豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

亀井俊介他編『アメリカの大衆文化』(つづき)

2023年02月02日 | 本と雑誌
 
 亀井他編『アメリカの大衆文化』(研究社、1975年)のつづき。
 小野耕世「イノセントであることの暴力ーーコミックスの夢と悪夢」、R・リッシ―「ハードコア大衆文化の世界--小説と映画」、亀井俊介「ジープに乗って山こえてーー結び・アメリカ大衆文化への誘い」を読んだ。

 小野によれば、ディズニーが1920年代に誕生させたミッキー・マウスは、当初は尻尾が生えていたという! 30年以上前に息子に買ったミッキー・マウスのビデオをみると、すでに尻尾はなくなっていた。初期のミッキーがネズミ顔だとは思っていたが、尻尾まで生えていたとは・・・。ミッキーが紳士化して保守化するのと反比例して、保守的だったドナルド・ダックの枠からはみ出した愚行が可笑しく思えるようになったという(263~5頁)。
 ミッキー・マウスの変化を考察するほど見たわけではないが、エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』(東京創元社)には、1920~30年代のミッキーマウスとチャップリン(の “逃走” もの)は、「自由から逃走」するアメリカ人を象徴していると書いてあったのが印象に残っている。
 ナチスと戦った「キャプテン・アメリカ」が、第2次大戦後のマッカーシズムの時代には赤狩り(“Commie Smasher” というらしい)の一番手となり、やがてベトナム戦争の時代には面目を失うという30年以上の歴史も興味深いが(~267頁)、ぼくは「キャプテン・アメリカ」なる漫画(?)をまったく知らない。さらに続く「カッツェンヤマー・キッズ」も「小さな孤児アニー」も知らない。
 自動車王ヘンリー・フォードが「孤児アニー」の熱烈なファンだったが、一方で労働者を弾圧して「流血の月曜日事件」を起こしていたなどという事実をぼくは知らなかった。知っていたら、FORDのフォーカスやフィエスタを好きにはならなかっただろう。
 
 リッシ―も残念ながら、紹介される小説や漫画はぼくのまったく知らないものばかりだった。アメリカのコミックスは、1950年に生れて、日本の貸本マンガや野球少年、少年マガジンなどの雑誌で育ったぼくには何の影響も与えなかった。セントルイス生まれの筆者は、子どもの頃は「デヴィッド・カパフィールド」「宝島」「トムソーヤの冒険」などの映画を見て育ち、高校、大学生になってスタインベック、ヘミングウェイ、ドライザーら原作の映画を見たという(304頁)。
 ここで、辛うじて筆者とぼくの人生が少しだけ交錯することになった。ぼくは1964年、中学3年の夏休みにエリア・カザン監督の映画「エデンの東」を見たのをきっかけに、秋にスタインベックの原作を読み、つづけて「怒りの葡萄」も読んだ。
 2、3日前にNHK-BS プレミアムで「エデンの東」をやっていたが、原作の核心である「人は道を選ぶことができる」(ティムシェル)というセリフは映画にもちゃんと出ていた(下の写真はそのシーン。冒頭の写真も同映画のテレビ画面から)。
   

 亀井は、中学1年のときに敗戦を岐阜の田舎町で迎えた筆者が、ジープに乗ってこの町にやって来た進駐軍のアメリカ兵と初めて出会ったときから、「直接的体験」にこだわった自らのアメリカ研究を回顧する。
 筆者は、映画こそがアメリカだといい、気さくで楽天的で勇ましく正直で正義感があるという映画の中のアメリカ人の姿をすっかり真実だとは信じていなかったが、全体的には「これがアメリカだ」と思っていたという(315~6頁)。
 アメリカ文化の研究がエマソン、ソロー、ホーソンからW・ジェームズ、フォークナーらに至る「頂上の文化」に偏っていたと批判し、「裾野の文化」というべきアメリカの大衆文化の研究の必要性を説く。彼によれば、マーク・トウェインは講演運動(ライシーアム運動?)、サーカス、西部的ほら話(トール・テール)、大衆ロマンス、立身出世物語など当時の大衆文化を取り入れた裾野の広い作家だという(329頁)。 
   
   
 亀井俊介は、ぼくが30歳代に結構読んだ著者の1人だったが(上の写真)、ぼくは彼からどのような影響を受けたのだろうか。彼のいう「裾野の文化」からみたアメリカ民主主義論がどこかに書かれていていて、共鳴したのだろうか。
 トランプを支持する群衆のようなアメリカの「裾野」を見せつけられた今となっては、もはや素直にアメリカの「裾野」に目を向ける気にはなれない。
 これらの本を断捨離することにも、あまり躊躇はなくなってしまった。

 2023年2月2日 記
 
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