'09.03.20 「生活と芸術 -アーツ&クラフツ展」@東京都美術館
これは見たかった! あんまりギリギリになると混むだろうと思って頑張って行ってきた。結構忙しくて書くのが遅くなってしまった
19世紀後半にイギリスで興った「アーツ&クラフツ運動」 詩人であり思想家、そしてデザイナーでもあるウィリアム・モリスが提唱した運動。産業革命により大量生産される粗悪品を憂いたモリスは生活と芸術を融合させようと主張し、モリス商会を設立。この運動はアール・ヌーヴォー、ウィーン分離派などにも影響を与え、日本では柳宗悦がその思想に共感し、民芸運動を興すことになる。今回はアーツ&クラフツを中心に分離派、そして民芸運動までの流れを見せる展覧会。これはなかなか良かった。
とにかくスゴイ点数。絵画でこの点数だったらビックリするけれど、美術工芸品なので大きなものから小さなものまで様々なので、目だけでお腹いっぱいということはない。モリスといえば壁紙だけど、何点もあった壁紙の中でお気に入り『壁紙見本「果実」あるいは「柘榴」』と『内装用ファブリック「いちご泥棒」』が素敵。『壁紙「デイジー」』もいい。これらは1つのパターンを繰り返しプリントしたもの。デザイン化された花や柘榴がいい。「いちご泥棒」は庭にいちごをついばみに来たツグミの姿を見て描いたものらしい。紺地に花やいちご、葉などをデザインした壁紙はかなり色が濃いので、日本の狭い部屋ではちょっとムリだけど、デイジーなんかはいけるんじゃないかな(笑) 『内装用ファブリック「マリーゴールド」』もいい。茶を基調とした装飾で品がいい。この「マリーゴールド」と「いちご泥棒」はそれぞれ1875年、1883年にデザイン登録されている。
モリスといえば本の装丁と飾り文字、いわゆるカリグラフィーのデザインも有名。『「ジェフリー・チョーサー作品集」用の飾り文字"W(Whilom)"』のデザイン原画と試し刷りもいい。デザイン化されたWに草の蔓や花などをモチーフにした装飾をあしらっていて素敵。『詩の本』では行間に草花の装飾がされている。でも全然じゃまじゃない。モリスの『刺繍壁掛け「蓮」』が素敵! けっこう大きなキャンバス地に暖色系で中央の大きな蓮が刺繍されている。つぼみがピンクでかわいい。ジョージ・ヘイウッド・モーノワ・サムナーの『ポスター「四季 - 春・夏・秋・冬」』 4点組のこれは四季をとおしての農作業を描いたもの。淡い色合い、周りの文字、装飾などミュシャを思わせる。アーツ&クラフツはアール・ヌーヴォーに影響を与えたというけれど、たしかにお互い良い刺激となっていたのかもしれない。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの『聖ゲオルギウス伝ステンドグラス・パネル』がいい。6枚もののこれはサブラ姫をドラゴンから救うという伝説を描いたもの。それぞれの場面が美しく、とってもロマンチックでウットリ。場面を説明する文字も美しい。クリストファー・ウォールのステンドグラス『聖アグネス』が素敵! 横顔の聖アグネスが美しく、全体的に白を基調として作られているけれど、金色の冠と手にした緑がアクセントとなっていて美しい。M・H・ベイリー・スコットの『屏風仕立ての装飾「染織」パネル』がいい。3枚組のこれは円の中に花を描き、茎が下まで伸びて根の部分が組み紐のようになっており装飾的で素敵。3枚ともデザインや色合いはほとんど変わらない。円の中に描いた花のモチーフは日本の家紋を思わせて面白い。
【Ⅱ ヨーロッパ】 ウィーン分離派が有名だけれど、このコーナーで気になったのはエドゥアルト・ヴィンマ=ヴィスグリルの『ブラウス』 紫の地に草の蔓をモチーフにしたピンクの模様のブラウスは、ブラウスそのものよりも、これがプリントであるということが重要。洋服に使用されたのは初めてだそうで、注文が殺到、あのポール・ポワレも使用したとのこと。ペーター・ベーレンスの『電気湯沸かし器』は持ち手が蔓で和風。これは単に熱伝導的なことなのか、やっぱり和を意識してのことなのか・・・? パリ万博で金賞を受賞したノルウェーの刺繍家フリーダ・ハンセンの『羊毛のタペストリー織り[手紡ぎ・手染め]』がスゴイ! かなり大きな作品で、大胆な花柄。これ1990年と109年も前の作品だけど、今見ても全然古くない。まぁ、それは全てに言えることだけど。
【Ⅲ 日本】 最後は日本。モリスのアーツ&クラフツに感銘を受けた柳宗悦を中心とした民芸運動の中から生まれた作品たち。アーツ&クラフツの芸術を暮らしの中にという考え方は民芸運動では、その名のとおり民芸品ということになる。正直、民芸品はその無骨なまでの木なら木、陶器ならば土そのままの風合いが、あまりにもそのまま過ぎてあまり好みではないけれど、藍の地に羽ばたく鳳凰を美しく染め抜いた『筒描鳳凰文色入夜具地』や、釣鐘のように下が広がった『鉄瓶』など、作者も分からない美しい作品を見ると、声高に叫ばなくても生活の中に芸術は自然と根付いているものなのだと思ったりもする。モリス達が彼の新居となったレッド・ハウスに集い芸術論に花を咲かせ次々芸術を生み出していったように、依頼主山本氏(フルネームは失念)の娘の新婚の新居となり、民芸グループの集い場所であった『三国荘』が再現させた展示を見ると、そのパワーとか芸術家達の息吹なんかを感じられて羨ましくもなる。
この『三国荘』の展示が素晴らしい。民芸調のテーブルセットのある応接間よりも、和室の主人室がいい。中央に置かれたテーブルに広げられた紅型のテーブルクロスが素敵。紺地に大きな花モチーフがかわいらしい。床の間の飾り棚も素敵。壁に掛けられた江戸時代後期に描かれた『泥絵オランダ船図』も素朴。安価なので流行したという泥絵の具で描かれた絵自体は特別上手いとは思わないけれど、茶色で描かれた絵は素朴。河井寛次郎の『鉄薬笹絵喜字鉢』がいい。かなり大きな鉢で、お皿といえるくらいわりと浅め。喜という字の流れるようなデザインがいい。
最後に棟方志功の『二菩薩釈迦十大弟子』がある。これは一度見たことがある。上野で興福寺の企画展で仏像を見て十大弟子を作る決心をし、一週間で描いたのだそう。好きとか嫌いとかいうことを超越させる迫力。これはスゴイ。
今回すごくうれしかったことが2点。チャールズ・レニー・マッキントッシュの椅子が見れたこと。マッキントッシュというとラダーバックチェアだけど、これは馬毛やいぐさを使った椅子。『アーガイル・ストリート・ティールームのハイバック・チェア』とあるように、グラスゴーのパブのために作った椅子。デザインに全くムダがない。素敵。同じくこのティールームのために作った石膏の下絵『酒宴』もいい。同時代に活躍したウィーン分離派のグスタフ・クリムトの『ベートーベン・フリーズ』を思わせる感じが面白い。
そしてもう1点。あのオットー・ヴァグナーの『郵便貯金局会議室のアームチェア[肘掛け椅子]』が素晴らしい。オットー・ヴァグナーといえば世紀末ウィーンを代表する建築家。ウィーンを訪ねれば、マジョリカ・ハウスなど彼の素晴らしい芸術的な建物を必ず見せられるはず。『郵便貯金局会議室のアームチェア[肘掛け椅子]』もその一つ。ブナ材で曲線を生かした椅子は黒く塗られ4つの足と肘につけられたアルミのシンプルな装飾のメタル感がいい。多分、アルミは当時の最新素材だったのかもしれない。
というわけで世紀末イギリスから興ったアーツ&クラフツ運動は、パリのアール・ヌーヴォー、ウィーン分離派などと絡み合い、遠く離れた日本にも影響を与え、民芸運動へと展開するのは面白い。でも、アール・ヌーヴォーやウィーン分離派には日本美術が大きく影響しているというのもまた面白い。
入口に書かれたモリスの言葉"役に立たないもの 美しいと思わないものを 家に置いてはならない"というのは感慨深い。それを実行するのはなかなか大変だけど、何も高価なものの事を言っているのではないと思う。自分が美しいと思う物を身の周りに置くだけで心が豊かになる。そういう暮らしがしたいものだと思った。
★「生活と芸術 –アーツ&クラフツ展」:2009年1月24日~4月5日 東京都美術館
「生活と芸術 -アーツ&クラフツ展」(朝日新聞社)
東京都美術館HP
これは見たかった! あんまりギリギリになると混むだろうと思って頑張って行ってきた。結構忙しくて書くのが遅くなってしまった

とにかくスゴイ点数。絵画でこの点数だったらビックリするけれど、美術工芸品なので大きなものから小さなものまで様々なので、目だけでお腹いっぱいということはない。モリスといえば壁紙だけど、何点もあった壁紙の中でお気に入り『壁紙見本「果実」あるいは「柘榴」』と『内装用ファブリック「いちご泥棒」』が素敵。『壁紙「デイジー」』もいい。これらは1つのパターンを繰り返しプリントしたもの。デザイン化された花や柘榴がいい。「いちご泥棒」は庭にいちごをついばみに来たツグミの姿を見て描いたものらしい。紺地に花やいちご、葉などをデザインした壁紙はかなり色が濃いので、日本の狭い部屋ではちょっとムリだけど、デイジーなんかはいけるんじゃないかな(笑) 『内装用ファブリック「マリーゴールド」』もいい。茶を基調とした装飾で品がいい。この「マリーゴールド」と「いちご泥棒」はそれぞれ1875年、1883年にデザイン登録されている。
モリスといえば本の装丁と飾り文字、いわゆるカリグラフィーのデザインも有名。『「ジェフリー・チョーサー作品集」用の飾り文字"W(Whilom)"』のデザイン原画と試し刷りもいい。デザイン化されたWに草の蔓や花などをモチーフにした装飾をあしらっていて素敵。『詩の本』では行間に草花の装飾がされている。でも全然じゃまじゃない。モリスの『刺繍壁掛け「蓮」』が素敵! けっこう大きなキャンバス地に暖色系で中央の大きな蓮が刺繍されている。つぼみがピンクでかわいい。ジョージ・ヘイウッド・モーノワ・サムナーの『ポスター「四季 - 春・夏・秋・冬」』 4点組のこれは四季をとおしての農作業を描いたもの。淡い色合い、周りの文字、装飾などミュシャを思わせる。アーツ&クラフツはアール・ヌーヴォーに影響を与えたというけれど、たしかにお互い良い刺激となっていたのかもしれない。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの『聖ゲオルギウス伝ステンドグラス・パネル』がいい。6枚もののこれはサブラ姫をドラゴンから救うという伝説を描いたもの。それぞれの場面が美しく、とってもロマンチックでウットリ。場面を説明する文字も美しい。クリストファー・ウォールのステンドグラス『聖アグネス』が素敵! 横顔の聖アグネスが美しく、全体的に白を基調として作られているけれど、金色の冠と手にした緑がアクセントとなっていて美しい。M・H・ベイリー・スコットの『屏風仕立ての装飾「染織」パネル』がいい。3枚組のこれは円の中に花を描き、茎が下まで伸びて根の部分が組み紐のようになっており装飾的で素敵。3枚ともデザインや色合いはほとんど変わらない。円の中に描いた花のモチーフは日本の家紋を思わせて面白い。
【Ⅱ ヨーロッパ】 ウィーン分離派が有名だけれど、このコーナーで気になったのはエドゥアルト・ヴィンマ=ヴィスグリルの『ブラウス』 紫の地に草の蔓をモチーフにしたピンクの模様のブラウスは、ブラウスそのものよりも、これがプリントであるということが重要。洋服に使用されたのは初めてだそうで、注文が殺到、あのポール・ポワレも使用したとのこと。ペーター・ベーレンスの『電気湯沸かし器』は持ち手が蔓で和風。これは単に熱伝導的なことなのか、やっぱり和を意識してのことなのか・・・? パリ万博で金賞を受賞したノルウェーの刺繍家フリーダ・ハンセンの『羊毛のタペストリー織り[手紡ぎ・手染め]』がスゴイ! かなり大きな作品で、大胆な花柄。これ1990年と109年も前の作品だけど、今見ても全然古くない。まぁ、それは全てに言えることだけど。
【Ⅲ 日本】 最後は日本。モリスのアーツ&クラフツに感銘を受けた柳宗悦を中心とした民芸運動の中から生まれた作品たち。アーツ&クラフツの芸術を暮らしの中にという考え方は民芸運動では、その名のとおり民芸品ということになる。正直、民芸品はその無骨なまでの木なら木、陶器ならば土そのままの風合いが、あまりにもそのまま過ぎてあまり好みではないけれど、藍の地に羽ばたく鳳凰を美しく染め抜いた『筒描鳳凰文色入夜具地』や、釣鐘のように下が広がった『鉄瓶』など、作者も分からない美しい作品を見ると、声高に叫ばなくても生活の中に芸術は自然と根付いているものなのだと思ったりもする。モリス達が彼の新居となったレッド・ハウスに集い芸術論に花を咲かせ次々芸術を生み出していったように、依頼主山本氏(フルネームは失念)の娘の新婚の新居となり、民芸グループの集い場所であった『三国荘』が再現させた展示を見ると、そのパワーとか芸術家達の息吹なんかを感じられて羨ましくもなる。
この『三国荘』の展示が素晴らしい。民芸調のテーブルセットのある応接間よりも、和室の主人室がいい。中央に置かれたテーブルに広げられた紅型のテーブルクロスが素敵。紺地に大きな花モチーフがかわいらしい。床の間の飾り棚も素敵。壁に掛けられた江戸時代後期に描かれた『泥絵オランダ船図』も素朴。安価なので流行したという泥絵の具で描かれた絵自体は特別上手いとは思わないけれど、茶色で描かれた絵は素朴。河井寛次郎の『鉄薬笹絵喜字鉢』がいい。かなり大きな鉢で、お皿といえるくらいわりと浅め。喜という字の流れるようなデザインがいい。
最後に棟方志功の『二菩薩釈迦十大弟子』がある。これは一度見たことがある。上野で興福寺の企画展で仏像を見て十大弟子を作る決心をし、一週間で描いたのだそう。好きとか嫌いとかいうことを超越させる迫力。これはスゴイ。
今回すごくうれしかったことが2点。チャールズ・レニー・マッキントッシュの椅子が見れたこと。マッキントッシュというとラダーバックチェアだけど、これは馬毛やいぐさを使った椅子。『アーガイル・ストリート・ティールームのハイバック・チェア』とあるように、グラスゴーのパブのために作った椅子。デザインに全くムダがない。素敵。同じくこのティールームのために作った石膏の下絵『酒宴』もいい。同時代に活躍したウィーン分離派のグスタフ・クリムトの『ベートーベン・フリーズ』を思わせる感じが面白い。
そしてもう1点。あのオットー・ヴァグナーの『郵便貯金局会議室のアームチェア[肘掛け椅子]』が素晴らしい。オットー・ヴァグナーといえば世紀末ウィーンを代表する建築家。ウィーンを訪ねれば、マジョリカ・ハウスなど彼の素晴らしい芸術的な建物を必ず見せられるはず。『郵便貯金局会議室のアームチェア[肘掛け椅子]』もその一つ。ブナ材で曲線を生かした椅子は黒く塗られ4つの足と肘につけられたアルミのシンプルな装飾のメタル感がいい。多分、アルミは当時の最新素材だったのかもしれない。

入口に書かれたモリスの言葉"役に立たないもの 美しいと思わないものを 家に置いてはならない"というのは感慨深い。それを実行するのはなかなか大変だけど、何も高価なものの事を言っているのではないと思う。自分が美しいと思う物を身の周りに置くだけで心が豊かになる。そういう暮らしがしたいものだと思った。
★「生活と芸術 –アーツ&クラフツ展」:2009年1月24日~4月5日 東京都美術館

