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【cinema / DVD】『ヨコハマメリー』

2007-09-03 23:29:47 | cinema / DVD
これも公開時気になっていた作品。DVDにて鑑賞。

伊勢崎町に戦後ずっと立ち続けた伝説の娼婦メリーさんについてのドキュメンタリー映画。描きたいのはメリーさんだけではなく、要するに「戦後」、そして「生きる」ということ。

描きたいことは大体分かったし、メリーさんと親しかった元次郎さんという末期ガンのシャンソン歌手の人も、描きたいことの主軸としたい感じも分かった。でも、それだけにメリーさん本人の事がぼやけてしまった気がする。見終わって覚えているのは元次郎さんの事の方が多い気がする。メリーさん本人はほとんど画面には登場せず、いろんな人のインタビューで構成されているので、オネエさん(であろう)元次郎さんの強烈なキャラが印象に残ってしまうのは仕方がないのかもしれないけど・・・。

かつて横浜には根岸家という料理屋さんがあって、そこには接待役の娼婦達がいた。彼女達はパンパンと呼ばれ、中でも米軍相手の娼婦を洋パンと呼んでいたらしい。洋パンでも白人専門、黒人専門と分かれていたとのこと。当時の根岸家の店内の写真も写っていたけど、今の居酒屋よりも明るい感じで、とても夜の商売が行われている感じには見えない。でも、やはり彼女達は娼婦なのだ・・・。

メリーさんは1995年に忽然と姿を消すまで、まるで歌舞伎のような白塗りに真っ黒な目元、そして真っ赤な口紅、真っ白なドレスという姿で通した。若い頃から上品な仕草と言葉遣いや、そのいでたちから「皇后様」と呼ばれていたらしい。不思議と人を惹きつける人だったようで、年を取ってからは何かと世話を焼いてくれる人がいたようだ。でも、やはり娼婦。行きつけの喫茶店や美容院の他のお客達から敬遠され、美容院の店主は申し訳なく思いつつもお断りせざるを得なかったり、喫茶店では彼女専用のカップを用意したりもしたらしい。20世紀も近くなっても娼婦とはそういう存在だったのだ。最近は特に話題にもならなくなったけど、未だに援交などは日常茶飯事に行われているだろう。メリーさんも、あの時代の娼婦たちも「お金」の為に身を売っていたのは、援交女子高生と同じ。でも重みが違う。彼女達は「生きる」ためにしていたのだ。根岸外人墓地には広い空地にぽつんと十字架が立っている場所があるらしい。それは、彼女達が生んだ、もしくは生めなかった混血児達のお墓。900体はあるらしい・・・。

五木田京子さんという元娼婦だった方がインタビューで語っていた。「世間はいろいろなことを言う。でも、誰が食べさせてくれるというのだ。生きてかなくちゃならなかった。」と。その言葉に潔さを感じる。彼女をフィーチャーしたチャリティー・ライブの映像もあった。三味線を鳴らしながら歌い、若い客を煽る姿は単純にカッコイイ。きっと辛い思いや悔しい思いをたくさんしただろう。でも、全てを飲み込んで貫いた人は素敵だ。

メリーさんも貫いた人生ではあった1995年までは。GMビルというビルの廊下にパイプ椅子を2つ並べて眠る。夜になると白塗り、白ドレスで着飾って夜の町に出て行く。1995年に74歳だったメリーさんを買う男性はほぼいなかったのでしょう。雑居ビルのエレベーター前に立ち、居酒屋に来た客の為エレベーターを呼ぶ。中にはチップをくれる人がいたらしい。施しは受けない、自分で稼ぐという事なのでしょう。不思議と憐れは感じない。これもまた五木田さんとは別の潔さ。ただ、五木田さんという強烈な存在があったため、メリーさんの存在感が少し薄れてしまった。

メリーさんに対して親身になってくれたのは、元次郎さんとクリーニング店白新舎のご夫婦。彼らには少しずつ身上を話していたらしい。彼らが実際どこまで知っているのかは分からないけど、結局メリーさんの本当の姿は分からなかった。伝説の娼婦ヨコハマ・メリーなのだから謎のままの方が確かにいい。なら、謎のままの方がよかったのではないか? 最後にメリーさんは意外な姿で現れる。別に意外でもないのだけれど・・・。なんだか、伝説にしたかったのか、メリーさんの実像に迫りたかったのかよく分からない。

正直、メリーさんの白塗り姿にはインパクトを受けたし、74歳まで娼婦として街に立っていたという逸話からは、何だか物凄く異様なくらいの強烈な人なのかと思っていた。確かに、あの生活を送ってきたからには並大抵の覚悟ではなかったのかもしれない。上手く言えないけど普通の人だなという印象。確かに、強い人ではあったと思う。それは五木田さんのように表に出る強さではない。内に秘めた強さ。表面はむしろ儚げ。それは実際そういう人だったのか、それともそういう演出のせいなのか?

興味深かったけれど、結局メリーさんという人自体は掴みきれなかった。「戦後」についても「生きる」ということについても、そんなに深々と考えてしまうまでには至らず。


『ヨコハマメリー』Official site

コメント (6)
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