旅先でお芝居などをみるのも楽しいもの。昨夏、博多祇園山笠を見にきたときも、博多座でミュージカル”レ・ミゼラブル”を観た。今回の博多旅行でも、仲間由紀恵の”放浪記”を博多座で観てきた。とても良かったですよ。
放浪記といえば、森光子が89歳まで、なんと、2017回公演したという”歴史的な演劇”だから、その後を引き継ぐのは大変なことだろうと思う。いってみれば、巨人軍の新人選手が永久欠番の3番をつけてプレーするようなもの。だから、森光子を何度もみている人は、つい見比べてしまうかもしれない。ぼくは自慢ではないが(笑)、一度もみていないし、知っているのはでんぐり返しだけだから、新鮮な気持ちでみることができた。
仲間由紀恵はでんぐり返しではなくて、違うことをしているらしいということも知っていたので、それも楽しみにしていた。その場面は木賃宿みたいなところに宿泊しているときに、投稿していた”放浪記”が出版されることが決まったという知らせを受けたとき。大喜びの表現としての”でんぐり返し”なのだ。仲間由紀恵の場合はどうか。これは言いません。これから観る人の楽しみを奪うからね。ヒントだけいいますと、若いだけあって、もっと難度の高い体操技です。50過ぎたら、出来ないかも。その頃にでんぐり返しに変更かも(笑)。
この戯曲は、菊田一夫で、もちろん林芙美子の”放浪記”を元にしている。面白いのは人柄の良さそうな菊田一夫が劇中にも現れてくること。若いときにもちらりと顔を出すが、終盤、林芙美子が成功して自宅の書斎で仕事をしている場面でも現れて、仕事で疲れ果てている芙美子を慰める。
成瀬巳喜男監督が林芙美子が好きらしく、彼女の原作をいくつも映画化している。めし、稲妻、浮雲、そして、放浪記。ぼくも、わりと最近、高峰秀子主演の”放浪記”を鎌倉の川喜多映画記念館で観ている。お芝居では初めてだが、この映画や、テレビドラマでも見ているような気がするので、おおまかな筋は知っていた。貧乏生活でいろいろ苦労して、いろいろな人を好きになって、離れて、それでも、文章や詩だけは書き続けた。ようやく、認められて文筆家として世に出る。戦後は多量の仕事を引き受け、ろくに睡眠もとれない生活がつづき、47歳の若さで世を去る。”花の命は短くて苦しきことのみ多かりき”の生涯だった。
比較的、前の席だったので、仲間由紀恵と若村麻由美(ライバル関係の文士志望の日夏京子役)の美貌もたんまり楽しめた(汗)。みなさん、上手な演技で、きっと、連続公演して、森光子の記録をやぶるのでは。ぼくはそのとき、天上で観劇して、大喜びのでんぐり返しをしているかも。
二月からは玉三郎です。歌舞伎好きは博多へ集合!