'12.02.07 『わが母の記』(試写会)@よみうりホール
yaplogで当選。いつもありがとうございます。役者さんが豪華だったので見たかった作品。
*ネタバレありです!
「父の葬儀を終えた作家の伊上洪作は、母の異変に気づく・・・ 長女夫妻と実家で暮らす母は、少しずつ認知症の症状が進行していく。時々、東京の自宅や軽井沢の別荘に母を引き取るようになる。伊上には幼い頃から抱えていた母への思いがあった・・・」という話。これは良かった。よく考えるとツッコミどころがないわけではない。でも、いわゆる感動させます系のベタな映画だと思っていたけど、軽いタッチで時に笑わせつつ、感動させる作品で、しっかり泣かされてしまった。
原作は井上靖の自伝的小説。原作は未読。何故かいつも、川端康成と作品がごっちゃになってしまう井上靖・・・ 何故だろう?(笑) 伊上洪作の父は軍医で、自宅は病院でもあった。大きな家。人気作家であるご本人の自宅も、大きく立派。お手伝いさんや書生さん、出版社社員が常にいるので、いわゆる介護という感じはしない。なので、これはやっぱり普通の家庭の話ではないし、介護映画でもないということなのだと思う。原作については不明だけど、『わが母の記』となっているけれど、肝心の母は認知症で、伊上の会話は成り立たない。伊上や、その妹達、娘達が思い出話をするシーンはあるけれど、回想シーンがあるわけでもないし、あくまでこんな事があったというエピソードを語るにとどまっているので、母親の一代記のような作品ではない。でも、やっぱりこれは母と子、そして家族の映画。
長男で長子である伊上は、妹を出産するにあたり、母が体調を崩してしまったため、祖父のお妾さんであった女性、土蔵のばあちゃんに5歳から8年間預けられていた。なにやら事情が複雑で、長年自分に尽くしたこの女性の行く末を案じた祖父は、戸籍上母の義母ということにしたのだそう。土蔵のばあちゃんは、とてもきちんとし人だったらしく、生涯土蔵の2階に住み、母屋に用のある時も、勝手口から伺い、決して足を踏み入れなかったのだそう。7歳と5歳の甥っ子達を見ていると、5歳っていろんなことが分ってきて、自我が芽生えて個性が出てくる頃。そして、やっぱりお母さんが大好き。深い事情を知らずに、母親と引き離されてしまえば、自分は捨てられたと思い込んでしまうかも。既に50歳を超えている伊上が、まだ捨てられたと思い続けているものだろうかと思うけれど、それはおそらく、長年この話題に関して、お互いが向き合えなかったということなのだろうと思った。自分の中では母親にも事情があったのかもしれない、本当は自分を愛しているに違いないと思えたとしても、本人から本当のことを聞かなければ納得はできないし、傷も癒えないのだと思う。何でも言い合えるというのは家族の理想だけど、実際は家族だからこそ言えないことや、聞けないことはある。母や伊上には、本当のことを話す機会はあったのかもしれないけれど、彼らは永久にその機会を逃してしまった・・・
伊上の娘達の描き方も良かったと思う。しっかりものの長女、体が弱く繊細な次女、独立心が強く自分の意見をはっきりと言う三女。三女を演じているのが宮崎あおいということもあり、三女の比重が大きいけれど、それぞれの役割分担がきちんと描けていて、それぞれバランスが取れているのが良くわかる。時代的には昭和30年代後半から昭和40年代。高度成長期の新しい物や価値観が入ってくる感じと、父親を中心とした家族の均衡というか、そういう古きよき日本みたいなのがとっても面白かった。三女が何かと父親と衝突してしまうのは、彼女の真っ直ぐ過ぎて、不器用な性格ゆえではあるけれど、やっぱり新しい女性像でもある。古きよき日本といえば、やっぱり野上は家長として扱われているということ。母もそういう風に接していた。最初の頃、帰ってきた伊上は着物に着替えるけれど、妻はさりげなく着替えを手伝っている。こういうのいいなぁ・・・ 自分ができるか、そしてやりたいかと言われると微妙ではあるけれど(笑) でも、さり気なく習慣としてしている感じや、父親中心に家族そろってご飯を食べる感じとか、とっても品がいいなと思った。父親という一本芯があって、さり気なく妻や子供達がサポートしていく。娘達は両親に敬語を使ったりはしないけれど、少なくとも現代のように「親友みたいな親子」という関係ではない。別に今が悪いというわけではないけれど・・・ でも、長女が嫁に行き、次女がハワイに留学、三女も家を出ると、そのバランスも微妙に崩れるようで、帰ってきた父親の着替えを、母親はもう手伝わない。昭和の夫婦の間にも、新しいルールが出来ている。時代は変わる。そういうのがさり気なく描かれていてよかった。
登場人物がかなり多い。伊上は3人兄妹だし、子供も3姉妹。お手伝いさんや書生さんなどもいるので、結構画面上に人がごちゃごちゃ居ることが多い。伊上の妹2人はおしゃべり好きで、かなり早口でまくし立てる。母親の認知症もわりとコミカルに描かれることが多く、徘徊してしまうシーンなどは緊迫感があるけど、基本明るいタッチなので重くなり過ぎることがない。ドタバタするシーンも多いけど、役者さんたちが上手いので、うんざりしてしまうことはない。若干早口で聞き取りにくい部分があったりはしたけれど・・・ 例えば、冒頭から実家でお蕎麦を食べながら、兄妹3人で話しているシーンがあるけれど、スゴイ早口・・・ ここで交わされた会話の1/3は落としてしまっていると思う(笑) でも、この感じは分る。ちょっと小津安二郎の映画を思い出したりもする。そういうオマージュ的なこともあるのかな・・・ 確か、妹が『東京物語』の話もしてたし。重いテーマをサラリと見せてくれるのは好きなので、その辺りは良かったと思う。混乱してしまった母親が、家を抜け出してトラックの運転手さんに、海へ連れて行ってもらうシーンなどは、ちょっとベタな部分もあったりするけれど、それも気にならない。
そういうコミカルで明るいシーンの中に、さり気なく感動シーンが挿し込まれる。すでに伊上が自分の息子である事を認識できない母親が、息子への思いを語るシーンは泣けた・・・ ボロボロになった紙には伊上が小学生の時に詠んだ詩が書かれていて、母はそれを暗記している。母は息子への思いも語ってはいるけれど、それもホントにさり気ない言葉で語られる。相手が誰だか分っていないし、本人もそれを話している自覚がないのかもしれない。だからこそ本当の想いだと思うし、伊上もそう受け取れたのだと思う。縁側の、旅館などにある真ん中にテーブル、イス、イスみたいな配置。そこで向かい合って座る母子。やわらかい日差し。画も美しかった。そして、この時の樹木希林の恍惚とした表情・・・ この表情で涙腺決壊
なんという表情!
時々、母が徘徊してしまうけど、基本的に大事件は起きない。嫌な人も出てこない。淡々と家族の日常や、長女の結婚、次女の留学などイベントごとが描かれる。2時間超の映画だったけれど、飽きてしまうことはなかった。原作の力だと思うし、作者の実体験だからリアルなのでしょう。自分が父親に似てきたと自覚するシーンも良かった。マッチ箱をカタカタさせちゃうクセとか、新聞を読む時に丸めた背中とか・・・ DNAってこともあるけれど、やっぱり両親を見てきているからなんだよね。例えば、料理の味付けが母親の味に似てしまうのは、その味で育ったからだし。それは別に日本だけじゃなくて、どこの国でもそうだと思うけれど、この古きよき時代の日本の家族の姿を見ることで、より実感できた気がする。前述したけど、そういう感じを適度にコミカルな語り口や、見せ方が上手かったと思う。全体的に品が良かった。
役者さんたちはみんな良かったと思う。伊上の役所広司も大芝居じゃなくて良かった。母親に愛されていたことが分ったシーンの演技も良かったけれど、母が亡くなったと連絡を受けて、見取った妹に掛けた言葉が泣けた・・・ この時のキムラ緑子の演技が素晴らしかったこともあって、ホントに泣けた。そういう感動シーンもそうだけれど、昭和の父親像というのを体現していたように思う。ちょっとウザイ部分もあるけれど、家長として頑張っているのが伝わってきた。その辺りが良かったと思う。宮崎あおいはやっぱり上手い。この役が彼女に合っている部分も大きいと思うけれど・・・ 例えば、唐突に書生の瀬川くんに「つき合ってあげてもいいわよ」というシーンなど、(゚д゚)ポカーンとならずに見れたのは、宮崎あおいのおかげだと思う。父親に反抗はするけれど、父親を気遣ってもいるし、分ってあげようともしていた。そういうのも伝わってきた。前述したけど、妹のキムラ緑子、下の妹の南果歩も良かったと思う。さすがの安定感。映画初出演だそうだけれど、妻役の赤間麻里子も昭和の妻の品があって良かったと思う。
そして、何と言っても母役の樹木希林でしょう! ほとんどのシーンが認知症の役。言い方悪いけれど、こういう特殊な役って、特別個性の無い普通の人の役より、役作りし易いのか、難しいのか分らないけれど、とにかくすごかった。介護している人にとって、本人に悪気がないとは分っていても、本当に傷ついてしまう言動をすることもあるのだと思う。でも、時々ものすごくカワイイ表情をしたりする。認知症を患うということは、赤ちゃんに戻るわけではない。急に何かを思い出し、彼女の中だけでそれが繋がり、その事で頭がいっぱいになる。その感じを見事に表現していた。前述した縁側のシーンがスゴイ! 彼女の中には息子に対する愛情が広がっている、でもそれを話している相手が息子本人であることは気づいていない。この時の息子のイメージは、おそらく小学生、もしくは大人になったであろう姿なのだと思う。そういうことまで感じさせる演技だった。その表情! この表情は必見だと思う。素晴らしい!
伊上の自宅は、実際の井上靖邸で撮影されたそうで、伊上の書斎も井上靖の書斎なのだそう。世田谷にあったけれど、撮影後旭川に移築されたとのこと。このお宅ホントに素敵だった。ちょっと大好きなミッドセンチュリー・モダンな感じ。でも和洋折衷というか・・・ ソファの頭の部分に白いフリルの布掛けちゃうイメージ・・・ 一家で行ったホテルとか、軽井沢の別荘の内装も良かったし、湯ヶ島の実家の和室とかも良かった。湯ヶ島のわさび田とか、母親が行きたがった海岸とか、日本の美しい風景も良かった! 昭和の品のいい服装も良かった。ちょっと昭和っぽい色使いの映像もよかった。
ドタバタしている部分もあるけれど、コミカルでサラリとした語り口。特に大きな事件が起きるわけでもない。でも、じんわりと感動してしまう。何より昭和の日本が美しい。古き良き日本の姿を、昭和の家族という部分も含めて、残しておきたいと思った監督はじめ関係者の方々の気持ちがすごくよく分った。よい映画だと思う。
古き良き日本が見たい方、昭和の日本に興味がある方、オススメ!
『わが母の記』Official site
yaplogで当選。いつもありがとうございます。役者さんが豪華だったので見たかった作品。
*ネタバレありです!

原作は井上靖の自伝的小説。原作は未読。何故かいつも、川端康成と作品がごっちゃになってしまう井上靖・・・ 何故だろう?(笑) 伊上洪作の父は軍医で、自宅は病院でもあった。大きな家。人気作家であるご本人の自宅も、大きく立派。お手伝いさんや書生さん、出版社社員が常にいるので、いわゆる介護という感じはしない。なので、これはやっぱり普通の家庭の話ではないし、介護映画でもないということなのだと思う。原作については不明だけど、『わが母の記』となっているけれど、肝心の母は認知症で、伊上の会話は成り立たない。伊上や、その妹達、娘達が思い出話をするシーンはあるけれど、回想シーンがあるわけでもないし、あくまでこんな事があったというエピソードを語るにとどまっているので、母親の一代記のような作品ではない。でも、やっぱりこれは母と子、そして家族の映画。
長男で長子である伊上は、妹を出産するにあたり、母が体調を崩してしまったため、祖父のお妾さんであった女性、土蔵のばあちゃんに5歳から8年間預けられていた。なにやら事情が複雑で、長年自分に尽くしたこの女性の行く末を案じた祖父は、戸籍上母の義母ということにしたのだそう。土蔵のばあちゃんは、とてもきちんとし人だったらしく、生涯土蔵の2階に住み、母屋に用のある時も、勝手口から伺い、決して足を踏み入れなかったのだそう。7歳と5歳の甥っ子達を見ていると、5歳っていろんなことが分ってきて、自我が芽生えて個性が出てくる頃。そして、やっぱりお母さんが大好き。深い事情を知らずに、母親と引き離されてしまえば、自分は捨てられたと思い込んでしまうかも。既に50歳を超えている伊上が、まだ捨てられたと思い続けているものだろうかと思うけれど、それはおそらく、長年この話題に関して、お互いが向き合えなかったということなのだろうと思った。自分の中では母親にも事情があったのかもしれない、本当は自分を愛しているに違いないと思えたとしても、本人から本当のことを聞かなければ納得はできないし、傷も癒えないのだと思う。何でも言い合えるというのは家族の理想だけど、実際は家族だからこそ言えないことや、聞けないことはある。母や伊上には、本当のことを話す機会はあったのかもしれないけれど、彼らは永久にその機会を逃してしまった・・・
伊上の娘達の描き方も良かったと思う。しっかりものの長女、体が弱く繊細な次女、独立心が強く自分の意見をはっきりと言う三女。三女を演じているのが宮崎あおいということもあり、三女の比重が大きいけれど、それぞれの役割分担がきちんと描けていて、それぞれバランスが取れているのが良くわかる。時代的には昭和30年代後半から昭和40年代。高度成長期の新しい物や価値観が入ってくる感じと、父親を中心とした家族の均衡というか、そういう古きよき日本みたいなのがとっても面白かった。三女が何かと父親と衝突してしまうのは、彼女の真っ直ぐ過ぎて、不器用な性格ゆえではあるけれど、やっぱり新しい女性像でもある。古きよき日本といえば、やっぱり野上は家長として扱われているということ。母もそういう風に接していた。最初の頃、帰ってきた伊上は着物に着替えるけれど、妻はさりげなく着替えを手伝っている。こういうのいいなぁ・・・ 自分ができるか、そしてやりたいかと言われると微妙ではあるけれど(笑) でも、さり気なく習慣としてしている感じや、父親中心に家族そろってご飯を食べる感じとか、とっても品がいいなと思った。父親という一本芯があって、さり気なく妻や子供達がサポートしていく。娘達は両親に敬語を使ったりはしないけれど、少なくとも現代のように「親友みたいな親子」という関係ではない。別に今が悪いというわけではないけれど・・・ でも、長女が嫁に行き、次女がハワイに留学、三女も家を出ると、そのバランスも微妙に崩れるようで、帰ってきた父親の着替えを、母親はもう手伝わない。昭和の夫婦の間にも、新しいルールが出来ている。時代は変わる。そういうのがさり気なく描かれていてよかった。
登場人物がかなり多い。伊上は3人兄妹だし、子供も3姉妹。お手伝いさんや書生さんなどもいるので、結構画面上に人がごちゃごちゃ居ることが多い。伊上の妹2人はおしゃべり好きで、かなり早口でまくし立てる。母親の認知症もわりとコミカルに描かれることが多く、徘徊してしまうシーンなどは緊迫感があるけど、基本明るいタッチなので重くなり過ぎることがない。ドタバタするシーンも多いけど、役者さんたちが上手いので、うんざりしてしまうことはない。若干早口で聞き取りにくい部分があったりはしたけれど・・・ 例えば、冒頭から実家でお蕎麦を食べながら、兄妹3人で話しているシーンがあるけれど、スゴイ早口・・・ ここで交わされた会話の1/3は落としてしまっていると思う(笑) でも、この感じは分る。ちょっと小津安二郎の映画を思い出したりもする。そういうオマージュ的なこともあるのかな・・・ 確か、妹が『東京物語』の話もしてたし。重いテーマをサラリと見せてくれるのは好きなので、その辺りは良かったと思う。混乱してしまった母親が、家を抜け出してトラックの運転手さんに、海へ連れて行ってもらうシーンなどは、ちょっとベタな部分もあったりするけれど、それも気にならない。
そういうコミカルで明るいシーンの中に、さり気なく感動シーンが挿し込まれる。すでに伊上が自分の息子である事を認識できない母親が、息子への思いを語るシーンは泣けた・・・ ボロボロになった紙には伊上が小学生の時に詠んだ詩が書かれていて、母はそれを暗記している。母は息子への思いも語ってはいるけれど、それもホントにさり気ない言葉で語られる。相手が誰だか分っていないし、本人もそれを話している自覚がないのかもしれない。だからこそ本当の想いだと思うし、伊上もそう受け取れたのだと思う。縁側の、旅館などにある真ん中にテーブル、イス、イスみたいな配置。そこで向かい合って座る母子。やわらかい日差し。画も美しかった。そして、この時の樹木希林の恍惚とした表情・・・ この表情で涙腺決壊

時々、母が徘徊してしまうけど、基本的に大事件は起きない。嫌な人も出てこない。淡々と家族の日常や、長女の結婚、次女の留学などイベントごとが描かれる。2時間超の映画だったけれど、飽きてしまうことはなかった。原作の力だと思うし、作者の実体験だからリアルなのでしょう。自分が父親に似てきたと自覚するシーンも良かった。マッチ箱をカタカタさせちゃうクセとか、新聞を読む時に丸めた背中とか・・・ DNAってこともあるけれど、やっぱり両親を見てきているからなんだよね。例えば、料理の味付けが母親の味に似てしまうのは、その味で育ったからだし。それは別に日本だけじゃなくて、どこの国でもそうだと思うけれど、この古きよき時代の日本の家族の姿を見ることで、より実感できた気がする。前述したけど、そういう感じを適度にコミカルな語り口や、見せ方が上手かったと思う。全体的に品が良かった。
役者さんたちはみんな良かったと思う。伊上の役所広司も大芝居じゃなくて良かった。母親に愛されていたことが分ったシーンの演技も良かったけれど、母が亡くなったと連絡を受けて、見取った妹に掛けた言葉が泣けた・・・ この時のキムラ緑子の演技が素晴らしかったこともあって、ホントに泣けた。そういう感動シーンもそうだけれど、昭和の父親像というのを体現していたように思う。ちょっとウザイ部分もあるけれど、家長として頑張っているのが伝わってきた。その辺りが良かったと思う。宮崎あおいはやっぱり上手い。この役が彼女に合っている部分も大きいと思うけれど・・・ 例えば、唐突に書生の瀬川くんに「つき合ってあげてもいいわよ」というシーンなど、(゚д゚)ポカーンとならずに見れたのは、宮崎あおいのおかげだと思う。父親に反抗はするけれど、父親を気遣ってもいるし、分ってあげようともしていた。そういうのも伝わってきた。前述したけど、妹のキムラ緑子、下の妹の南果歩も良かったと思う。さすがの安定感。映画初出演だそうだけれど、妻役の赤間麻里子も昭和の妻の品があって良かったと思う。
そして、何と言っても母役の樹木希林でしょう! ほとんどのシーンが認知症の役。言い方悪いけれど、こういう特殊な役って、特別個性の無い普通の人の役より、役作りし易いのか、難しいのか分らないけれど、とにかくすごかった。介護している人にとって、本人に悪気がないとは分っていても、本当に傷ついてしまう言動をすることもあるのだと思う。でも、時々ものすごくカワイイ表情をしたりする。認知症を患うということは、赤ちゃんに戻るわけではない。急に何かを思い出し、彼女の中だけでそれが繋がり、その事で頭がいっぱいになる。その感じを見事に表現していた。前述した縁側のシーンがスゴイ! 彼女の中には息子に対する愛情が広がっている、でもそれを話している相手が息子本人であることは気づいていない。この時の息子のイメージは、おそらく小学生、もしくは大人になったであろう姿なのだと思う。そういうことまで感じさせる演技だった。その表情! この表情は必見だと思う。素晴らしい!
伊上の自宅は、実際の井上靖邸で撮影されたそうで、伊上の書斎も井上靖の書斎なのだそう。世田谷にあったけれど、撮影後旭川に移築されたとのこと。このお宅ホントに素敵だった。ちょっと大好きなミッドセンチュリー・モダンな感じ。でも和洋折衷というか・・・ ソファの頭の部分に白いフリルの布掛けちゃうイメージ・・・ 一家で行ったホテルとか、軽井沢の別荘の内装も良かったし、湯ヶ島の実家の和室とかも良かった。湯ヶ島のわさび田とか、母親が行きたがった海岸とか、日本の美しい風景も良かった! 昭和の品のいい服装も良かった。ちょっと昭和っぽい色使いの映像もよかった。
ドタバタしている部分もあるけれど、コミカルでサラリとした語り口。特に大きな事件が起きるわけでもない。でも、じんわりと感動してしまう。何より昭和の日本が美しい。古き良き日本の姿を、昭和の家族という部分も含めて、残しておきたいと思った監督はじめ関係者の方々の気持ちがすごくよく分った。よい映画だと思う。
古き良き日本が見たい方、昭和の日本に興味がある方、オススメ!
