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【cinema / DVD】『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』

2008-08-06 01:28:58 | cinema / DVD
これ公開時かなり気になっていた。DVDにて鑑賞。

「パイ作り名人のウェイトレス、ジェナは横暴な夫に悩まされていた。いつか家を出ようとヘソクリするも貯まったのは1,200ドル。その上、夫アールに飲まされて酔ったはずみで妊娠してしまう・・・」という話。ここに産婦人科医ポマターとのダブル不倫が絡んでくるけど、要するにこれは1人の女性の自立の話。ちょっとご都合主義というかお伽的な部分もあるけど、これはすごくおもしろかった。

アメリカの田舎町。頑固で偏屈な老人ジョーがオーナーのパイの店が舞台。アメリカの映画でよく見かけるような店内。カウンターがあって、ボックスタイプの席があってみたいな。でも、このお店の感じすごくいい。ジェナ達3人のウェイトレスが着る制服も含めてとってもレトロな感じ。’60年代とかそいうイメージ。特に水色の開襟のピッタリしたワンピース。襟やボタンのところに白いライン。そして白のエプロン。ストッキングの足元に白のソックス。しかも折り返し。そして白のスニーカー。ダサカワイイ。彼女達の諦めというか倦怠感みたいなものが感じられる。

登場人物達のキャラがいい。ウェイトレス仲間のベッキーとドーン。ベッキーは化粧の濃いオバちゃん。寝たきりのダンナがいる。口は悪いけどいい人。ドーンは30代半ばくらいかな。ホントはかわいいのに青白い肌に自信が持てず今だ独身、彼氏なし。それぞれが少し不幸。でも人生ってそいうものだと少し悟りつつも明るく生きている。そして逞しい。そんな2人が「彼女とは代わりたくない」と口をそろえるのが主人公ジェナ。美人で明るく性格もいい彼女は夫のDVに悩まされている。暴力的なシーンはないけれど、偏屈老人ジョーに一歩も引かない気丈な彼女が怯える様子からそれは感じられる。

夫アールは子供のまま大人になった。多分、彼なりにジェナを愛しているんだとは思う。だからこそたちが悪い。このタイプで厄介なのは彼の中だけでは理屈は通っていること。自分が愛してやっているのだから、自分が何よりも優先されて当然だと思っている。それは嫉妬という大人の感情ではない。駄々をこねているだけ。「子供が生まれても俺を一番大切にしろ」というセリフがアールという人物を物語っている。視点は自分しかない。でも、こんな人は意外にいる。

そんなアールから逃げる計画を進めていた矢先、望まない妊娠が発覚。ジェナはお腹の子供を愛せない。何もかも思い通りに行かない事や、子供を素直に愛せない自分へのイラ立ちがつのり、優しく不思議な魅力のポマターと恋に落ちてしまう。ここでのジェナはすごく積極的というか爆発的(笑) いつも彼女の方が突っ走る。その感じがおもしろい。要するに2人の関係はいわゆる恋愛とは違うのかも。刺激とか慰めとか、言い方は悪いけどストレス発散というか・・・。もちろんお互いを好きなのは間違いないけれど。でも、ジェナはこの恋愛を通して、自分が本当に求めていたものや、本当の自分が分かったんだと思う。

誰だって不安だし、自分に自信なんてなかなか持てない。ましてアールのような夫に抑えつけられていれば劣等感でいっぱいになってしまうと思う。彼のことを軽蔑していたとしても、上手く立ち回れない自分には劣等感を抱いてしまう気がする。でも、ありのままの自分を必要としてくれる人の存在は大きな自信になる。それには恋愛が手っ取り早い(笑) 何より彼はジェナが唯一自信が持てるパイを絶賛してくれたのだ。ジェナのパイ作りの腕は名人級。お店でも人気だし、ベッキーとドーンにも認められている。それはもちろん嬉しいけれど、自分が認めて欲しい相手から認めてもらえた時に、本当に自信が持てるんだと思う。ジェナが求めていたのはそいう相手。不幸なことに夫アールはその相手ではなかった。でも、それをポマターに求めるのも違う。そして本当の「その人」を見つける。それが分かった時、初めて彼女は自から運命に立ち向かう。

脚本がいい。監督、脚本はドーンを演じたエイドリアン・シェリー。自身が妊娠8ヶ月の時に書き始めたらしい。その時の子がジェナの娘としてラストに登場する。出産も妊娠も体験していないので、本当の気持ちは理解できていないと思うけれど、子供を授かるのは喜びも大きいけれど、同時に不安も感じるのだと思う。1人の人間を育てることに対してもそうだけど、自分の世界が変わってしまうという不安もあるんじゃないか。エイドリアン・シェリーは実際にそう感じてこの脚本を書き始めたらしい。本当は自分がジェナを演じる予定だったみたいだけど、ケリー・ラッセルで正解だったと思う。エイドリアン・シェリーはかわいらしい印象。それだとアールのDVがリアルになり過ぎると思う。それよりキリッとした印象のケリー・ラッセルが、自分に自信を持てずにいる方が、見ていて共感しやすい気がする。彼女でも自信がないなら仕方ない的な(笑) 夫のDV、望まない妊娠、不倫など実はテーマは重い。それを少しコメディータッチにして明るく軽やかに描いているのがいい。少しお伽的な部分もあるけどそれもいい。センスがいいと思う。

役者達はみんな良かったと思う。アール役のジェレミー・シストは『unknown』に出ていたみたいだけど気付かなかった(笑) ジェナ役ケリー・ラッセルがいい。ポマターを襲うシーンはいい! そういうコメディー・シーンをちょっとキレ気味に演じることで、よりおもしろくしているのが上手い。頑固で偏屈なオーナー、ジョーのアンディー・グリフィスが良かった。本当は淋しいのに素直になれず、憎まれ口をきいてしまい人に疎まれてしまう。でも、その憎まれ口にはユーモアや的確なアドバイスが含まれている事にも気付く。その感じが絶妙。イライラしながらも唯一相手になってくれたジェナに少しずつ心を開いていくのもいい。それだから後の2つの贈り物が生きてくる。1つ目には泣かされた(涙) 2つ目は予想ついたけれど・・・。まぁ「情けは人の為ならず」ということでしょうか。情けってちょっと失礼か(笑) まぁ、人の情けということで・・・。

全部で200個作ったというパイがどれもおいしそう! ジェナはうれしい事や、辛い事、悲しい事があった時に、その気持ちを表現したパイを焼く。焼けない時にはレシピを考えて気持ちを落ち着ける。そういう風にパイを使っているのがいい。とっても分かりやすいし、単純に見ていて楽しい。パイの名前もおもしろい『アールの子供は欲しくないパイ』(←これはボツになって『悪い子のパイ』に改名)とか『恋するチョコレートパイ』とか。このパイのレシピもエイドリアン・シェリーによるもの。すごい才能だと思う。そんな彼女は2006年亡くなってしまった。とても残念。ご冥福をお祈りします。

この映画に描かれているのはジェナの自立。足かせはお腹の中の子ではなく、自分の中にあった。でも、不幸な結婚も、ポマターのとの恋愛も、ジョーの事も、妊娠そして出産も人生というパイの具みたいなもの。良質な具はパイをおいしくするけれど、具が粗悪ではまずくなる。でも、失敗作を作ってしまうのも、おいしいパイを焼くための試作みたいなもの。失敗を怖れずいろいろ試行錯誤してみたらいいんだと思った。自分の中の足かせを少し意識しつつ・・・(笑) いい映画だった。


『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』Official site

コメント (2)
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