'08.07.25 「対決 巨匠達の日本美術」@国立博物館 平成館
これは見たかった! 今更言うまでもない巨匠達の作品を対決という形で紹介する展覧会。ホントにライバル関係だったり、師弟関係だった2人もいれば、100年の隔たりがある2人もいる。これはなかなかおもしろかった。
いきなり運慶VS快慶対決。それぞれ鎌倉時代のスーパースター仏師。実は快慶は運慶の父の弟子だったそう。2人の関係がどうだったのかはイマヒトツ分からなかったけど、東大寺南大門の阿形像は2人の共作なのだそう。出展は地蔵菩薩像1点ずつ。運慶が坐像で快慶が立像。運慶の坐像は衣のドレープが美しく、表情も女性的。すっきりとした優しいお顔。これは素晴らしい。背中までしっかりと作りこまれている。快慶の立像は小さい。ドレープはあえてあまり表現せずシンプル。お顔もどっしりと男性的。どちらもいいけど運慶の方が好み。ちなみに、地蔵菩薩は弥勒菩薩の使いで、人々を六道から救うのだそう。
続いて雪舟VS雪村。雪舟の「慧可断臂図」が素晴らしい。達磨に弟子入りを懇願する慧可が自らの左腕を切り落とし差し出すシーン。正直気持ちのいい題材ではないし、墨一色で描かれた絵は少し不気味。でも、やはり迫力がスゴイ。近くで見るより離れて見たほうがいい。遠近法で描かれた慧可と達磨が対角線上にいて、2人の立場の違いがよく分かるし、洞窟奥にいる達磨の鬼気迫る表情が際立つ。
次が永徳VS等伯。この2人は本当にライバルだったらしく、特に等伯はライバル心を燃やしていたらしい。永徳の「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」は永徳にはめずらしく墨一色で描かれている。カラスが素晴らしい。でもやっぱり「松林図屏風」! この日のお目当ては若冲とこの絵。27日までしか展示されていないので慌てて見に来た。6曲1双の屏風に描き出された幽玄の世界。余白を多く取り、墨の濃淡だけで表現された松林。松林といっても鬱蒼と茂っているわけではない。そのバランスが素晴らしく、その淡い今にも消えてしまいそうな松の感じが、なんともいえず胸に迫ってくる。実はこの頃、等伯は親交のあった千利休と、実の息子を亡くしたばかりだったそう。そう考えると世の儚さを感じると共に、どこか向こう側の世界を見ているようにも思う。勝手な感想だけど・・・。
長次郎VS光悦は焼物対決。千利休により考案された楽焼を完成させた長次郎の「赤楽茶碗」がいい。「銘無一物」とされているところに自信の程がうかがえるのだそう。対する光悦の「赤楽茶碗 銘加賀光悦」はオレンジ! その色がすごい。なんとも斬新。長次郎は利休から受け継いだ「わびさび」を重んじた作風。光悦は斬新な形や色、彩色のものが多い。焼物では甲乙つけがたく、どちらも好きだったけれど、宗達と光悦のコラボ「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」が素晴らしく良かった。銀色で描かれた鶴が左方に向かって羽ばたいていく姿と迫力が素晴らしいけど、この絵は宗達によるもの(笑) 光悦は筆だけどこの文字は美しい。2人のコラボは多いそうで、これは素晴らしかったので、是非他の作品も見てみたい。
宗達VS光琳。宗達の「蔦の細道図屏風」が素晴らしい。「伊勢物語」を題材にしているけど、緑で道のようなものがあいまいに描かれている。これは正面から見るより左右から見る方がいい。道は1本に繋がるのだけれど、正面よりハッキリするし、左右で全然景色が違う。特に左がいい。烏丸光広の賛が素晴らしい。宗達は「秋草図屏風」も良かった。構図もいいし、細かくて繊細。これも左右で表情を変える。この屏風の鑑賞の仕方を知ったのは良かった。光琳は「菊図屏風」がいい。菊が盛り上がって見える。これは良かった。本来この展覧会の目玉は「風神雷神図屏風」対決。宗達を尊敬していた光琳が写したもの。でも残念ながらこれは最終週のみの展示。見たいけど、来れるかなぁ・・・。
第2会場へ移動して、応挙VS芦雪。ここは虎対決! まずは応挙の「猛虎図屏風」これは素晴らしい。さすが応挙という迫力と繊細さ。毛並みは虎の敷物を参考にしたとの事でこれが細かい! 気が遠くなるほどの細かさ。体の動きがしなやかだけどやや猫っぽいのは仕方なし。白虎の眼光鋭い迫力がスゴイ! あえて地面は描かず座った時に同じ目線になるよう配置されているそうで、これはすごい迫力だと思う。なぜか豹が描かれているのは、豹は虎の雌だと考えられていたからなのだそう(笑) そして芦雪の「虎図襖」 これは素晴らしい。今回見た絵の中で2番目に好きだった。3mを超える大作。襖2枚いっぱいに描かれている。左前足を前に踏み出し、挑むように頭を突き出している。今にも飛び掛ってきそう。うなり声まで聞こえてきそうな迫力が素晴らしい。応挙の虎に比べるとやや漫画的に見えるけれど、この大作を描く線には全く迷いがない。尻尾の先まで手を抜くことなし。これは素晴らしい。見れて良かった。裏には参考にしたという猫の絵が描かれているそう。それも見てみたい。
仁清VS乾山。こちらも焼物対決。乾山の「色紅葉図透彫反鉢」がいい。紅葉の形に切り取られた茶碗のふち。枝の形にそった透かし彫りもいい。形も斬新。紅葉の名所竜田川を描いているという景色は、外側と内側の絵が繋がる仕組み。これは見事。仁清の「色絵竜田川水指」も良かった。
円空VS木喰は木像仏の対決。どちらも素朴なお姿が特徴。もともと円空の方が好み。円空の「虚空蔵菩薩像」がいい。断割った丸太を大胆に彫ったお姿がいい。まるで刀で彫り出したかのよう。そのお顔は線で表現されている。素朴で大胆。そしてこれは絶対に真似できない。この辺りになると閉館まで時間がなくてじっくり見れなかったのが残念。とにかく混んでいる。
ルート的には次は若冲VS蕭白だけど、大好きな若冲は後で語るとして、大雅VS蕪村の中国文人画対決。あまり好きなタイプの題材ではないので全体的にグッとこなかったけど、蕪村の「楊柳青々・一路寒山図屏風」は良かった。
歌麿VS写楽はもっとじっくり見たかった。だけど、浮世絵ってもともと小さいし、とにかく混んでて見えない。歌麿は大好き。「婦女人相十品・ポッピンを吹く娘」はいい。写楽といえば「市川蝦蔵の竹村定之進」はさすがの迫力。写楽の絵はデッサン的におかしい点があるけれど、そのデフォルメし過ぎギリギリの感じは唯一無二。やっぱりいい。歌麿の「歌撰恋之部・物思恋」がいい。その表情が素晴らしい。さすが歌麿!
鉄斎VS大観がラスト。しかし点数が少ない。鉄斎2点、大観1点。大観の「雲中富士図屏風」は富士を青で描いた大作。これがホントのラスト。でも、正直あまりグッとこなかった。
若冲VS蕭白を最後にしたのは、もう単純に若冲が大好きだから。正直、蕭白は好きではなかった。「唐獅子図」は迫力があって良かったけど、他は全体的に不気味・・・。若冲は素晴らしい! 若冲の良さはその写実性。普通は描かない枯れた葉まで完璧に描写する。でもそれはただ写真のような絵というわけではない。その構図の大胆さや繊細さと彩色の美しさが相まって、いつまで見ていても飽きない。そして新しい。もうホントに大好き。「仙人掌群鶏図襖」は圧巻。6面の襖に8羽の鶏。尾の先まで丁寧に描かれた鶏が素晴らしい。庭にたくさんの鶏を放し飼いにして写生していたというその描写力は見事。鶏が今にも動き出しそうな迫力。でも、どこかかわいらしい。そして、この”かわいらしい”は本日1番好きだった1枚「雪中遊禽図」にも言える。これはやられた! 完全に心を奪われた(笑) まず2羽の鴛鴦がかわいい。枝振りが大胆な木の構図もいいし、その枝に散らされた花が美しくてかわいい。その花の淡いピンクが鴛鴦の足のピンクと呼応して、雪景色に何とも言えない温かさを加えている。これは、ホントにやられた! しばし動けず。やっぱり若冲は素晴らしい!
というわけで大満足。1,500円は安いと思う。あと「風神雷神図屏風」対決も見れたら言うことないんだけど・・・(涙)
「対決 巨匠達の日本美術」Official site
これは見たかった! 今更言うまでもない巨匠達の作品を対決という形で紹介する展覧会。ホントにライバル関係だったり、師弟関係だった2人もいれば、100年の隔たりがある2人もいる。これはなかなかおもしろかった。
![](https://yaplog.jp/cv/maru-a-gogo/img/582/img20080818_p.jpg)
続いて雪舟VS雪村。雪舟の「慧可断臂図」が素晴らしい。達磨に弟子入りを懇願する慧可が自らの左腕を切り落とし差し出すシーン。正直気持ちのいい題材ではないし、墨一色で描かれた絵は少し不気味。でも、やはり迫力がスゴイ。近くで見るより離れて見たほうがいい。遠近法で描かれた慧可と達磨が対角線上にいて、2人の立場の違いがよく分かるし、洞窟奥にいる達磨の鬼気迫る表情が際立つ。
次が永徳VS等伯。この2人は本当にライバルだったらしく、特に等伯はライバル心を燃やしていたらしい。永徳の「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」は永徳にはめずらしく墨一色で描かれている。カラスが素晴らしい。でもやっぱり「松林図屏風」! この日のお目当ては若冲とこの絵。27日までしか展示されていないので慌てて見に来た。6曲1双の屏風に描き出された幽玄の世界。余白を多く取り、墨の濃淡だけで表現された松林。松林といっても鬱蒼と茂っているわけではない。そのバランスが素晴らしく、その淡い今にも消えてしまいそうな松の感じが、なんともいえず胸に迫ってくる。実はこの頃、等伯は親交のあった千利休と、実の息子を亡くしたばかりだったそう。そう考えると世の儚さを感じると共に、どこか向こう側の世界を見ているようにも思う。勝手な感想だけど・・・。
長次郎VS光悦は焼物対決。千利休により考案された楽焼を完成させた長次郎の「赤楽茶碗」がいい。「銘無一物」とされているところに自信の程がうかがえるのだそう。対する光悦の「赤楽茶碗 銘加賀光悦」はオレンジ! その色がすごい。なんとも斬新。長次郎は利休から受け継いだ「わびさび」を重んじた作風。光悦は斬新な形や色、彩色のものが多い。焼物では甲乙つけがたく、どちらも好きだったけれど、宗達と光悦のコラボ「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」が素晴らしく良かった。銀色で描かれた鶴が左方に向かって羽ばたいていく姿と迫力が素晴らしいけど、この絵は宗達によるもの(笑) 光悦は筆だけどこの文字は美しい。2人のコラボは多いそうで、これは素晴らしかったので、是非他の作品も見てみたい。
宗達VS光琳。宗達の「蔦の細道図屏風」が素晴らしい。「伊勢物語」を題材にしているけど、緑で道のようなものがあいまいに描かれている。これは正面から見るより左右から見る方がいい。道は1本に繋がるのだけれど、正面よりハッキリするし、左右で全然景色が違う。特に左がいい。烏丸光広の賛が素晴らしい。宗達は「秋草図屏風」も良かった。構図もいいし、細かくて繊細。これも左右で表情を変える。この屏風の鑑賞の仕方を知ったのは良かった。光琳は「菊図屏風」がいい。菊が盛り上がって見える。これは良かった。本来この展覧会の目玉は「風神雷神図屏風」対決。宗達を尊敬していた光琳が写したもの。でも残念ながらこれは最終週のみの展示。見たいけど、来れるかなぁ・・・。
第2会場へ移動して、応挙VS芦雪。ここは虎対決! まずは応挙の「猛虎図屏風」これは素晴らしい。さすが応挙という迫力と繊細さ。毛並みは虎の敷物を参考にしたとの事でこれが細かい! 気が遠くなるほどの細かさ。体の動きがしなやかだけどやや猫っぽいのは仕方なし。白虎の眼光鋭い迫力がスゴイ! あえて地面は描かず座った時に同じ目線になるよう配置されているそうで、これはすごい迫力だと思う。なぜか豹が描かれているのは、豹は虎の雌だと考えられていたからなのだそう(笑) そして芦雪の「虎図襖」 これは素晴らしい。今回見た絵の中で2番目に好きだった。3mを超える大作。襖2枚いっぱいに描かれている。左前足を前に踏み出し、挑むように頭を突き出している。今にも飛び掛ってきそう。うなり声まで聞こえてきそうな迫力が素晴らしい。応挙の虎に比べるとやや漫画的に見えるけれど、この大作を描く線には全く迷いがない。尻尾の先まで手を抜くことなし。これは素晴らしい。見れて良かった。裏には参考にしたという猫の絵が描かれているそう。それも見てみたい。
仁清VS乾山。こちらも焼物対決。乾山の「色紅葉図透彫反鉢」がいい。紅葉の形に切り取られた茶碗のふち。枝の形にそった透かし彫りもいい。形も斬新。紅葉の名所竜田川を描いているという景色は、外側と内側の絵が繋がる仕組み。これは見事。仁清の「色絵竜田川水指」も良かった。
円空VS木喰は木像仏の対決。どちらも素朴なお姿が特徴。もともと円空の方が好み。円空の「虚空蔵菩薩像」がいい。断割った丸太を大胆に彫ったお姿がいい。まるで刀で彫り出したかのよう。そのお顔は線で表現されている。素朴で大胆。そしてこれは絶対に真似できない。この辺りになると閉館まで時間がなくてじっくり見れなかったのが残念。とにかく混んでいる。
ルート的には次は若冲VS蕭白だけど、大好きな若冲は後で語るとして、大雅VS蕪村の中国文人画対決。あまり好きなタイプの題材ではないので全体的にグッとこなかったけど、蕪村の「楊柳青々・一路寒山図屏風」は良かった。
歌麿VS写楽はもっとじっくり見たかった。だけど、浮世絵ってもともと小さいし、とにかく混んでて見えない。歌麿は大好き。「婦女人相十品・ポッピンを吹く娘」はいい。写楽といえば「市川蝦蔵の竹村定之進」はさすがの迫力。写楽の絵はデッサン的におかしい点があるけれど、そのデフォルメし過ぎギリギリの感じは唯一無二。やっぱりいい。歌麿の「歌撰恋之部・物思恋」がいい。その表情が素晴らしい。さすが歌麿!
鉄斎VS大観がラスト。しかし点数が少ない。鉄斎2点、大観1点。大観の「雲中富士図屏風」は富士を青で描いた大作。これがホントのラスト。でも、正直あまりグッとこなかった。
若冲VS蕭白を最後にしたのは、もう単純に若冲が大好きだから。正直、蕭白は好きではなかった。「唐獅子図」は迫力があって良かったけど、他は全体的に不気味・・・。若冲は素晴らしい! 若冲の良さはその写実性。普通は描かない枯れた葉まで完璧に描写する。でもそれはただ写真のような絵というわけではない。その構図の大胆さや繊細さと彩色の美しさが相まって、いつまで見ていても飽きない。そして新しい。もうホントに大好き。「仙人掌群鶏図襖」は圧巻。6面の襖に8羽の鶏。尾の先まで丁寧に描かれた鶏が素晴らしい。庭にたくさんの鶏を放し飼いにして写生していたというその描写力は見事。鶏が今にも動き出しそうな迫力。でも、どこかかわいらしい。そして、この”かわいらしい”は本日1番好きだった1枚「雪中遊禽図」にも言える。これはやられた! 完全に心を奪われた(笑) まず2羽の鴛鴦がかわいい。枝振りが大胆な木の構図もいいし、その枝に散らされた花が美しくてかわいい。その花の淡いピンクが鴛鴦の足のピンクと呼応して、雪景色に何とも言えない温かさを加えている。これは、ホントにやられた! しばし動けず。やっぱり若冲は素晴らしい!
というわけで大満足。1,500円は安いと思う。あと「風神雷神図屏風」対決も見れたら言うことないんだけど・・・(涙)
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