豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

川田順造編「近親性交とそのタブー」 

2024年12月27日 | 本と雑誌
 
 東京新聞2024年12月24日朝刊に川田順造氏の訃報が載っていた。文化人類学者で文化勲章受章者の川田氏が20日に誤嚥性肺炎のために90歳で亡くなったとある。
 川田順造編「近親性交とそのタブー 文化人類学と自然人類学のあらたな地平」(藤原書店、2001年、2018年に「新版」が出たが本文は初版と同じ)は、ぼくが民法の近親婚禁止規定(734条1項)を検討する際に、インセスト・タブーに関する基礎知識を得るうえできわめて有用な本だった(豆豆先生2022年10月28、29日)。
 まず特筆すべきは、インセスト(近親相姦)は、われわれが思っているよりも多く実際に行なわれていると本書の中で数名の共著者が指摘していることであった。
 この本の編者である川田氏も、「現代日本でも実際に多く行われている母と息子の相姦の多くが」、亡くなった夫の姿を、母が成長した息子に感じ取るところに動機をもっている」のに対して、兄妹、姉弟間の相姦は、孤立ないし雑居的居住環境の中である種の強要によって生じるようだと序文に書き(ⅲ頁)、近親者間の性交は実際には行われているにもかかわらずタブーとされている社会が多いことなどを指摘している(10頁)。わが国には「タブー」といえるほどの強いインセスト禁忌はなかったという指摘もあった。「目から鱗」の指摘にたくさん出会い、学ぶことの多い本だった。

 今年の文化の日を控えた頃の新聞で、詩人の高橋睦郎氏が文化勲章を受章することになったという記事を読んだ。高橋睦郎監修の「禁じられた性ーー近親相姦100人の証言」(潮出版社)も、わが国における近親相姦の実情を窺うことができる数少ない文献の一つとして論文を執筆する際に役立ったのだが、高橋氏の業績は必ずしも近親相姦を中心とするものではなかった。
 しかし、川田氏にとって近親相姦(彼は人類学者らしく「近親性交」と没主観的というかザハリッヒな表現をしている)は、まさに中心的なテーマの一つだっただろう。その川田氏も文化勲章受章者だったとは知らなかった。ぼくの論文は期せずして二人の文化勲章受章者の先行文献を参照していたのだ。

 牽強付会の感もあるが、近親相姦に関して文化勲章レベルの業績を持つお二方を今年の新聞紙面で見かけたので、今年の締めくくりとして書き込んでおこう。

 2024年12月27日 記

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