'10.09.15 『十三人の刺客』(試写会)@よみうりホール
rose_chocolatさんからのお誘い。いつもありがとうございます! 気になって自分でも応募しようかと思っていた作品。よろこんで行ってきた♪
*ネタバレありです
「江戸末期、将軍の腹違いの弟で明石藩主松平斉韶は、権力にモノを言わせ、残虐な行為をくり返していた。将軍は彼を野放しにしているだけではなく、来年には老中にするという。これを憂慮した老中 土井大炊頭利次は、密かに御目付役 島田新左衛門に、斉韶暗殺の命を下す…」という話で、これは1963年池宮彰一郎監督(←修正! 工藤栄一監督でした・・・ すみません
)作品のリメイク。女性はほとんど登場しない正に男の映画。かなりやり過ぎな部分も多いし、正直ツッコミどころも満載だけど、おもしろかった。
チラシによると、11代将軍・徳川家斉の25男(!)で、明石藩第8代藩主・松平斉宣が参勤交代で尾張藩を通過中、行列を横切った3歳の幼児に切り捨て御免を行ってしまい、これに激怒した尾張藩が、今後は明石藩の領内の通行を断ると伝えてきたため、明石藩は行列を立てず、藩士たちは農民や町民に変装して尾張藩内を通行したという史実が元になっているらしい。これは松浦静山の「甲子夜話」に記されているとのこと。切り捨て御免されてしまったチビッコはホントにかわいそうだけれど、ちょっとコミカルで、ほのぼのしている気がしてしまうほど、この映画のバカ殿は残虐。残虐行為自体は映画なら、なくはない。でも、将軍の弟だからと何をしてもお咎めなしなのはまだしも、来年には老中にするというのは、将軍もバカ将軍なのでは?(笑)
冒頭、バカ殿の残虐行為を幕府に訴えるため、家老が門前で切腹するシーンから始まる。江戸城内では老中達が将軍の決定を待っている。バカ殿が老中になるのは阻止したい。結論はお咎めなし。バカ殿には家老の家族には手だししてはならないと注意が出るけど、もちろん無視。上様のぬるい決定が新たな悲劇を招く。将軍がバカ殿をそこまで庇う理由が描かれていないので、この決定は腑に落ちない。もちろん、弟なわけだから、庇いたい気持ちは分かるし、事を大きくしたくない部分もあるのだろうけど、他に方法はあると思う。当時の法律は今とは違うわけだから、同じに考えることは出来ないかもしれないけど、切り捨て御免なんてものじゃないから! 行列の途中で泊まった家で、新婚の妻を手ごめにするわ、茫然自失するそのダンナを、惨殺するわで、もう暴君とかいう問題じゃなくて、幽閉レベルだと思うのだけど、来年には老中にするとは! まぁ、コイツがこんななのに、どうにも出来ないからこそ、十三人に密命が下るやわけなんだけど、同時にバカ将軍も何とか
した方がいいと思う(笑)
いきなり切腹から始まって、島田が呼び出されて、両腕両脚を切られ、舌を抜かれ、なぐさみものにされたあげく、道端に捨てられた娘が、血の涙を流しながら、口にくわえた筆で、家族は"みなごろし"にされたと書くのを見せられ、牧野靭負(松本幸四郎)から、上記の嫁と息子を惨殺された話を、もちろん映像つきで聞かされ、ものすごい辛い。もうずっと眉間にシワ。体もこわばりっぱなし… 酷すぎるぞバカ殿! と、コチラの怒りも頂点に達した頃、薄暗い部屋で闘志を燃やす島田新左衛門。スカッとするシーンではないけれど、新左衛門の中で怒りや憤りがどんどん沸き上がってくるのが分かる。急に笑い出す新左衛門にビックリするけど、多分あまりのことに笑っちゃうのでしょう。非道に対する怒りもそうだし、武者震いもそうだろうし… 時は泰平の世で、武士もサラリーマン化している。人を斬ったことのない武士が大勢いる。もちろん、人は斬らない方がいいけど、武士はある意味それが仕事みたいなものだし、明確な階級社会だったわけだから、下級の武士にとっては今以上に格差があって、閉塞感があったのかも。「死に場所を探しておりました」という島田の言葉には、武士に生まれたものの、満たされていないものを感じる。ここまでの画面がずっと暗いのも効果的。
島田の甥 新六郎は武士である自分を持て余している。新左衛門ほど剣の道に励む気も起きないけれど、侍のプライドは捨てられない。演じているのが山田孝之なので、きっとこれは今の若者の象徴なのでしょう。将来に希望が持てないから、投げやりになってしまう気持ちは分かるけれど、やっぱり新左衛門の潔さを見てしまえば、甘いなと思ってしまう。多分、それは自分が新六郎の突き当たっている壁は越えたってことなんだと思う。でも、新左衛門の境地には達していない。果たしてその境地に行けるのかも謎(笑) 新六郎はこの壁を乗り越える。多分、追い越された自分(笑) 彼の存在は良かったと思う。
新左衛門は強烈な個性のカリスマ的なリーダーではない。御目付役というのがどのくらいの身分なのかさっぱり分からないのだけど、多分そんなに高い位ではないと思われる。妻子がないと思われる彼の身なりはかなり質素。それは新左衛門の人柄を表している部分もあると思うけど、やっぱり金銭的にそんなに余裕がない部分はあるんだと思う。そういう人物がリーダーとなって、権力に立ち向かうっていう設定は、王道だけどやっぱりゾクゾクする。もちろんたった1人でできるはずもなく、タイトルにもあるとおり新左衛門のもとには12人の刺客が集まる。全員のエピソードを語る時間はないので、主要な人物以外はサラっと紹介されるのみ。2時間超の作品だけど、ラスト50分の死闘を描くことがメインなので、個性的な面々が集まってはいるけれど、それぞれ掘り下げることはしていない。それは潔いかなと思うし、それで薄っぺらくなってしまったということもない。
敵方、明石藩御用人 鬼頭半兵衛(市村正親)は、島田新左衛門と旧知の仲。同じ道場で学ぶが、いつも新左衛門には勝てなかった。職に就いたのも、出世も新左衛門の方が早い。いつか新左衛門に勝ちたいという一心で生きてきた。御用人のことがこれまたさっぱり分からないのだけど、かなりの地位っぽいのに、バカ殿の下では辛かろう。でも、彼は自らつかみ取った地位と、自らの武士道を守り抜こうとする。過激な発言だけど、こんなバカ殿密かに暗殺して、病死したことにした方がよっぽど世の中のためだと思うけれど、そうしない彼にイライラしっぱなし。まぁ、主君を守り抜くのが家臣のつとめというのは、武士じゃなくても正論だとは思うし、頼りない上司でも必死で支えなきゃならないのは、現代のOLちゃんでも同じことなので、分からなくもないのだけど… 人の考え方や生き方はそれぞれだけど、やっぱり彼の行動が正しいとは思えなかった。多分、それは新左衛門に勝ちたいという個人的な思いも絡み合っているからだと思う。まぁ、それじゃないと話にならないけど(笑) いずれにせよ、これは武士というか男の死に様を描いているので、これはこれでありかと。ただだいぶ人巻き込んだけど(笑)
どういういきさつだったか忘れてしまったのだけど、甥っ子新六郎以外は、倉永左平太(松方弘樹)絡みで11人が揃う。人物を掘り下げようとするならば、集まってくるまでの間のことを描くのでしょうが、メインの人物に絞って、後は軽く自己紹介程度。たしかに全員は無理だし、個々に語られても辛いので、それはOK。ただ、自分の部下から選びましたと連れてこられた若い侍達は、ホントに望んでここに居るのかと心配になる。仕事に抜擢されるのは嬉しいけれど、間違いなく命掛けの仕事なので、まだ10代と思われる平山九十郎(伊原剛志)の舎弟 小倉庄次郎(窪田正孝)は新左衛門に止められるけど、行きたいと主張し認めれる。この辺りも武士としてとか、男としての死に様ってことなのでしょう。旅の途中で13人目の野人 木賀小弥太(伊勢谷友介)が加わることになるけど、12人に関しての説明はわずか10分くらい。逆に先に書いた新六郎のくだりを長めに描いたことで、彼らと対比させて、より"武士"ってことを際立たせている。あと、13人目が野人であることも(笑)
作戦については詳しく書いてしまうと興ざめだけど、要するに参勤交代で国元に帰る道中で待ち伏せるというもの。こちらが先に動いては手の内を明かすことになってしまうので、相手が動くまでじっと耐える。そして一気に動く。目的地まで一気に馬を走らせる姿がカッコイイ! ここはしびれた(笑) 正直、ラスト50分が壮絶過ぎるので、個人的にはここが一番グッときた! そして、冒頭で登場した牧野靭負(松本幸四郎)が…(涙) 彼もまたカッコイイ! その潔よさに涙。このエピソードはいい。彼だけでなく、その他バカ殿の犠牲になった人々の思いを背負って戦う男達。カッコイイです!
ずっとバカ殿の悪行や、刺客達の覚悟、駆け引きなんかを見ていたので、かなり力が入って疲れていたところで、13人目の刺客 木賀小弥太(伊勢谷)がコミカル要素で和ませる。ヘタなドタバタはあざとくて興ざめだけど、彼のとぼけた感じと、死闘の場となる落合宿庄屋 三州屋徳兵衛(岸部一徳)のドタバタはやり過ぎだけど、笑えた。小弥太の登場から、このドタバタ、村人総出で準備をするシーンは、一息って感じでこの後に始まる"ラスト50分の死闘"に備える時間となっている。
そしてラスト50分! tweetしたけど50分もあったらラストじゃないから(笑)しかも13人vs300人! 旧作では相手は53人だったみたいだけど、大幅に増えてるし(笑) どう考えても無理だろうと思うけれど、これが良く考えられた作戦なので違和感なし。ほのぼのした準備風景は、こんな要塞を造っていたのかとビックリする。あの短期間で?と思わなくもないけど、気にはならない。初めこそ、落合宿に誘い込んで、弓矢を浴びせての攻撃だけど、最終的には刀を抜いての切り合いになる。そして予告やCMでも流れてる「斬って、斬って、斬りまくれー!」となるわけなのですが、そこからが壮絶。全員血だらけで誰が誰だか分からない(笑) 13人には密命を遂行する指名が、対する鬼頭半兵衛にも殿を守るという指名があるけど、どちらもバカ殿ゆえかと思うと、こんなに命を無駄にしてとバカバカしくなってくる。バカ殿側の侍達はいったい何のために戦っているのか… もう最終的には、死にたくないってだけなんだろうけど。
まぁ、13人の刺客がバカ殿を討つ話なわけだから、初めから結果は分かってるわけだけど、最後の島田新左衛門と鬼頭半兵衛の一騎打ちはおもしろかった。最終的にとんだ姿になってしまって、情け容赦ない感じなのはビックリ(笑) まぁ、ようするに一瞬でも"個"のために動いたり、"死にたくない"と思った方が負けなんだと思う。死にたくないと思っていないから怖くないのかも。そういう意味で、それまでこの状況を楽しんでいたバカ殿が、最期に死の恐怖の中でのたうちながら死んでいくのは、奪ってきた数々の命を思えば、まだまだ足りないよと思わなくもないけど、スッキリ感はある。変に改心したり、命乞いしたりせず、バカ殿のままだったのはよかった。
キャストは豪華過ぎて全部紹介しきれないけど、松本幸四郎、市村正親、平幹二朗、松方弘樹はさすがの存在感。実は、大芝居過ぎるのじゃないかと心配していたベテラン勢。特に舞台出身のお2人は滑舌が良すぎるあまり、浮いてしまわないか心配だったけど、作品自体の見応えゆえか、全く気にならず、作品に重厚さを与えていた。松本幸四郎の潔さが切なくて素晴らしい。市村正親はやや芝居がかり過ぎな気がしなくもないけど、こうしか生きられない姿に説得力があり、本来悪役であるはずの役に切なさを持たせている。13人の刺客達はみんな良かったと思うけれど、三池崇史監督作品『クローズZERO』(未見)組の若手俳優達が良かったと思う。若い命が散ってしまうのは、それだけで切ない。あまり1人1人詳しく語られることがなくて残念だったけど、それぞれの個性は出ていたんじゃないかと思う。特に初めて人を斬った庄次郎の窪田正孝くんは、もはや母目線でみてしまい、切なかった。彼が慕う平山九十郎(伊原剛志)と2人で、敵を迎え撃つため構えた姿がカッコイイ! 古田新太のとぼけた感じでいながら、達観してる感じも良かった。
山田孝之の出演作を見るのは初めてかも。あんまり好みのタイプではなかったのだけど、この新六郎は良かったと思う。武士としての将来に、生き甲斐も希望も感じられない。でも、武士としてのプライドは捨てられない。現代の若者の姿を見ているよう。その辺りを上手く演じていたと思う。セリフ回しなどは特別上手いとは思わなかったけれど、無力感みたいなものを漂わせていて良かったと思う。誰に主眼を置くかは、人それぞれ違うと思うけれど、武士が全く身近でない今、新六郎目線の人も多いのじゃないかと思う。彼がこのミッションを通して、男になっていく姿に共感できる。
バカ殿の稲垣吾郎が良かった。正直かなり心配だった。どう考えても"最凶の暴君"という感じがしなかったので… 暴君といえばそうなんだけど、結局バカ殿であるという感じだったので、それはよかったと思う。要するに最近増えてる、生きている実感がないので、人を殺してしまうということで、彼の心情は全く理解不能。彼を憎めるかってことが、13人に感情移入できるかどうかにかかっているとは思うけど、イライラするけど理解不能なので、憎めない。だから、最期やたらとコント的な感じになってしまうけれど、それもバカ殿って感じでよかったかも。
島田新左衛門の役所広司がよかった。現代モノに出ると何となく、大芝居気味な気がするけれど、時代劇ならOK。前にも書いたけれど、この島田新左衛門は、リーダーシップはあるけれど、強いカリスマ性でぐいぐい引っ張るタイプではない。綿密な計画を立てて、しっかり準備をし、焦る部下の気持ちを抑えて、耐えに耐えて時期を待つ。重要な部分で、大博打を打つ大胆さもあるけど、終始一貫軸がぶれない。なので配下は納得して、彼に従うことが出来る。そういう人物を見事に演じていたと思う。剣豪にしては線が細いかなと思ったけれど、そんなこともなかった。指揮官なので、彼自身の見せ場はなかなか出てこないけれど、全体的に潔くて良かったと思う。
女性はほとんど出てこない。役名のあるキャストと言えば、前述の若妻谷村美月ちゃんと、新六郎の恋人と木賀小弥太(伊勢谷友介)の恋人の2役を演じた吹石一恵のみ。しかも2人ともほぼ1シーンで、白塗りのコワメイクで、美しく撮ろうとしてないし(笑) ほんとにドキッ男だらけの男臭い映画。現代日本の先の見えない閉塞感とか、物質的に恵まれているが故に生きている実感が持てず、モンスター化する若者とか、揶揄している部分はあるのでしょうが、そんなに難しく考えなくても楽しめる。かなりツッコミどころも、やり過ぎな部分も多いけど、娯楽作品として優れている。キレイ系のイケメンじゃなく、カッコイイ男達が見たい方は是非!
イメージソングの"DESPERADO"(Eagles)がすごく合ってる。ラストの虚しさも良かった。
『十三人の刺客』Official site
rose_chocolatさんからのお誘い。いつもありがとうございます! 気になって自分でも応募しようかと思っていた作品。よろこんで行ってきた♪
*ネタバレありです
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チラシによると、11代将軍・徳川家斉の25男(!)で、明石藩第8代藩主・松平斉宣が参勤交代で尾張藩を通過中、行列を横切った3歳の幼児に切り捨て御免を行ってしまい、これに激怒した尾張藩が、今後は明石藩の領内の通行を断ると伝えてきたため、明石藩は行列を立てず、藩士たちは農民や町民に変装して尾張藩内を通行したという史実が元になっているらしい。これは松浦静山の「甲子夜話」に記されているとのこと。切り捨て御免されてしまったチビッコはホントにかわいそうだけれど、ちょっとコミカルで、ほのぼのしている気がしてしまうほど、この映画のバカ殿は残虐。残虐行為自体は映画なら、なくはない。でも、将軍の弟だからと何をしてもお咎めなしなのはまだしも、来年には老中にするというのは、将軍もバカ将軍なのでは?(笑)
冒頭、バカ殿の残虐行為を幕府に訴えるため、家老が門前で切腹するシーンから始まる。江戸城内では老中達が将軍の決定を待っている。バカ殿が老中になるのは阻止したい。結論はお咎めなし。バカ殿には家老の家族には手だししてはならないと注意が出るけど、もちろん無視。上様のぬるい決定が新たな悲劇を招く。将軍がバカ殿をそこまで庇う理由が描かれていないので、この決定は腑に落ちない。もちろん、弟なわけだから、庇いたい気持ちは分かるし、事を大きくしたくない部分もあるのだろうけど、他に方法はあると思う。当時の法律は今とは違うわけだから、同じに考えることは出来ないかもしれないけど、切り捨て御免なんてものじゃないから! 行列の途中で泊まった家で、新婚の妻を手ごめにするわ、茫然自失するそのダンナを、惨殺するわで、もう暴君とかいう問題じゃなくて、幽閉レベルだと思うのだけど、来年には老中にするとは! まぁ、コイツがこんななのに、どうにも出来ないからこそ、十三人に密命が下るやわけなんだけど、同時にバカ将軍も何とか
した方がいいと思う(笑)
いきなり切腹から始まって、島田が呼び出されて、両腕両脚を切られ、舌を抜かれ、なぐさみものにされたあげく、道端に捨てられた娘が、血の涙を流しながら、口にくわえた筆で、家族は"みなごろし"にされたと書くのを見せられ、牧野靭負(松本幸四郎)から、上記の嫁と息子を惨殺された話を、もちろん映像つきで聞かされ、ものすごい辛い。もうずっと眉間にシワ。体もこわばりっぱなし… 酷すぎるぞバカ殿! と、コチラの怒りも頂点に達した頃、薄暗い部屋で闘志を燃やす島田新左衛門。スカッとするシーンではないけれど、新左衛門の中で怒りや憤りがどんどん沸き上がってくるのが分かる。急に笑い出す新左衛門にビックリするけど、多分あまりのことに笑っちゃうのでしょう。非道に対する怒りもそうだし、武者震いもそうだろうし… 時は泰平の世で、武士もサラリーマン化している。人を斬ったことのない武士が大勢いる。もちろん、人は斬らない方がいいけど、武士はある意味それが仕事みたいなものだし、明確な階級社会だったわけだから、下級の武士にとっては今以上に格差があって、閉塞感があったのかも。「死に場所を探しておりました」という島田の言葉には、武士に生まれたものの、満たされていないものを感じる。ここまでの画面がずっと暗いのも効果的。
島田の甥 新六郎は武士である自分を持て余している。新左衛門ほど剣の道に励む気も起きないけれど、侍のプライドは捨てられない。演じているのが山田孝之なので、きっとこれは今の若者の象徴なのでしょう。将来に希望が持てないから、投げやりになってしまう気持ちは分かるけれど、やっぱり新左衛門の潔さを見てしまえば、甘いなと思ってしまう。多分、それは自分が新六郎の突き当たっている壁は越えたってことなんだと思う。でも、新左衛門の境地には達していない。果たしてその境地に行けるのかも謎(笑) 新六郎はこの壁を乗り越える。多分、追い越された自分(笑) 彼の存在は良かったと思う。
新左衛門は強烈な個性のカリスマ的なリーダーではない。御目付役というのがどのくらいの身分なのかさっぱり分からないのだけど、多分そんなに高い位ではないと思われる。妻子がないと思われる彼の身なりはかなり質素。それは新左衛門の人柄を表している部分もあると思うけど、やっぱり金銭的にそんなに余裕がない部分はあるんだと思う。そういう人物がリーダーとなって、権力に立ち向かうっていう設定は、王道だけどやっぱりゾクゾクする。もちろんたった1人でできるはずもなく、タイトルにもあるとおり新左衛門のもとには12人の刺客が集まる。全員のエピソードを語る時間はないので、主要な人物以外はサラっと紹介されるのみ。2時間超の作品だけど、ラスト50分の死闘を描くことがメインなので、個性的な面々が集まってはいるけれど、それぞれ掘り下げることはしていない。それは潔いかなと思うし、それで薄っぺらくなってしまったということもない。
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敵方、明石藩御用人 鬼頭半兵衛(市村正親)は、島田新左衛門と旧知の仲。同じ道場で学ぶが、いつも新左衛門には勝てなかった。職に就いたのも、出世も新左衛門の方が早い。いつか新左衛門に勝ちたいという一心で生きてきた。御用人のことがこれまたさっぱり分からないのだけど、かなりの地位っぽいのに、バカ殿の下では辛かろう。でも、彼は自らつかみ取った地位と、自らの武士道を守り抜こうとする。過激な発言だけど、こんなバカ殿密かに暗殺して、病死したことにした方がよっぽど世の中のためだと思うけれど、そうしない彼にイライラしっぱなし。まぁ、主君を守り抜くのが家臣のつとめというのは、武士じゃなくても正論だとは思うし、頼りない上司でも必死で支えなきゃならないのは、現代のOLちゃんでも同じことなので、分からなくもないのだけど… 人の考え方や生き方はそれぞれだけど、やっぱり彼の行動が正しいとは思えなかった。多分、それは新左衛門に勝ちたいという個人的な思いも絡み合っているからだと思う。まぁ、それじゃないと話にならないけど(笑) いずれにせよ、これは武士というか男の死に様を描いているので、これはこれでありかと。ただだいぶ人巻き込んだけど(笑)
どういういきさつだったか忘れてしまったのだけど、甥っ子新六郎以外は、倉永左平太(松方弘樹)絡みで11人が揃う。人物を掘り下げようとするならば、集まってくるまでの間のことを描くのでしょうが、メインの人物に絞って、後は軽く自己紹介程度。たしかに全員は無理だし、個々に語られても辛いので、それはOK。ただ、自分の部下から選びましたと連れてこられた若い侍達は、ホントに望んでここに居るのかと心配になる。仕事に抜擢されるのは嬉しいけれど、間違いなく命掛けの仕事なので、まだ10代と思われる平山九十郎(伊原剛志)の舎弟 小倉庄次郎(窪田正孝)は新左衛門に止められるけど、行きたいと主張し認めれる。この辺りも武士としてとか、男としての死に様ってことなのでしょう。旅の途中で13人目の野人 木賀小弥太(伊勢谷友介)が加わることになるけど、12人に関しての説明はわずか10分くらい。逆に先に書いた新六郎のくだりを長めに描いたことで、彼らと対比させて、より"武士"ってことを際立たせている。あと、13人目が野人であることも(笑)
作戦については詳しく書いてしまうと興ざめだけど、要するに参勤交代で国元に帰る道中で待ち伏せるというもの。こちらが先に動いては手の内を明かすことになってしまうので、相手が動くまでじっと耐える。そして一気に動く。目的地まで一気に馬を走らせる姿がカッコイイ! ここはしびれた(笑) 正直、ラスト50分が壮絶過ぎるので、個人的にはここが一番グッときた! そして、冒頭で登場した牧野靭負(松本幸四郎)が…(涙) 彼もまたカッコイイ! その潔よさに涙。このエピソードはいい。彼だけでなく、その他バカ殿の犠牲になった人々の思いを背負って戦う男達。カッコイイです!
ずっとバカ殿の悪行や、刺客達の覚悟、駆け引きなんかを見ていたので、かなり力が入って疲れていたところで、13人目の刺客 木賀小弥太(伊勢谷)がコミカル要素で和ませる。ヘタなドタバタはあざとくて興ざめだけど、彼のとぼけた感じと、死闘の場となる落合宿庄屋 三州屋徳兵衛(岸部一徳)のドタバタはやり過ぎだけど、笑えた。小弥太の登場から、このドタバタ、村人総出で準備をするシーンは、一息って感じでこの後に始まる"ラスト50分の死闘"に備える時間となっている。
そしてラスト50分! tweetしたけど50分もあったらラストじゃないから(笑)しかも13人vs300人! 旧作では相手は53人だったみたいだけど、大幅に増えてるし(笑) どう考えても無理だろうと思うけれど、これが良く考えられた作戦なので違和感なし。ほのぼのした準備風景は、こんな要塞を造っていたのかとビックリする。あの短期間で?と思わなくもないけど、気にはならない。初めこそ、落合宿に誘い込んで、弓矢を浴びせての攻撃だけど、最終的には刀を抜いての切り合いになる。そして予告やCMでも流れてる「斬って、斬って、斬りまくれー!」となるわけなのですが、そこからが壮絶。全員血だらけで誰が誰だか分からない(笑) 13人には密命を遂行する指名が、対する鬼頭半兵衛にも殿を守るという指名があるけど、どちらもバカ殿ゆえかと思うと、こんなに命を無駄にしてとバカバカしくなってくる。バカ殿側の侍達はいったい何のために戦っているのか… もう最終的には、死にたくないってだけなんだろうけど。
まぁ、13人の刺客がバカ殿を討つ話なわけだから、初めから結果は分かってるわけだけど、最後の島田新左衛門と鬼頭半兵衛の一騎打ちはおもしろかった。最終的にとんだ姿になってしまって、情け容赦ない感じなのはビックリ(笑) まぁ、ようするに一瞬でも"個"のために動いたり、"死にたくない"と思った方が負けなんだと思う。死にたくないと思っていないから怖くないのかも。そういう意味で、それまでこの状況を楽しんでいたバカ殿が、最期に死の恐怖の中でのたうちながら死んでいくのは、奪ってきた数々の命を思えば、まだまだ足りないよと思わなくもないけど、スッキリ感はある。変に改心したり、命乞いしたりせず、バカ殿のままだったのはよかった。
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キャストは豪華過ぎて全部紹介しきれないけど、松本幸四郎、市村正親、平幹二朗、松方弘樹はさすがの存在感。実は、大芝居過ぎるのじゃないかと心配していたベテラン勢。特に舞台出身のお2人は滑舌が良すぎるあまり、浮いてしまわないか心配だったけど、作品自体の見応えゆえか、全く気にならず、作品に重厚さを与えていた。松本幸四郎の潔さが切なくて素晴らしい。市村正親はやや芝居がかり過ぎな気がしなくもないけど、こうしか生きられない姿に説得力があり、本来悪役であるはずの役に切なさを持たせている。13人の刺客達はみんな良かったと思うけれど、三池崇史監督作品『クローズZERO』(未見)組の若手俳優達が良かったと思う。若い命が散ってしまうのは、それだけで切ない。あまり1人1人詳しく語られることがなくて残念だったけど、それぞれの個性は出ていたんじゃないかと思う。特に初めて人を斬った庄次郎の窪田正孝くんは、もはや母目線でみてしまい、切なかった。彼が慕う平山九十郎(伊原剛志)と2人で、敵を迎え撃つため構えた姿がカッコイイ! 古田新太のとぼけた感じでいながら、達観してる感じも良かった。
山田孝之の出演作を見るのは初めてかも。あんまり好みのタイプではなかったのだけど、この新六郎は良かったと思う。武士としての将来に、生き甲斐も希望も感じられない。でも、武士としてのプライドは捨てられない。現代の若者の姿を見ているよう。その辺りを上手く演じていたと思う。セリフ回しなどは特別上手いとは思わなかったけれど、無力感みたいなものを漂わせていて良かったと思う。誰に主眼を置くかは、人それぞれ違うと思うけれど、武士が全く身近でない今、新六郎目線の人も多いのじゃないかと思う。彼がこのミッションを通して、男になっていく姿に共感できる。
バカ殿の稲垣吾郎が良かった。正直かなり心配だった。どう考えても"最凶の暴君"という感じがしなかったので… 暴君といえばそうなんだけど、結局バカ殿であるという感じだったので、それはよかったと思う。要するに最近増えてる、生きている実感がないので、人を殺してしまうということで、彼の心情は全く理解不能。彼を憎めるかってことが、13人に感情移入できるかどうかにかかっているとは思うけど、イライラするけど理解不能なので、憎めない。だから、最期やたらとコント的な感じになってしまうけれど、それもバカ殿って感じでよかったかも。
島田新左衛門の役所広司がよかった。現代モノに出ると何となく、大芝居気味な気がするけれど、時代劇ならOK。前にも書いたけれど、この島田新左衛門は、リーダーシップはあるけれど、強いカリスマ性でぐいぐい引っ張るタイプではない。綿密な計画を立てて、しっかり準備をし、焦る部下の気持ちを抑えて、耐えに耐えて時期を待つ。重要な部分で、大博打を打つ大胆さもあるけど、終始一貫軸がぶれない。なので配下は納得して、彼に従うことが出来る。そういう人物を見事に演じていたと思う。剣豪にしては線が細いかなと思ったけれど、そんなこともなかった。指揮官なので、彼自身の見せ場はなかなか出てこないけれど、全体的に潔くて良かったと思う。
女性はほとんど出てこない。役名のあるキャストと言えば、前述の若妻谷村美月ちゃんと、新六郎の恋人と木賀小弥太(伊勢谷友介)の恋人の2役を演じた吹石一恵のみ。しかも2人ともほぼ1シーンで、白塗りのコワメイクで、美しく撮ろうとしてないし(笑) ほんとにドキッ男だらけの男臭い映画。現代日本の先の見えない閉塞感とか、物質的に恵まれているが故に生きている実感が持てず、モンスター化する若者とか、揶揄している部分はあるのでしょうが、そんなに難しく考えなくても楽しめる。かなりツッコミどころも、やり過ぎな部分も多いけど、娯楽作品として優れている。キレイ系のイケメンじゃなく、カッコイイ男達が見たい方は是非!
イメージソングの"DESPERADO"(Eagles)がすごく合ってる。ラストの虚しさも良かった。
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