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【cinema】『パブリック・エネミーズ』(試写会)

2009-12-08 23:53:12 | cinema
'09.11.30 『パブリック・エネミーズ』(試写会)@よみうりホール

yaplogで当選。いつもありがとうございます。全米ではけっこう前に公開してて、Showbiz countdownの全米チャートでは、ジョニデ作品としてはあまり評判良くなかったし、マフィアモノもそんなに惹かれないけれど、やっぱりファンとしては見ないわけにはいかないでしょうってことで応募。見事当選した。

*ネタバレあり。そしてやや辛口です。

「大恐慌時代のシカゴ、鮮やかな手口で次々銀行を襲い、弱者からは決して奪わないジョン・デリンジャーは、FBIからパブリック・エネミーズ(社会の敵)No.1として指名手配されながら、民衆の人気を集めていた。そんな人生の絶頂期、1人の女性と出会うが・・・」という話。うーん。アメリカ暗黒時代のマフィアやギャングモノというようりは、どちらかと言えばチラシなんかにあるようにラブ・ストーリーなのかなと思う。そういう意味では主役2人が良かったと思うし、男臭い話を男臭プンプンに描いているわけではないのに、きちんと美学なんかは伝わってきたと思う。2時間21分とけっこう長かったけど、飽きたりすることもなく見ごたえがあった。でも、おもしろかったかというと微妙かなぁ。

ジョン・デリンジャーは実在の人物。映画になる前は名前も知らなかった。Wikiで調べたところによると、ほぼこの映画通りの人生だったよう。冒頭、デリンジャーは刑務所を襲い、仲間を脱獄させる。これも本当にあったことらしいけれど、どこまで本当で、どこから脚色なのかは不明。でも、刑務所内の作業に使われる荷物にピストルを紛れ込ませたり、刑事に捕まったふりをして刑務所内部に入り込んだりと手際は鮮やか。でも、静止も聞かず警官を殴り続けた仲間に、逃走する車の中で銃をつきつけるも引き金は引かず、一瞬許したと見せかけて、直後車から突き落とすという、わりとこういったギャング映画にありがちなシーンなんかも、なんとなくしっくりこない。迫力もあるんだけど何でだろう。なんとなくとってつけたような印象。スピード感もあるし、ダメなわけではないんだけど、なんとなく引き込まれない。

でも、この流れからの銀行強盗のシーンは良かったと思う。スピード感があって流れるような鮮やかな手際で銀行内を制圧していく。ソフト帽に黒のロングコート、機関銃を片手にひらりとカウンターを越えるジョニデがかっこいい! そして、ここで流れる音楽がメチャかっこいい! 全体的に音楽はスゴイ良かった。Jazzとか当時の曲も多いように思うけど、オリジナルもパンクっぽかったり、パブロックっぽいのにクラシカルな感じがしてかっこいい。このシーンのかっこよさは、後の強盗シーンとの対比となっている。当時を再現した銀行の内装が素敵。天井の幾何学っぽい模様、窓の上のアーチ状の装飾。鉄の曲線を生かしたシャンデリアなど、全てがアール・デコ。そこにソフト帽を被った黒のスーツ&ロングコートの男たちが押し入る感じは、犯罪者ながらかっこいい。

もう1人の主役FBI捜査官パーヴィスがやり手であるにもかかわらず、なんとなくヤボったいのもいい対比となっている。こちらは分かりやすく白っぽいスーツを着ているのも印象的。この配役がクリスチャン・ベイルということが、この映画をなんとなく地味にしてしまった原因の気もする。ただ、ギャング特にデリンジャーのスタイリッシュさに対して、FBI特にパーヴィスをヤボったくしたかったのなら正解だと思うし、やっぱり演技は上手い。ってフォローになってないか(笑) 後にパーヴィスは助っ人としてベテラン捜査官を3人呼ぶけれど、彼らの1人スティーブン・ラングが渋くて良かったので、より存在感が薄れてしまった感はある。でも、デリンジャー側にしても、FBI側にしてもそんなにスタイリッシュでかっこいい人たちとして描こうともしていない気もする。悪名高いエドガー・フーバーはホントかっこ悪くて嫌なヤツに描かれてたし(笑) ただなぁ、フーバーにしたって、パーヴィスにしたって、それなりに名を残した人たちなんだから、嫌なヤツだろうが、正義漢だろうが、それなりにかっこよかったと思うし、カリスマ性はあったと思うんだけど、それがあんまり感じられなかったのは残念。それがこの映画をなんとなく地味にしてしまったんだと思う。

この映画の主軸となる恋愛面に関しては、まぁラブ・ストーリーではあって、本人たちにとっては命がけの恋愛なのでしょうが、普通の恋愛ではないわけで、いわゆるウットリと酔いしれてしまう純愛モノではないけれど、とにかくビリー役のマリオン・コティヤールが良くて、落ちていきながらも毅然とした美しさがあって、デリンジャーが彼女を愛する気持ちはとってもよく分かった。フレシェットとフランス系の名前ながら、ネイティブ・アメリカンの血を引く彼女はエキゾチックで、目の力が印象的。その生い立ちから自分の人生は閉ざされていると思っている。そういうのをわずかなセリフと演技で感じさせるのはスゴイ。彼女は最初デリンジャーを裏切るけれど、それでもデリンジャーが彼女を信じる気持ちがすごく分かる。その理由は後のシーンでよりハッキリと分かるけれど、その部分も含め、デリンジャーは彼女に母を重ねているんだと思う。デリンジャーの生い立ちについてはほとんど語られないので、後付で知識もあるけれど、映画の中で度々彼が取り出すロケットの写真は若い母親だと思う。その母に似ているという事ではなくて、絶対に自分を裏切らない存在であるという信頼なんじゃないかと思う。そして、それは下降していくデリンジャーの人生の中で、唯一信じられるものだったんだと思う。

デリンジャーの生い立ちについては全くといっていいほど語られない。だから彼の人物像がイマヒトツ伝わってこない感じはあるけど、彼の人生を描くというよりは、彼がいかにして死んだかということを描いているんだと思う。それはビリーとの恋愛も含めて。変な言い方だけど・・・。冒頭の脱獄シーンから続いて、銀行強盗を成功させると、シカゴで意気揚々とクラブに繰り出す彼には、様々な仕事の誘いが舞い込むけれど、意に染まない様子。そんな彼には、この稼業は長続きしないから将来のことも考えろという言葉も腑に落ちない。今が楽しければいいと思っていた彼は、後にこの言葉を身に染みて理解することになる。犯罪者が安定した将来を考えるなんて、ふざけるなと思うけど(笑) でもまぁ、1人の人間としてはやっぱり将来はあるわけで、時代が変わればマフィアの世界のルールややり方も当然変わっていく。逮捕され脱獄した彼を待っている者は少なかった。銃を乱射しての銀行強盗などという荒っぽい手段ではなく、もっと組織力を生かした効率のよい仕事に変わっていた。組織の助けを得られなければ、武器も手に入らず、強奪したお金を洗浄してももらえない。銀行強盗に悪も正義もないけれど"汚れた金しか奪わない"、"仲間は決して裏切らない"というルールが民衆に支持され、ヒーロー扱いされていたデリンジャーも、形勢が変わってしまえば傍流であって、となれば意に沿わない仕事もしなければならなくなる。そうなった時、彼を支えるのは愛するビリーとの生活。そしてそれは要するに安定した未来。やっぱり人は愛する人と穏やかに暮らすことが幸せということなんでしょうか。でも、それに気づいた時には遅い。変わり身早く方向転換したマフィアが正しくて、デリンジャーが間違っているということでもない。どっちも犯罪者だし、映画的にも将来のためにこつこつ貯金しているマフィアって・・・。まぁ、ある意味おもしろいかもしれないけれど(笑)

デリンジャーの人生は悪い方へどんどん転がっていく。鮮やかな手口で脱獄したものの、スカッとするのはここまでで、愛するビリーには監視がついていて会うことはできず、盗聴されているので電話で話すこともままならない。組織の助けは期待できず、急ごしらえの仲間で銀行を襲うも成果は少ない。FBI捜査官パーヴィスの追跡はしつこく、すぐに逃亡先を見つけられてしまい、辛くも逃亡するも仲間のほとんどを失ってしまう。完全に行き詰まり。命がけで再会したビリーも、FBIに捕まってしまう。決して彼を裏切らないであろうビリーを救うため、彼はある決意をする。それが彼の3つのルールのうちの1つ"愛した女は最後まで守る"ということなのかなと思う。彼の最期についてはほぼ映画に描かれたとおりだったそうで、彼を裏切ったアンナ・セージの事情についても同じ。その時、FBIの指示で彼女が身に着けた赤いドレス(映画ではスカート)から、関わると身を滅ぼすという意味からファム・ファタール的な女性を"赤いドレスの女"と呼ぶようになったのだとか。この時、デリンジャーが見ていた映画『男の世界』もそのままだそうだけど、実際は彼がこの映画のクラーク・ゲーブルの死に際の美学に共感し、自殺のような形での死を覚悟して映画館を後にしたのかは不明。でも、映画としてはとっても良かったし、何もかも失った彼が愛した女性を最期まで守ったのだと思えば、やっぱり感動した。

でも、2時間21分もあったわりには、ギャングの銃撃シーンなどが多く、デリンジャーの生い立ちや背景みたいなものがあまり語られなかったので、なんとなく彼に魅力を感じるまでにはいたらなかった気がする。銃撃シーンにしても迫力はすごいんだけど、例えば『ダークナイト』の冒頭の銀行強盗シーンのような恐怖感はなかったかなぁ。当時のシカゴを再現した美術やセットは見事で、その豪華だけどどこか暗い感じもすごくいいんだけど、なんとなく画的にこじんまりとした印象。キャストがジョニデとクリスチャン・ベイルくらいしか知らなくて、ギャング側なのかFBI側なのか区別がつかないし、ちょっと伝説のアウトローのブレーンとしては重厚感がなかったかな。マフィアモノはそんなに好んで見るジャンルではないので、あまり詳しくはないけど、例えば『ゴッドファーザー』みたいな重厚感はない。まぁ、アレと比べてしまうと、どんな映画もちょっと辛いのかもしれないけれど・・・。でも、だったらいっそのことビリーとの恋愛部分をしっかり描いたほうが良かったんじゃないかと・・・。ビリーに対する愛情も信頼も伝わっては来るし、一瞬で彼女の資質を見抜くという描き方も、デリンジャーのすごさであるってことでOKなんだと思うんだけど、もう少し2人の関係を丁寧に描いても良かった気がする。

キャストはまぁ全体的に良かったかなという感じ。クリスチャン・ベイルは上手いと思うんだけど、何でいつもこう沈んでしまうんだろう。上手く言えないんだけど、主役が悪なら、彼はもう一人の主役として絶対的な正義であって、確かにそういう役なんだけど、なぜかかっこよくないんだよな。多分、クリスチャン・ベイルのパーヴィスがスカッとしなかったのも、この映画がイマヒトツしまらなかった原因の1つな気がする。ベテラン捜査官役のスティーブン・ラングが渋くて良かった。登場シーンがかっこいい! これ、多分西部劇へのオマージュなんじゃないかと思うんだけど違うかな。ラスト彼がビリーに伝える1言がいい。ホントはデリンジャーの言葉だから、実はデリンジャーがかっこいいんだけど、このセリフを彼に言わせたのは大正解。これは泣けた(涙)

大好きなジョニデは今回手放しで良かったとは言えないかも。ファンとしては姿を見るだけでOKっていうところは正直あるのだけど、さすがにそれだけというわけにも・・・(笑) うーん。かっこいいのは間違いなくかっこいいし、銀行強盗シーンや相手に凄むシーンなんかは迫力もあるんだけど、悪じゃないというか・・・。悪漢ゆえのカリスマ性みたいのがなかったかなぁ。デリンジャーはヒーロー視されていたとはいえ、犯罪者なのだから、やっぱり悪の魅力がないとダメな気がする。当時の流行だったのかも知れないけど、サイドを刈り上げた髪型がちょっと・・・。上手くいえないけどモックンみたいな感じになってしまっていた。決してモックンがダメだと言っているんではないです! モックンって清々しく、正しい好青年というイメージなので。モックンを連想してしまったのが敗因だったかも(笑) ただ『男の世界』からラストまでの流れはさすがジョニデ! ほとんどセリフもなく、表情もあまり変化しないのに、デリンジャーがクラーク・ゲーブルに共感し、覚悟をする感じがきちんと伝わってくる。それは、彼女を守るとことと同時に、自分の美学を貫くということでもある。それがちゃんと伝わってきた。ここのジョニデの演技は見事!

そして、今回一番良かったのはマリオン・コティヤール。正直、ジョニデもクリスチャン・ベイルも食われていた。彼女の一番の見せ場は激しい尋問シーン。巨漢の捜査官はマフィアの情婦なんて女性として扱うに値しないという態度。怒鳴りつけるのは当たり前、トイレにも行かせず、殴る蹴るの暴行。でも、彼女は最後まで彼の居場所は言わない。一度は落ちたかに見えて、それもニセの情報。この演技はスゴイ。スゴイ緊迫感。パーヴィスがデリンジャーの居所を掴み、尋問室に踏み込んで、暴力捜査官を殴りつけた後、デリンジャーのことを誇るかのようにFBIを出し抜いてやったと啖呵を切るシーンはスゴイけれど、パーヴィスが紳士的に手を差し出しても、腰が抜けてしまって立ち上がれず「立てないの」と言う言い方に、あぁだからこそデリンジャーは彼女を愛したのかと思わせる。芯が強いのにホロリと見せる女性らしい弱さ。それは、ラスト彼の言葉を聴いた瞬間の表情にも言えること。この演技は良かった。目の強さと哀しさが印象的。

『男の世界』が重要アイテムとなるように、男の美学を描いているんだと思うし、デリンジャーの最期については、実際の彼の最期がどうであったかは別として、映画としては映画館に向かうところから男の美学。そういう部分も含めてデリンジャーを変に美化し過ぎることなく描いたのは良かったと思う。美学についても男臭く描いていないのは良かった。でも、なんとなく入り込めず。あまり多弁じゃないのに最期の決意なんかが伝わってくるという感じは全体的にそうで、それは深いし、そういう描き方自体が美学なんだと思うけれど、おもしろかったかというと・・・。ちょっと重厚感がなかったかなぁ。あと、グッと来る見せ場が少なかったかも。

音楽は全部かっこよかった! 特に銀行を襲うシーンの曲。当時のシカゴを再現した美術や衣装、そしてセットもいい。アール・デコな感じにウットリ。でも、あんなに街中で銃撃戦が頻繁に起こる所に住みたくないなぁ(笑)


『パブリック・エネミーズ』Official site

コメント (8)
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