちのまま、ずっと深呼吸ばかりしているわけにもいかないので、
先へ進みます。引き続き、旅日和 について。


 この本の、主人公「私」の部屋には、「ひとりの女性が海辺で傘をさして
遠くの海を眺めている」絵が飾られていて、その絵を眺めながら、
「私」は思います。

   彼女は何処かへ行きたいのだろうか。
   それは私の気持ちと一緒だろうか。

   私は彼女の気持ちを通り越し
   心をそわそわ躍らせて
   少し旅に出てみようという気分になった。
 
そうして「私」は小さなトランクに荷物をつめて、車に乗って旅に出ます。


 ある日、ふと思いつき、誰にも相談したりすることなしに、何処かへ行かれる
なんて、なんと贅沢なことなんでしょう‥。今の自分から一番「とおいところ」に
あるものが、こういう旅なので素敵さが、さらに増すのかもしれません。


 遠い太鼓 村上春樹著 のはじめのほうにこんな箇所があります。

「ある朝目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が
聞こえてきたのだ。ずっと遠くの場所から、ずっと遠くの時間から、その太鼓の
音は響いてきた。とても微かに。そしてその音を聞いているうちに、僕はどうしても
長い旅に出たくなったのだ。」

 遠くから聞こえてくる太鼓の音にいざなわれて、村上春樹さんは、ギリシアへと
出かけて行きました。そして、このエッセイを読んだ当時の私もまた、心のざわつきを
抑えることができず、それまでの日常生活から離れた、別の場所へ行く事を選びました。
 そんな思い出があるからなのか、それとも、それが「思い出」のくくりの中に、
いまだに入っていないからなのか。とおいところにいる自分を思ってみたりします。
それは決して、現実からの逃避でも、日々の生活の否定でもなく、ただ想ってみるだけ。

でもいつか、2度目の「とおいところ」があるかもしれないので、そのための準備?
だけはしておこうと思います。

★おまけ★

山本祐布子さんの、切り絵を用いたイラストはとても素敵です。紙の切り口は
シャープなのに、使っている紙に温かみがあるせいか、とてもやさしい図柄に
仕上がっています。ところどころに使われている英文字のロゴとか、本物の消印等が
とても効いています。紙を貼ることによってできる、ほんの少しの高低が作品に
陰影を与えているような(実際に影などできてませんが)気がします。


 







コメント (2)
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