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【cinema】『ファクトリー・ガール』

2008-05-09 01:54:49 | cinema
'08.05.05 『ファクトリー・ガール』@シネマライズ

アンディー・ウォーホルのミューズであり、ボブ・ディランの恋人でもあったイーディ・セジウィック。旧家の令嬢で美女。BETSEY JOHNSON初代モデルで、黒タイツを流行させたのは彼女。ピクシー・カットと大きなイヤリングで'60年代のファッション・アイコンとなった彼女をウォーホルは”スーパースター”と称した。そんな彼女の栄光と挫折を描いた映画。これはギラギラと宝石のように輝いて、そして辛く悲しい映画だった。そして芸術家というものを知るにはとても良い映画だと思った。

イーディは一見何もかも持っている恵まれた人物に見える。でも、本当は違う。家庭に問題があり、そのことで彼女はずっと傷ついてきた。自分の意にそわなければ我が子でも簡単に切り捨てる父親。自分を押し殺し、娘を犠牲にしても何かを守ろうとする母親。表面上は紳士でも最低の人間。そういうのを見せるのが上手い。事前にウォーホルの映画撮影シーンで自殺した兄と父との関係を語らせて伏線を張り(実際の映画でも語っているのかもしれないけど・・・)、ウォーホルとの食事会での父の傍若無人ぶりで、彼女がどんな家庭で育ったのか見せる。そっと父が彼女の腕を触る感じで、2人の間に何があったのか分かる。母親も彼女の部屋で快活に話し、芸術的センスを見せていたのに、ここでの態度には全くそれが感じられない。娘とその友人をかばうこともしない。そういう感じを見せるのが上手い。

ウォーホル主宰のファクトリーに集う人々は個性的、もしくは個性的でありたいと思っている人々。そして、そう思われることで自分の価値を見出そうとしているように感じる。だからどんどん過激になり、過剰になる。ただ、そこに居るだけで人を惹きつけるイーディに憧れつつも嫉妬しているよう。ファクトリーについてもそこにいた人々についても、あまり良く知らないので、本当はどうなのか分からないけれど・・・。でも、凡人がカリスマ性を持つ人物に憧れと嫉妬心を抱くのは当然の事だし、本当は世の中凡人だらけなのだ。でも、実際に社会を支えているのは多くの凡人なのも事実。もちろん私もその1人。だからよく分かる。

ウォーホルについてはもちろん知ってたし「エリザベス・テイラー」は大好き。チェコ移民という事も、イーディとの事も少しだけ知識はあった。ハッキリ認識していたわけじゃないけどゲイだろうと思っていた。映画の中でも明確には言ってないけどにおわせてはいる。芸術家にありがちな気難しさ。でも、それは繊細で傷つきやすい心と、劣等感からくるもの。自分の容姿や、貧しい移民の子であることにも劣等感がある。その裏返しで旧家の令嬢で美貌、天真爛漫(に見える)イーディに惹かれた。でも、それはカリスマに対する憧れだけではない。芸術家として彼女から何かを得たいと思ったからだし、利用しようと思ったからだと思う。どこまで意識していたかは謎だけど。それをエゴと取るか、芸術の糧と取るか・・・。利用されるだけなら気の毒だけど、お互い得るところがあるなら決して悪い関係ではない気がする。

ウォーホルはイーディを切り捨てるけど、彼にしてみれば裏切ったのは彼女の方なのだろう。彼のように過度の劣等感を持つ人物は、裏切られた事は赦しがたいことなのだと思う。劣等感を隠す為プライドの高さで武装する。そのプライドを傷つけられたのだから赦さない。ウォーホルのそんな態度を正しいとは思わないし、そのことが彼女を追い込んだのだとしたらひどい気もするけど、彼の孤高な感じは分かる気がした。そして、そんな人生も辛いだろうと思う。

ボブ・ディラン(映画ではボビー)との出会いのシーンがいい。尊敬するMJが大ファンなのにディランについては詳しくない。でも、この映画のボビーはかっこよかった。ウォーホルとは別の繊細さと、自分の信念は絶対曲げない強さがある。少しシャイな感じも母性本能をくすぐられる(笑) 彼は彼できっと難しいタイプだろう。彼の求める自分でいるのは大変かもしれない・・・。

イーディは2人の強烈な個性に引き裂かれてしまったように思う。彼女がもう少し自信を持てていたら・・・。彼女を知る人は「彼女は弱すぎた」と語るけど、その弱さの裏返しの大胆さが彼女の輝きだったとも言える。強く人を惹きつける人というのは相反する2面性を持っているのかもしれない。強さと弱さ、善と悪・・・。本人は大変だと思うけど。そして芸術的な何かを生み出す人は感受性が豊かなのだ。そんな人は凡人が見えない世界が見える反面、見なくてもよい世界も見てしまう。きっとすごく振り幅が大きい。そして、心に傷を負って生きてきた彼女"It Girl"になることで自分を愛して欲しかったし、自分を愛したかったかのも。どん底でファクトリーの仲間からボロボロにされた時、友人シッドが彼女を救ってくれる。シッドがボロボロの彼女を抱きしめた時、涙が止まらなくなった。ちゃんと見ている人はいるよと言ってあげたかった。

映画は半ドキュメンタリー形式で進む。彼女がインタビューに答えているようなシーンが何度も差し込まれる。穏やかな表情の彼女に"It Girl"の面影はない。見ている側としては少し物足りなさも感じるものの、楽になれてよかったとも思う。どこか諦めてしまったようでもある。結局overdoseでこの世を去る。28歳だった。彼女より年上になってしまった私は、彼女がかわいそうでならなかった。哀れみとも違う。

俳優達はみな素晴らしかった。シエナ・ミラー熱演。スーパースターとしてキラキラ輝いている時も、どこか所在なさ気な感じがいい。そして病院での穏やかな、でも何かを諦めたような表情。'60年代ファッションが華奢な体に合って素敵。時々久本雅美似だけど(笑) ボビーのヘイデン・クリステンセンも良かった。ファクトリーの人達よりややダサめな感じもいい。ボビーとウォーホルのカメラテストのシーンが素晴らしい! ボビーがウォーホルを叩きのめしているようだけど、ウォーホルは間違いなくボビーに惹かれている。その感じがエロティック。このシーンでウォーホルがゲイであることを確信。このシーンの2人の演技は見事。直後エレベーターでイーディに手を差し伸べるシーンがいい。彼の手を取っても上手くいかなかった気もするけど・・・。ウォーホルのガイ・ピアースが素晴らしい。ウォーホルに成りきって立ち位置までこだわったそうだけど、ウォーホルその人より1人の芸術家を見ているよう。まぁ、優れた俳優も芸術家ではあるけど。彼の演技は必見。

1人の女性の話としては哀しい。でも、あの時代の持つギラギラとした感じと、閉塞感からくる爆発力みたいなものを感じた。'60年代ファッションやシーンの感じがいい。The Velvet Undergroundにもニヤリ。


『ファクトリー・ガール』Official site

コメント (4)
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