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【cinema / DVD】『オフサイド・ガールズ』

2008-08-08 00:35:43 | cinema / DVD
この映画目当てで見に行ったら終わってしまっていた(涙) DVDにて鑑賞。

「男性が行うスポーツの試合を女性が観戦することは許されていないイラン。国技ともいえるサッカーのドイツ・ワールドカップ予選。スタジアムで観戦したい女の子達は男装して紛れ込もうとするが・・・」という話。これはおもしろかった! ずうずうしい人やチャッカリしてる人は出てくるけど、本当に嫌な人物は出てこない。そして少女達がとにかく明るくたくましい。

初老の男性がスタジアムに向かった娘の乗ったバスを探すシーンから始まる。そこからバスにギッシリ詰まって大ハシャギの男達。その輪からはずれて1人座る人物。少年の姿をしているけどフェイスペインティングをほどこしたその顔は明らかに少女。この導入部がいい。そのいでたちとは逆に、思い詰めたような表情。この時の少女の様子は後の伏線となる。少年の1人は彼女が気になって仕方がない様子。友人に男装の少女であることを指摘すると、彼はせっかく男装して来たのだから、見逃してやろうと言う。少年も悪意から気にしているわけではない。本当に彼女を心配しているのだ。あんまり気にするからてっきり、女が観戦しようとするなんて許せないというタイプなのかと思ったけどそうじゃない。全編そういう感じで、イランとかイスラム教という名前からイメージしていたのとずいぶん違う。確かにコメディータッチで描いているけれど、全体的に目線は公平で優しく温かい。

バスの少女がダフ屋にぼったくられたりしながら入場口に向かうシーンはスリリング。冒頭からここまでは一気に流れる感じでいい。少女は結局逮捕されてしまう。また疑り深く何か理不尽な目に遭うのではないかと思ってしまうけど、連れて行かれたのはスタジアムの屋外に設置された柵で囲っただけのスペース。実はほとんどのシーンはここが舞台。そして本当の見せ場はここから。次々連行されてくる少女達がいい。それぞれが個性的。兵士に「ホントに女か?」と言われるほど美少年ぶりの少女もいる。かなりかっこいい(笑) 彼女達を監視する兵士達もいい。要するに彼らとのやり取りがこの作品の言いたいこと。

少女達の「何故女性は試合を見てはいけないの?」という問いかけに、明確な答えは返ってこない。「日本戦では日本人の女の子は見てたのに!」「それは日本人だから」だから一体何故? それは見ている側の疑問でもある。宗教的な理由だろうとは思うけど、何故なのかは分からない。何故と聞かれると隊長も困る。隊長の答えが正解なのかは分からないけれど、どうやら私が考えていた”男性至上主義”からくる男尊女卑というわけでもないようだ。少なくとも隊長と実況の兵士(試合を実況)にとっては。これはかなり目からうろこ的な衝撃だった。

1人の少女がトイレに行きたいと言い出す。面倒を起こしたくない隊長は拒否するけど、必死に懇願されて結局行かせる。この辺りの隊長の人間くささがいい。小心者。でも悪い人ではない。その普通の人感がいい。だから彼女は後にちゃんと帰って来る。それもいい。実況兵士が付き添って行くことになるけど、このエピソードがすごくいい。彼が必死に守ろうとしているのは、法なのか、任務なのか、少女なのか、自分なのか。まぁ全部だけど(笑) 少女が入っているからと男トイレなのに、中にいる男性達を追い出したり、中に入れないように必死! 男性側を守ろうとしているのか、彼女の方なのか・・・。壁に書いてある落書きの言葉が汚すぎるから見せられないというセリフで、少なくとも彼が信じている男女を一緒にしない理由は理解できた。彼の信じる理由には「女性を守る」という側面もあるのだ。なるほど。それでもやっぱり不自然だと思うけれど・・・。

監督によるとイランでは禁止されている事の境界線が明確ではないことが多いらしい。隊長達がしどろもどろだったのはそのため? 結局、映画を見ても何故女性が観戦してはいけないのか本当の理由は分からない。でも、それを明らかにする事が目的ではないのだと思う。ホントの狙いはもう少し大きく、理由もハッキリしないのに何故禁止なのか?という問いかけなのだと思う。フランスW杯予選の時には、5千人の女性が観戦したそうだけど、少しは緩和される方向なのか。まぁ、政治的アピールという気がするけれど・・・。

少女達がサッカーを見るために男装するというのがなんともかわいい。でも、実は古代ギリシャの時代にも女性の競技観戦は禁止だったけれど、競技見たさに男装して観戦した女性達がいたのだそう。古代ギリシャの観戦禁止理由は、競技者が全裸だったからだった気がするけど違ったかな(笑) イランでも女性が男装して観戦しているというのは公然の秘密のようなものだったらしい。バスの少女がスタジアムにやって来た理由となっているドイツW杯予選日本戦の時、事故で亡くなった7人のうち1人だけ写真が公表されなかったそうで、実は女性だったのではないかと言われているのだそう。真相は分からないけど洋の東西を問わず、今も昔もたくましい女性はいたのだと思うと、なんだかとっても微笑ましい。

そう。この映画ホントに微笑ましかった。それぞれの立場や思惑と、本当の気持ち。その間でオロオロする隊長の姿がおかしくてかわいらしい。懲役で隊長をしているけど、家業の農作業が気になって仕方がない。それを愚痴る姿がホントに情けなくていい(笑) だからこそ少女達の明るさやたくましさが生きてくる。以前、ある男性に「女性はやりたいと思ったら直ぐに行動を起こせるからすごい」と言われたけど、確かにそうかもしれない。本当に自分がそうしたかったら迷わないかもしれない(笑) そういう男女の違いをも見せつつ、サッカーを通じて逮捕した側とされた側に不思議な連帯感が生まれていく。お互いを思いやったりする。彼女達を移送するバスの中で、壊れたラジオのアンテナを必死で直す隊長がいい。サッカーシーンは一切ないのもいい。

問題提起はしている。でも声高じゃない。こんなに見たがっているなら見せてあげたっていいじゃないかというような語り口。隊長たち兵士だって普通の人。そして、どちらも自分の国を愛しているし、誇りに思っている。そういう所をコメディータッチで、体制側でも少女たち寄りでもないスタンスで描いているのがいい。どちらも間違ってはいないと思う。でも、やっぱり国の代表を決める試合を女性だからという理由で見れないのは不自然だと思う。なかなか難しいけど・・・。ジャファル・パナヒ監督の映画は国内より海外で評価が高く、多く見られているそう。ということはやっぱりちょっと痛いところを突いているのでしょう。とっても公平で温かくそして鋭く描いている。でも、批判ではなく問題提起なのになぁ。まぁ、それすら過剰反応する気持ちは分からなくもない。

とにかく明るくたくましい。ホント楽しくて元気になれる。すごく好き!


『オフサイド・ガールズ』Official site

コメント (2)
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