DVDにて鑑賞。
「嫌な同居人に拾った猫を捨てられてしまい、腹いせに彼の持ち物すべて捨ててしまった鈴子。刑事訴訟を起こされて有罪。前科者になってしまう。実家に居ずらくなり、100万円貯めて家を出る。辿り着いた土地で100万円を貯めたら次の土地に移るという生活を始めるが…」という話。なかなか良かった。蒼井優は演技上手いので、彼女が主演なのであれば、当たらずとも失敗はない気もするけれど。粗筋だけ読むと不思議キャラのような鈴子だけど、彼女の上手く言えない感じや、それゆえトラブルに巻き込まれてしまう感じが、なんだかとってもよく分かった。それは蒼井優の演技とキャラによるところも大きいとは思うけれど。
苦虫といえば「苦虫を噛み潰したような顔」ってことで、てっきり苦々しい顔のことを言うんだと思ってた。一応、辞書によると「不愉快、不機嫌な顔」となっている。予告編によると、この映画では、そんな顔もハッキリとはできず、微妙な表情になっている状態を言うらしい。何に対しても不機嫌で、不満ばかり言っているやっかいな女の子の話なのかと思っていたら、むしろ逆になるべく争いを起こしたくないため、人と関わりを持ちたくなくて、感情を表さないようにしている女の子の話だった。だけど、そうして外に見せているおとなしい印象とは裏腹に、こうしたいとか、これはしたくないみたいな強い気持ちがある。それが普通の人(っていうのもなかなか乱暴なくくりではあるけれど)とは違う感覚だったりするので、人に受入れてもらいにくい。それを分かっているから彼女は人と関わることはあまりしない。だけど、実際はそうではなくて、誰かを必要としているし、必要とされたいと思っているんだと思う。矛盾しているようだけど、関わりたいのに関わりたくないと思うことってある。無意識に関わりたいと思った相手は、多分本当に自分が求めている相手なんだと思う。だけどその人に嫌われるのはイヤだし、拒絶されたら辛い。だったら関わりたくないと思うのかもしれない。
バイト先の友達とルームシェアするところから始まる。簡単に計画を進めていく友人に何となくしっくりこないものを感じていると、部屋が決まった段階になって彼女は彼氏と一緒だから3人で住む事になると言う。本当は嫌だけれどハッキリ嫌と言えない鈴子は苦虫顔のまま。引越し当日になって、友人の彼氏から別れたので彼女は来ないと告げられる。そして悲劇へ。普段摩擦を起こさないように感情を押し殺している人は、感情が爆発するとその分ふり幅が大きい。でも、鈴子のした事は犯罪だけど、映画として見ている分には、あれくらいしたっていいんじゃないかと思ったりする(笑) だけど、この経験が鈴子の心を閉ざしてしまう。人と関わると傷つくなら、なるべく関わらないで生きていこうと思ってしまう気持ちは分かる。弟の言葉に傷つき誰も自分を知らない場所へ行きたいと思う気持ちも。ならば、部屋を借りるのに困らず、仕事が見つからなくてもしばらく暮らせるであろう100万円を貯めたら家を出ようと計画して、実行してしまうところはすごいけれど(笑)
最初の土地は"海の近くの町" 海の家で働き始める鈴子にはカキ氷を作る才能があることが分かる。そういうささいな事が自分に自信を持てずにいた鈴子の自信になる。ここで鈴子は同じバイト仲間の男の子から好意を寄せられる。人から関わりを求められたわけだけど、人と関わりたくないと思っている鈴子には受入れられない。それに本当に自分も彼を求めているなら、頭では拒否しても気持ちが向かっちゃうはず(笑) でも、そうならなかったなら彼は鈴子の求めている人じゃないということ。この時点で鈴子が感じているのは困惑だと思う。自分は関わりたくないのに、関わりを求めてくる人がいる。困ったな(笑) だけど結局、人と全く関わらずに生きては行けない。それは次の"山の近くの町"でより実感することになる。
"海の近くの町"で印象的なシーンがあった。お客さんのいない雨の日、バイト仲間の男子4人がまかないを食べながら、離れたところで店番をする鈴子の事を話し始める。「かわいい」とか「黒髪がいい」とか他愛もないことで、多分そう思ってはいるけれどノリで言っているだけで深い意味はない。意味を込めているのは1人だけ。だけど、それは確実に鈴子に聞こえている。聞こえているけど、聞こえてないフリをしている。ここの蒼井優の演技がいい。自分の存在をなくしたいなどと考える人は、良くも悪くも自意識過剰なんだと思う。女子高生だった頃、似たような経験を何度かした。かわいいと言われる時もあったし、ブスと言われる時もあった。多分、その言葉自体に意味はないんだと思う。でも、かわいいと言われればうれしいかといえば、そういうものでもない。きっと、いい気になって振り向いたりすればバカにされるに違いないと思うし、ブスと言われればもちろん傷つく。自分は何もしていないし、名前も知らない相手からブスと言われるのは辛い。何故なのかずいぶん苦しんだ。嫌いなら嫌いでいいから放っておいて欲しいと思っていた。だけどもしかすると自意識過剰な何かが彼らの注意を引いてしまったのかもしれない。そして、からかわれても上手く流せなかったことで、余計イライラさせてしまったのかも・・・。なんて、すっかりずうずうしくなってしまった今では、当時を少し滑稽に感じながらこのシーンを見た。だから鈴子の気持ちは良く分かった。
"山の近くの町"では桃農家に住み込んで桃の収穫を手伝うバイトをする。ここの中年独身息子がピエール瀧だったのが笑えた。基本的には映画やドラマにミュージシャンやお笑い芸人が出るのは好きじゃない。ジャンルの違う人を使う理由はいろいろあるのだと思うけれど、それが生かされず浮いてしまって見えることが多い気がするので・・・
だけど、この瀧のキャスティングは良かった気がする。特別上手い演技だったとは思わなかったけど、久々に見た若い女性(しかも、かわいい)に心惹かれながらも、上手く関わることができない感じが、瀧のポッチャリ体型と合っていた(笑) 鈴子が入浴中にやって来て、ガラス越しに話しかけるシーンが2度出てくる。1度目は親切からなのか、覗きたいのか分からない演出。2度目はエロい気持ちではなく、本当に心配しているのが伝わってくる。こっちを見せたくて1度目の演出なんだと思うけど、その得体の知れなさみたいなのが瀧の雰囲気と合っている。ホントはいい人で女性に興味もある。そして鈴子が困っていることも、彼女がハッキリ言えない子だと言うことも分かっている。でも、一見どんよりした中年男にしか見えない(笑) たぶん、本当の瀧は違うと思うけれど! 一応フォロー(笑)
鈴子はここで桃娘騒動に巻き込まれてしまう。いわゆるキャンペーン・ガールになってくれという話で、前科のある鈴子はマスコミに登場出来ない。だから自分にはムリだと言うけれど、聞き入れてもらえない。鈴子の側に立ってみれば、嫌だというのに押し付けてくる村の人はわがままだし、逆ギレして「田舎をバカにしている」と言われるのは論点が違わないか? と思うけれど、村の人の側から見れば、他所から来て村の世話を受けているんだから、協力しろというわけで、それもどうかと思うけれど気持ちは分からなくもない。結局、平行線のままヒートアップしてしまい、とうとう鈴子が言いたくなかった事を言わせてしまう。そういう自覚の無い悪意というか、罪悪感のない自己主張の押し付けみたいのはホントに困るよなと思いつつ、鈴子が招いてしまった側面もあるのかなと思ったりする。上手く立ち回れないというか・・・。もちろん、それがダメなわけではない。きっと人間はちょっと言葉足らずだったり、上手く行動すれば相手も自分も傷つかずにすんだのにと思うことを経験して、次は上手く出来るようになっていくんだと思う。
海や山など狭い地域での生活は逆に密度が濃くなってしまうと思ったのか、次に選んだのは"ある地方都市" そこそこ都会。ここで鈴子は恋をすることになる。バイト先の大学生、亮平。この恋愛が不器用で切なくて良かった。亮平もあまり人づきあいが得意なタイプではない。バイト先の飲み会も本当は行きたくない。でも、行きたくないとは言えないので参加はするけど、居心地が悪く帰ってしまう。だけど、2人でいるのは居心地がいい。鈴子は初めて自分のことを語る。それは鈴子が亮平に心を開いたということで、彼に惹かれているということ。そういうのが自然に入ってきた。亮平の告白と、それに応える鈴子のシーンは良かったし、その後、食事を作りに亮平の部屋に行くけど、ここでのぎこちない感じがすごくいい。亮平が慌てて部屋を片付ける感じとか、所在なさげな感じがすごくいい。こんな恋愛もうできないんだろうなぁと思ったりする(笑)
2人の仲が進んでいくと亮平の態度が変わってくる。この辺りの感じもなんか分かるなぁなんて思っていると、鈴子から借金してみたり、デート代のほとんどを鈴子に払わせるようになる。とっても純朴でバイト先の仕事もきちんとこなす亮平には似合わない行動に、見ている側も戸惑う。鈴子が彼をこうしてしまったのかと思ったりもする。もちろんダメなわけではないんだけど・・・。鈴子はこの地で初めて弟からの手紙を受け取る。このシーンで見ている側は、今までそうだと思っていたことが違うことを知ることになる。鈴子は弟がいじめにあっているんじゃないかと感じてはいたけれど、それがどの程度深刻なのか分かっていなかったし、彼が自分を罵倒するのは実はいじめによって傷ついた心のバランスを取るためだったというところまで理解できなかった。もちろん、それも鈴子が悪いわけではない。だけど弟からの手紙で、鈴子は初めて自分が今まで家族にすらきちんと向き合ってこなかった事に気づく。傷つくことを怖れて、人と向き合うことを避けてきたから、より人を傷つけ自分を傷つけることになってしまったのだと理解する。そして亮平ときちんと向き合う決意をする。後から、見ている側は亮平の真意を知ることになるけど、それは切ない。切ないけどあれはやっぱりダメでしょ(笑) まぁ、ダメではないけど彼も結局、きちんと向き合えていなんだということ。このラストは良かったと思う。ハッピーエンドではないけれど、アンハッピーでもないと思う。
桃農家の佐々木すみや、鈴子を農家に世話する喫茶店のマスター笹野高史はさすがの存在感。2人の普通の人の優しさに救われる。地方都市のバイト先の上司、堀部圭亮も良かった。普段はそんなにイヤな人でもないのに、人のミスをグチグチしかる感じがいい。イヤよくはないけど、こういう人いるよなぁと思う。きちんと叱れないでネチネチいう人。彼は彼でコミュニケーションが下手な人なんだと思うけれど・・・。亮平の森山未來が良かった。ぎこちなく鈴子を誘う感じとかも良かったけれど、ヒモ状態の時の演技も良かったと思う。ここで見ている側が亮平にイライラしないと、後のどんでん返しが生きてこないので、そういう意味では良かったと思う。
そして何といっても鈴子の蒼井優が良かった。鈴子は人と関わることが苦手なだけで、決して不思議ちゃんではない。でも、百万円貯めたら次の土地に移って、人と深い関係にならずに自分の存在を消すように生きていこうという発想は結構スゴイ(笑) 不思議ちゃんにも、無謀な子にもなっていなかったのは蒼井優のおかげ。演技もそうだし、彼女の表情や雰囲気に合っている。まぁ、本当の彼女のことは知らないけれど。カキ氷の才能も、桃もぎりの才能もあるってことは、意識過剰にならなければきちんとできる子なんだということ。だけど劣等感があるので、人の目を気にして自意識過剰になるから失敗してしまう感じがすごく伝わってきたし、言いたい気持ちや思いがあるのに、なかなか上手く伝えられないでいる感じもきちんと伝わった。すごく良かったと思う。
いろいろ書いた。鈴子より全然年上になってしまったけれど、きちんと人と向き合えているのかと言われれば自信がない。でも、人間関係に悩んでない人なんていない思うし、誰とでも上手くやっていける自信があると公言する人はむしろ信用できない。そういう事がきちんと伝わってきたし、押し付けがましくなく、あざとくもなくて良かったと思う。亮平の部屋とか、鈴子の部屋とか好きだった。まだ実家にいた頃、鈴子がビルの屋上で100と切り抜いたのり弁を食べるシーンで、海苔がフタの裏についちゃう感じとか、細かいところが女性監督ならではで良かった。このシーンで椅子が百に並んでいたのもツボ。
普段は思い出しもしなかったけれど、中学とか高校の頃の辛い思い出の理由の一端が分かった気がした。分かったからといって傷が無くなるわけでもないし、今では傷跡が残っていたとしても痛みがあるわけでもない。でも、あの時のことはそうだったのかと整理がついた。もしかしたら今苦しんでいる人が見るよりは、古傷を抱えている人が見た方がより冷静に見れるかもしれない。とにかく、そういう意味でも見てよかったと思う。
『百万円と苦虫女』Official site

苦虫といえば「苦虫を噛み潰したような顔」ってことで、てっきり苦々しい顔のことを言うんだと思ってた。一応、辞書によると「不愉快、不機嫌な顔」となっている。予告編によると、この映画では、そんな顔もハッキリとはできず、微妙な表情になっている状態を言うらしい。何に対しても不機嫌で、不満ばかり言っているやっかいな女の子の話なのかと思っていたら、むしろ逆になるべく争いを起こしたくないため、人と関わりを持ちたくなくて、感情を表さないようにしている女の子の話だった。だけど、そうして外に見せているおとなしい印象とは裏腹に、こうしたいとか、これはしたくないみたいな強い気持ちがある。それが普通の人(っていうのもなかなか乱暴なくくりではあるけれど)とは違う感覚だったりするので、人に受入れてもらいにくい。それを分かっているから彼女は人と関わることはあまりしない。だけど、実際はそうではなくて、誰かを必要としているし、必要とされたいと思っているんだと思う。矛盾しているようだけど、関わりたいのに関わりたくないと思うことってある。無意識に関わりたいと思った相手は、多分本当に自分が求めている相手なんだと思う。だけどその人に嫌われるのはイヤだし、拒絶されたら辛い。だったら関わりたくないと思うのかもしれない。
バイト先の友達とルームシェアするところから始まる。簡単に計画を進めていく友人に何となくしっくりこないものを感じていると、部屋が決まった段階になって彼女は彼氏と一緒だから3人で住む事になると言う。本当は嫌だけれどハッキリ嫌と言えない鈴子は苦虫顔のまま。引越し当日になって、友人の彼氏から別れたので彼女は来ないと告げられる。そして悲劇へ。普段摩擦を起こさないように感情を押し殺している人は、感情が爆発するとその分ふり幅が大きい。でも、鈴子のした事は犯罪だけど、映画として見ている分には、あれくらいしたっていいんじゃないかと思ったりする(笑) だけど、この経験が鈴子の心を閉ざしてしまう。人と関わると傷つくなら、なるべく関わらないで生きていこうと思ってしまう気持ちは分かる。弟の言葉に傷つき誰も自分を知らない場所へ行きたいと思う気持ちも。ならば、部屋を借りるのに困らず、仕事が見つからなくてもしばらく暮らせるであろう100万円を貯めたら家を出ようと計画して、実行してしまうところはすごいけれど(笑)
最初の土地は"海の近くの町" 海の家で働き始める鈴子にはカキ氷を作る才能があることが分かる。そういうささいな事が自分に自信を持てずにいた鈴子の自信になる。ここで鈴子は同じバイト仲間の男の子から好意を寄せられる。人から関わりを求められたわけだけど、人と関わりたくないと思っている鈴子には受入れられない。それに本当に自分も彼を求めているなら、頭では拒否しても気持ちが向かっちゃうはず(笑) でも、そうならなかったなら彼は鈴子の求めている人じゃないということ。この時点で鈴子が感じているのは困惑だと思う。自分は関わりたくないのに、関わりを求めてくる人がいる。困ったな(笑) だけど結局、人と全く関わらずに生きては行けない。それは次の"山の近くの町"でより実感することになる。
"海の近くの町"で印象的なシーンがあった。お客さんのいない雨の日、バイト仲間の男子4人がまかないを食べながら、離れたところで店番をする鈴子の事を話し始める。「かわいい」とか「黒髪がいい」とか他愛もないことで、多分そう思ってはいるけれどノリで言っているだけで深い意味はない。意味を込めているのは1人だけ。だけど、それは確実に鈴子に聞こえている。聞こえているけど、聞こえてないフリをしている。ここの蒼井優の演技がいい。自分の存在をなくしたいなどと考える人は、良くも悪くも自意識過剰なんだと思う。女子高生だった頃、似たような経験を何度かした。かわいいと言われる時もあったし、ブスと言われる時もあった。多分、その言葉自体に意味はないんだと思う。でも、かわいいと言われればうれしいかといえば、そういうものでもない。きっと、いい気になって振り向いたりすればバカにされるに違いないと思うし、ブスと言われればもちろん傷つく。自分は何もしていないし、名前も知らない相手からブスと言われるのは辛い。何故なのかずいぶん苦しんだ。嫌いなら嫌いでいいから放っておいて欲しいと思っていた。だけどもしかすると自意識過剰な何かが彼らの注意を引いてしまったのかもしれない。そして、からかわれても上手く流せなかったことで、余計イライラさせてしまったのかも・・・。なんて、すっかりずうずうしくなってしまった今では、当時を少し滑稽に感じながらこのシーンを見た。だから鈴子の気持ちは良く分かった。
"山の近くの町"では桃農家に住み込んで桃の収穫を手伝うバイトをする。ここの中年独身息子がピエール瀧だったのが笑えた。基本的には映画やドラマにミュージシャンやお笑い芸人が出るのは好きじゃない。ジャンルの違う人を使う理由はいろいろあるのだと思うけれど、それが生かされず浮いてしまって見えることが多い気がするので・・・

鈴子はここで桃娘騒動に巻き込まれてしまう。いわゆるキャンペーン・ガールになってくれという話で、前科のある鈴子はマスコミに登場出来ない。だから自分にはムリだと言うけれど、聞き入れてもらえない。鈴子の側に立ってみれば、嫌だというのに押し付けてくる村の人はわがままだし、逆ギレして「田舎をバカにしている」と言われるのは論点が違わないか? と思うけれど、村の人の側から見れば、他所から来て村の世話を受けているんだから、協力しろというわけで、それもどうかと思うけれど気持ちは分からなくもない。結局、平行線のままヒートアップしてしまい、とうとう鈴子が言いたくなかった事を言わせてしまう。そういう自覚の無い悪意というか、罪悪感のない自己主張の押し付けみたいのはホントに困るよなと思いつつ、鈴子が招いてしまった側面もあるのかなと思ったりする。上手く立ち回れないというか・・・。もちろん、それがダメなわけではない。きっと人間はちょっと言葉足らずだったり、上手く行動すれば相手も自分も傷つかずにすんだのにと思うことを経験して、次は上手く出来るようになっていくんだと思う。
海や山など狭い地域での生活は逆に密度が濃くなってしまうと思ったのか、次に選んだのは"ある地方都市" そこそこ都会。ここで鈴子は恋をすることになる。バイト先の大学生、亮平。この恋愛が不器用で切なくて良かった。亮平もあまり人づきあいが得意なタイプではない。バイト先の飲み会も本当は行きたくない。でも、行きたくないとは言えないので参加はするけど、居心地が悪く帰ってしまう。だけど、2人でいるのは居心地がいい。鈴子は初めて自分のことを語る。それは鈴子が亮平に心を開いたということで、彼に惹かれているということ。そういうのが自然に入ってきた。亮平の告白と、それに応える鈴子のシーンは良かったし、その後、食事を作りに亮平の部屋に行くけど、ここでのぎこちない感じがすごくいい。亮平が慌てて部屋を片付ける感じとか、所在なさげな感じがすごくいい。こんな恋愛もうできないんだろうなぁと思ったりする(笑)
2人の仲が進んでいくと亮平の態度が変わってくる。この辺りの感じもなんか分かるなぁなんて思っていると、鈴子から借金してみたり、デート代のほとんどを鈴子に払わせるようになる。とっても純朴でバイト先の仕事もきちんとこなす亮平には似合わない行動に、見ている側も戸惑う。鈴子が彼をこうしてしまったのかと思ったりもする。もちろんダメなわけではないんだけど・・・。鈴子はこの地で初めて弟からの手紙を受け取る。このシーンで見ている側は、今までそうだと思っていたことが違うことを知ることになる。鈴子は弟がいじめにあっているんじゃないかと感じてはいたけれど、それがどの程度深刻なのか分かっていなかったし、彼が自分を罵倒するのは実はいじめによって傷ついた心のバランスを取るためだったというところまで理解できなかった。もちろん、それも鈴子が悪いわけではない。だけど弟からの手紙で、鈴子は初めて自分が今まで家族にすらきちんと向き合ってこなかった事に気づく。傷つくことを怖れて、人と向き合うことを避けてきたから、より人を傷つけ自分を傷つけることになってしまったのだと理解する。そして亮平ときちんと向き合う決意をする。後から、見ている側は亮平の真意を知ることになるけど、それは切ない。切ないけどあれはやっぱりダメでしょ(笑) まぁ、ダメではないけど彼も結局、きちんと向き合えていなんだということ。このラストは良かったと思う。ハッピーエンドではないけれど、アンハッピーでもないと思う。
桃農家の佐々木すみや、鈴子を農家に世話する喫茶店のマスター笹野高史はさすがの存在感。2人の普通の人の優しさに救われる。地方都市のバイト先の上司、堀部圭亮も良かった。普段はそんなにイヤな人でもないのに、人のミスをグチグチしかる感じがいい。イヤよくはないけど、こういう人いるよなぁと思う。きちんと叱れないでネチネチいう人。彼は彼でコミュニケーションが下手な人なんだと思うけれど・・・。亮平の森山未來が良かった。ぎこちなく鈴子を誘う感じとかも良かったけれど、ヒモ状態の時の演技も良かったと思う。ここで見ている側が亮平にイライラしないと、後のどんでん返しが生きてこないので、そういう意味では良かったと思う。

いろいろ書いた。鈴子より全然年上になってしまったけれど、きちんと人と向き合えているのかと言われれば自信がない。でも、人間関係に悩んでない人なんていない思うし、誰とでも上手くやっていける自信があると公言する人はむしろ信用できない。そういう事がきちんと伝わってきたし、押し付けがましくなく、あざとくもなくて良かったと思う。亮平の部屋とか、鈴子の部屋とか好きだった。まだ実家にいた頃、鈴子がビルの屋上で100と切り抜いたのり弁を食べるシーンで、海苔がフタの裏についちゃう感じとか、細かいところが女性監督ならではで良かった。このシーンで椅子が百に並んでいたのもツボ。
普段は思い出しもしなかったけれど、中学とか高校の頃の辛い思い出の理由の一端が分かった気がした。分かったからといって傷が無くなるわけでもないし、今では傷跡が残っていたとしても痛みがあるわけでもない。でも、あの時のことはそうだったのかと整理がついた。もしかしたら今苦しんでいる人が見るよりは、古傷を抱えている人が見た方がより冷静に見れるかもしれない。とにかく、そういう意味でも見てよかったと思う。
