'13.03.01『ライフ・オブ・パイ~トラと漂流した227日』@日劇
評価良かったので気になってた。映像が美しいと聞いていたので、これは映画館で見なきゃと思い、アン・リー監督がアカデミー賞監督賞受賞した記念に行って来たー!
*ネタバレありです!
「カナダに住むパイ・パテルのもとに、彼からある話を聞くために、ライターが訪ねてくる。フランス語でプールという意味のピシンという名前のため、同級生たちからいじめられた子供時代から始まる話に耳を傾けていると、やがて話はとんでもない体験へと進んでいく・・・」という話。おもしろかった。実は見ていたことと違うオチがあるとは聞いていたので、冒頭から伏線があるんじゃないか、何か別の意味があるんじゃないかという疑いの目で見ていたため、もう一つの話が明らかになった瞬間、拍子抜けしたような感じになってしまい、ビックリとか感動はあまりなかったのだけど、やっぱり見て良かったと思った。そして、見終わってから、もしかしたら自分が思っているより深い話なんじゃないかと思ったりした。その辺りが上手く形になればいいのだけど・・・
英国ブッカー賞受賞の原作は、カナダ人作家ヤン・マーテルが2001年に発表した「パイの物語」で、世界的ベストセラーだけど未読。邦題は『~トラと漂流した227日』とサブタイトルがついているので、てっきりこの部分がメインの話なんだと思っていた。もちろんそうなんだけど・・・ まぁ、それは後に書くとして、このパイのサバイバルには元になった実話がある。公式サイトには漂流からの生還エピソードがいくつか紹介されているけれど、原作の元になっているのはスティーブン・キャラハンという人物の体験から。1982年にイギリスを目指してアメリカを出向したキャラハンは、嵐に遭い救命ボートで76日間漂流した。マリーガランテ島にたどり着いた時には、体重が1/3に減っていたのだそう。この体験を「大西洋漂流76日間」として出版。ベストセラーとなった。マーテルがどの程度参考にしているのかは不明だけど、原作ではキャラハンに言及しているとのことなので、彼の体験を参考にしているのは間違いない。実際、キャラハンは今作にアドバイザーとして参加。海上での食事の仕方や、巨大クジラの現れ方などについてアドバイスしたとのこと。76日と227日では3倍近く違うけれど・・・
漂流部分のみなのかと思っていたら、違っていたことは前述したけれど、前半部分はパイの生い立ちが語られていく。インドで生まれたパイは水泳が得意な叔父にちなんで、ピシン・モリトール(モリトールのプール)と名づけられた。モリトールが何なのか説明があったと思うけど失念・・・
このピシンがオシッコを意味する言葉に似ていたため、ピシンはいじめの対象になってしまう。次の学年からピシンは先手を打って、自らの名前をパイ(π)と呼ばせようと、意味は円周率だとして各クラスで説明。数学のクラスでは黒板にビッシリ円周率を書いて、皆を納得させてしまう。そう、子供の頃って名前が変わってるとか、そういう理由でいじめられたり、逆に憧れられたりするんだよね・・・ 家族は動物園を経営する厳格な父、美しく優しい母、そして兄の4人。インドの家庭としてパイもヒンドゥー教を学んでいくことになる。クリシュナ神の口に宇宙が広がっていたという説話にショックを受けるパイ。その同じ純粋さでキリスト教にも興味をしめす。何故、神は自分の子供(キリスト)の命を奪ったのか? 素直に疑問をぶつけるパイを、子供だからとバカにせずきちんと答えてくれる神父。パイはキリスト教も学んでいくことになる。そして、彼はイスラム教にも惹かれていく。子供らしい素直な気持ちで、興味を持ったこと、疑問に思ったことに向き合う姿がほほえましい。コミカルに描きつつ、こちらにもきちんと伝わってくる見せ方が上手い。そして、これは後の重要な伏線。
パイの初恋なども描かれるけど、正直ここはいらなかったかも・・・ パイがあくまで純真で、自分で行動できるってことを描いているのかもしれないし、インドといえばのインド舞踊を見せてくれたのはうれしいのだけど、美女ぞろいのインド女優さんだけど、この彼女は個人的にイマヒトツ・・・ ただ、このインド時代で前述した宗教というか、神のこと以外に大切なのは、リチャード・パーカーとの出会い。父が購入したベンガル・トラに興味津々の少年パイ。彼にエサをやろうとしているところを父に見つかり叱られる。トラの恐ろしさを教えるため、目の前で子ヤギを生きたままリチャード・パーカーのエサにする父。子供に見せるものではないと反対する母親の意見に同意する部分もあるけど、これが現実であることは確か。リチャード・パーカーの気高さとともに印象に残るシーンだった。このトラらしからぬ名前は、書類のミスによるものだけど、実はこの名前が重要。1837年に出版されたエドガー・アラン・ポーの「ナンケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」は、海を漂流中の4人が生贄をクジで選ぶ話で、クジに当たってしまったのがリチャード・パーカー。そして、1884年実際に起きたミニョネット号事件。4人が20日間漂流し、衰弱した17歳の少年が生贄になった事件で、この少年の名前がリチャード・パーカーだったのだそう!ヒィー(>ω<ノ)ノ この辺りのことを考慮して見ると、別の受け止め方ができるかもと公式サイトに書いてあった。なるほど、興味深い。
市からの援助が打ち切られるため、動物園を閉めてカナダに移住することになったパテル家。動物はカナダで売るため、彼らと共に日本船で海を渡る。父以外はベジタリアン。母に対して失礼な態度を取るフランス人コック。この役チョイ役なのにジェラール・ドバルデューでビックリしたけど、後に重要な役であることが分かる。パイたちは結局ライスしか食べるものがない。そんな彼らに声をかけてきた日本人船員。自分は仏教徒だけど肉は食べるが、このカレーは肉汁しか入っていないのだから食べてみてはどうかと言ってくれる。力なく断るパイ。ベジタリアンがどこまで肉を食べてはいけないのか分からないけど、この時の状態は酷い扱いを受けたことへの怒りとショックだったのでしょう。この日本人船員も実は重要で、彼が仏教徒であることも重要なんだと思う。ところでこの日本船、船体に書かれていた英文字も、字幕の日本語表記も日本語とは思えない名前だったけど、公式サイトではツシマ号となっていた。原作ではどうなっているんだろう?
で、いよいよ嵐。ここまでちょっと長かった(笑) 後から考えると、この前半部分はとっても重要なのだけど・・・ 夜中に目を覚ましたパイ。嵐の中外に出てみる。最初は揺れる船を楽しんでいたけど、強くなる一方の風雨や波に驚く。船首を見下ろすと船員が波にさらわれてしまうのを目撃! 慌てて家族のもとに戻るも、既に船内には水が押し寄せてたどり着けない。コックに救命ボートに乗るように言われるパイ。家族が心配だけど激しい風雨でどうすることもできない。突き落とされるようにボートに乗る。シマウマが飛び降りてくる。この映像スゴイ! 波にのまれ何度も振り落とされそうになりながらボートにしがみつくパイ。すごい迫力。朝、目覚めると海上にボート一隻。ボートの船首にはシマウマが倒れている。脚を怪我して動けない様子。そこへバナナの袋に乗って流れ着いたオランウータン。急いでボートに引き上げるも、シマウマとオランウータンと共に途方にくれるパイ(笑) ボートは船尾側半分にシートが被っていて、食料などが備え付けられている。その奥からハイエナが飛び出してくる。空腹なのかシマウマを狙うハイエナ。必死で止めるパイ。オランウータンもハイエナを威嚇。何度かこの攻防は繰り返されるけど、結局ハイエナはシマウマを殺してしまう。そして、オランウータンも殺したハイエナはパイに向かってくる。その時、飛び出してきたのがリチャード・パーカー。この映像はすごかった! これは3Dならでわ。実はこのボート上で起きたことは重要な伏線。そして、ここからリチャード・パーカーとの漂流になる。
漂流から生還するにあたり、日々どう過ごすべきか前述のキャラハンのアドバイスを受けたそうで、1日をボーっと過ごしてはいけない、規則正しく生活することが大切で、決して希望を捨ててはいけないとのこと。そして、パイはその通り頑張る。漂流事態を細かく書いてしまうのもどうかと思うので控えめに(笑) 最初は慌てて飛び移った浮き輪にしがみついているだけだったけど、どんどん工夫して浮き輪イカダを改良。最終的には快適とは言えないまでも、なかなか立派なイカダになる。ボートに食料などを取りに行くたび、命の危険にさらされるので、なんとかリチャード・パーカーを飼いならそうとするけど上手くいかない。この辺りも伏線なのだと思う。1人と1匹はボートのスレスレの水面を上がってくる巨大クジラ、ボートに向かって飛んで来るトビウオなど、様々な生き物に遭遇しつつ、海上で出来る限りの生活をする。パイが干物を作っているのもツボ。2人の間の関係が少しずつ縮まるような気がする時もあるけど、リチャード・パーカーは手ごわい(笑) パイは海に落ちたリチャード・パーカーを沈めてしまう機会があるけれど、そうすることは出来ず、結局彼を助ける。この時から少しずつ関係が変わる。それは友情とかいうようなものではないけれど・・・ この2人の関係の変化と、パイがどう過ごしたが大切なんだと思う。
2人はある島にたどり着く。島じゅうでミーアキャットがうごめく。この島で2人は不思議な体験をする。深く美しい湖で泳いだり、久しぶりの陸地でゆっくり眠ろうとするパイ。ミーアキャットたちが、どかしてもどかしてもお腹に乗ってくるコミカル場面で笑っていると、この島が夜になると生き物の命を奪う生きた島であることが分かる。そして、この島の遠景が映るのだけど、これが涅槃仏の形だった。涅槃仏で有名なのはバンコクのワット・ポー。実際見たことあるけど大きくてビックリした。あれは横向きだったけど、島は仰向け。この形にも意味があるように思うのだけど・・・ 急いでビーチに向かうと、リチャード・パーカーが既にボートに乗っているのが印象的。彼はこの島が危険であることに気づいていたのだった。それから直ぐにパイが別の島で無事に保護された様子が映る。パイが号泣している。現在のパイがその涙の意味を語る。助かったのがうれしかったのではない。リチャード・パーカーが振り向きもせずに行ってしまったのが悲しかったのだと・・・ ガリガリに痩せたリチャード・パーカーが、ふらふらとしながらも毅然とした態度で森に消えていく姿が印象的。これも重要な意味がある。
*以下、ネタバレありです!!
現代に戻り話しはこれで終わりかと思った。本当のこととは思えないというライターは、この不思議な話に魅了されていて、疑っているという感じではなかったけれど、パイの漂流には別の話があった。ツシマ号の沈没原因を調査するため、唯一の生存者であるパイの病室に2人の調査員が訪ねて来る。パイは今と同じ話をしたけれど、彼らは信じない。真相を話してくれと迫る彼らにパイが語ったのは衝撃的な話だった。救命ボートに乗っていたのは4人。カレーをすすめてくれた日本人船員、いじわるなコック、パイ、そしてパイの母親。日本人船員は脚を骨折して弱っていた。コックは彼を殺して食べようと言い出す。激しく反対する母親とパイ。でも、コックは2人を殺して食べてしまった。それを聞いたライターが気づく。船員はシマウマ、母親がオランウータン、コックがハイエナ、そしてリチャード・パーカーがパイ。ということは、ハイエナはパイが・・・ あえて書かないけどパイは調査員にハッキリと語っている。その上で、調査員たちにもライターにもどちらを信じるかゆだねている。前述したリチャード・パーカーにまつわるエピソードを考えれば、実際に起きたのは後者なのでしょう。知らない方がお互い幸せなこともある。何でも真実を知ればいいというものでもない。そして、これはどう生きるかという話で、どう生還したかっていう話ではないのだと思う。そして、リチャード・パーカーと共にいなければ、パイは生き抜くことができなかったのだと思う。
そして、これは宗教観とか世界観とかの話でもあるんだと思う。パイは子供の頃から3つの宗教に関心を持っていた。ヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教。どれも神を信仰しているのだけど、それぞれが発展していく過程で、それぞれの神が造られていく。映画だけだとパイの中でこの3つの宗教が、それぞれどんな意味を持ち、どんなバランスで存在しているのか分かりにくかったのだけど、漂流している間パイがすがっていた神はおそらく、どの宗教の神でもなかったってことなんじゃないかと・・・ そして、パイはミーアキャットの島で仏陀にも触れている。日本人船員(シマウマ)は仏教徒、母親(オランウータン)はヒンドゥー教徒、コック(ハイエナ)はフランス人なのでおそらくキリスト教徒。それら全ての矛盾点を排除し、良いところを取り込んだパイ(リチャード・パーカー)ってことで、そのどれでもない神=奇跡を信じたからパイは生還することができたということなのかな・・・ うーん。この辺りのことになると、それぞれの宗教について調べなければならくなるし、宗教学にも関係してくるのかなと思うので、この辺にしておくかな。全く詳しくないのに、適当なことを言ってしまうのはダメだと思うので・・・(o´ェ`o)ゞ でも、ファンタジー的な画で見せられていたことは、パイの衝撃の告白よりももっと衝撃的というか、奥が深いんだと思う。
キャストはパイのスラージ・シャマルは300人の中から選ばれた新人だそうだけど、ほぼ1人芝居をよく頑張ったと思う。パイが決して諦めず生き抜く姿を、少しコミカルに熱くなり過ぎずに演じていて良かった。少し頼りなげな容姿も応援したくなる感じでイイ。褒めてます(笑) お母さんのTABUは見たことあると思ったら『その名にちなんで』のお母さん役の人だね。優しいけれど強い母を好演。短いながらも印象を残したので、実は乗っていたというボートでの姿も浮かぶ。現在のパイは『その名にちなんで』『スラムドッグ・ミリオネア』のイルファン・カーン。全てを語り終えた姿がもう導師のように神々しかった。素晴らしい!
3Dの効果についてはトビウオ、そしてリチャード・パーカーが飛び出してくるシーンくらしかないような気がしなくもないけど、ホントに美しい映像だった。撮影はインドと台湾で行われたそう。原作者のマーテルが「インドはとても多くのことが可能な場所」と語ったそうだけれど、インドの場面は全て美しかった。海のシーンは台中のかつて空港だった場所に70×30×4mの波を作るタンクを造り撮影したそうだけど、本当に海にいるみたいでスゴイ映像。リチャード・パーカーはほぼCGだそうで、この映像を作った制作会社は倒産してしまったんだとか
アカデミー賞監督賞を受賞したアン・リー監督のスピーチが、少し誤解された部分もあるようだけれど、物議をかもしてしまい、クリエーターたちによるデモに発展してしまったのは残念だったけれど、素晴らしい仕事だったと思う。
見るのも感想書くのも遅くなっちゃったから、そろそろ上映終わっちゃうかな? これは大人のファンタジー。オススメ!
『ライフ・オブ・パイ』Official site
評価良かったので気になってた。映像が美しいと聞いていたので、これは映画館で見なきゃと思い、アン・リー監督がアカデミー賞監督賞受賞した記念に行って来たー!
*ネタバレありです!

英国ブッカー賞受賞の原作は、カナダ人作家ヤン・マーテルが2001年に発表した「パイの物語」で、世界的ベストセラーだけど未読。邦題は『~トラと漂流した227日』とサブタイトルがついているので、てっきりこの部分がメインの話なんだと思っていた。もちろんそうなんだけど・・・ まぁ、それは後に書くとして、このパイのサバイバルには元になった実話がある。公式サイトには漂流からの生還エピソードがいくつか紹介されているけれど、原作の元になっているのはスティーブン・キャラハンという人物の体験から。1982年にイギリスを目指してアメリカを出向したキャラハンは、嵐に遭い救命ボートで76日間漂流した。マリーガランテ島にたどり着いた時には、体重が1/3に減っていたのだそう。この体験を「大西洋漂流76日間」として出版。ベストセラーとなった。マーテルがどの程度参考にしているのかは不明だけど、原作ではキャラハンに言及しているとのことなので、彼の体験を参考にしているのは間違いない。実際、キャラハンは今作にアドバイザーとして参加。海上での食事の仕方や、巨大クジラの現れ方などについてアドバイスしたとのこと。76日と227日では3倍近く違うけれど・・・
漂流部分のみなのかと思っていたら、違っていたことは前述したけれど、前半部分はパイの生い立ちが語られていく。インドで生まれたパイは水泳が得意な叔父にちなんで、ピシン・モリトール(モリトールのプール)と名づけられた。モリトールが何なのか説明があったと思うけど失念・・・

パイの初恋なども描かれるけど、正直ここはいらなかったかも・・・ パイがあくまで純真で、自分で行動できるってことを描いているのかもしれないし、インドといえばのインド舞踊を見せてくれたのはうれしいのだけど、美女ぞろいのインド女優さんだけど、この彼女は個人的にイマヒトツ・・・ ただ、このインド時代で前述した宗教というか、神のこと以外に大切なのは、リチャード・パーカーとの出会い。父が購入したベンガル・トラに興味津々の少年パイ。彼にエサをやろうとしているところを父に見つかり叱られる。トラの恐ろしさを教えるため、目の前で子ヤギを生きたままリチャード・パーカーのエサにする父。子供に見せるものではないと反対する母親の意見に同意する部分もあるけど、これが現実であることは確か。リチャード・パーカーの気高さとともに印象に残るシーンだった。このトラらしからぬ名前は、書類のミスによるものだけど、実はこの名前が重要。1837年に出版されたエドガー・アラン・ポーの「ナンケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」は、海を漂流中の4人が生贄をクジで選ぶ話で、クジに当たってしまったのがリチャード・パーカー。そして、1884年実際に起きたミニョネット号事件。4人が20日間漂流し、衰弱した17歳の少年が生贄になった事件で、この少年の名前がリチャード・パーカーだったのだそう!ヒィー(>ω<ノ)ノ この辺りのことを考慮して見ると、別の受け止め方ができるかもと公式サイトに書いてあった。なるほど、興味深い。
市からの援助が打ち切られるため、動物園を閉めてカナダに移住することになったパテル家。動物はカナダで売るため、彼らと共に日本船で海を渡る。父以外はベジタリアン。母に対して失礼な態度を取るフランス人コック。この役チョイ役なのにジェラール・ドバルデューでビックリしたけど、後に重要な役であることが分かる。パイたちは結局ライスしか食べるものがない。そんな彼らに声をかけてきた日本人船員。自分は仏教徒だけど肉は食べるが、このカレーは肉汁しか入っていないのだから食べてみてはどうかと言ってくれる。力なく断るパイ。ベジタリアンがどこまで肉を食べてはいけないのか分からないけど、この時の状態は酷い扱いを受けたことへの怒りとショックだったのでしょう。この日本人船員も実は重要で、彼が仏教徒であることも重要なんだと思う。ところでこの日本船、船体に書かれていた英文字も、字幕の日本語表記も日本語とは思えない名前だったけど、公式サイトではツシマ号となっていた。原作ではどうなっているんだろう?
で、いよいよ嵐。ここまでちょっと長かった(笑) 後から考えると、この前半部分はとっても重要なのだけど・・・ 夜中に目を覚ましたパイ。嵐の中外に出てみる。最初は揺れる船を楽しんでいたけど、強くなる一方の風雨や波に驚く。船首を見下ろすと船員が波にさらわれてしまうのを目撃! 慌てて家族のもとに戻るも、既に船内には水が押し寄せてたどり着けない。コックに救命ボートに乗るように言われるパイ。家族が心配だけど激しい風雨でどうすることもできない。突き落とされるようにボートに乗る。シマウマが飛び降りてくる。この映像スゴイ! 波にのまれ何度も振り落とされそうになりながらボートにしがみつくパイ。すごい迫力。朝、目覚めると海上にボート一隻。ボートの船首にはシマウマが倒れている。脚を怪我して動けない様子。そこへバナナの袋に乗って流れ着いたオランウータン。急いでボートに引き上げるも、シマウマとオランウータンと共に途方にくれるパイ(笑) ボートは船尾側半分にシートが被っていて、食料などが備え付けられている。その奥からハイエナが飛び出してくる。空腹なのかシマウマを狙うハイエナ。必死で止めるパイ。オランウータンもハイエナを威嚇。何度かこの攻防は繰り返されるけど、結局ハイエナはシマウマを殺してしまう。そして、オランウータンも殺したハイエナはパイに向かってくる。その時、飛び出してきたのがリチャード・パーカー。この映像はすごかった! これは3Dならでわ。実はこのボート上で起きたことは重要な伏線。そして、ここからリチャード・パーカーとの漂流になる。
漂流から生還するにあたり、日々どう過ごすべきか前述のキャラハンのアドバイスを受けたそうで、1日をボーっと過ごしてはいけない、規則正しく生活することが大切で、決して希望を捨ててはいけないとのこと。そして、パイはその通り頑張る。漂流事態を細かく書いてしまうのもどうかと思うので控えめに(笑) 最初は慌てて飛び移った浮き輪にしがみついているだけだったけど、どんどん工夫して浮き輪イカダを改良。最終的には快適とは言えないまでも、なかなか立派なイカダになる。ボートに食料などを取りに行くたび、命の危険にさらされるので、なんとかリチャード・パーカーを飼いならそうとするけど上手くいかない。この辺りも伏線なのだと思う。1人と1匹はボートのスレスレの水面を上がってくる巨大クジラ、ボートに向かって飛んで来るトビウオなど、様々な生き物に遭遇しつつ、海上で出来る限りの生活をする。パイが干物を作っているのもツボ。2人の間の関係が少しずつ縮まるような気がする時もあるけど、リチャード・パーカーは手ごわい(笑) パイは海に落ちたリチャード・パーカーを沈めてしまう機会があるけれど、そうすることは出来ず、結局彼を助ける。この時から少しずつ関係が変わる。それは友情とかいうようなものではないけれど・・・ この2人の関係の変化と、パイがどう過ごしたが大切なんだと思う。
2人はある島にたどり着く。島じゅうでミーアキャットがうごめく。この島で2人は不思議な体験をする。深く美しい湖で泳いだり、久しぶりの陸地でゆっくり眠ろうとするパイ。ミーアキャットたちが、どかしてもどかしてもお腹に乗ってくるコミカル場面で笑っていると、この島が夜になると生き物の命を奪う生きた島であることが分かる。そして、この島の遠景が映るのだけど、これが涅槃仏の形だった。涅槃仏で有名なのはバンコクのワット・ポー。実際見たことあるけど大きくてビックリした。あれは横向きだったけど、島は仰向け。この形にも意味があるように思うのだけど・・・ 急いでビーチに向かうと、リチャード・パーカーが既にボートに乗っているのが印象的。彼はこの島が危険であることに気づいていたのだった。それから直ぐにパイが別の島で無事に保護された様子が映る。パイが号泣している。現在のパイがその涙の意味を語る。助かったのがうれしかったのではない。リチャード・パーカーが振り向きもせずに行ってしまったのが悲しかったのだと・・・ ガリガリに痩せたリチャード・パーカーが、ふらふらとしながらも毅然とした態度で森に消えていく姿が印象的。これも重要な意味がある。
*以下、ネタバレありです!!
現代に戻り話しはこれで終わりかと思った。本当のこととは思えないというライターは、この不思議な話に魅了されていて、疑っているという感じではなかったけれど、パイの漂流には別の話があった。ツシマ号の沈没原因を調査するため、唯一の生存者であるパイの病室に2人の調査員が訪ねて来る。パイは今と同じ話をしたけれど、彼らは信じない。真相を話してくれと迫る彼らにパイが語ったのは衝撃的な話だった。救命ボートに乗っていたのは4人。カレーをすすめてくれた日本人船員、いじわるなコック、パイ、そしてパイの母親。日本人船員は脚を骨折して弱っていた。コックは彼を殺して食べようと言い出す。激しく反対する母親とパイ。でも、コックは2人を殺して食べてしまった。それを聞いたライターが気づく。船員はシマウマ、母親がオランウータン、コックがハイエナ、そしてリチャード・パーカーがパイ。ということは、ハイエナはパイが・・・ あえて書かないけどパイは調査員にハッキリと語っている。その上で、調査員たちにもライターにもどちらを信じるかゆだねている。前述したリチャード・パーカーにまつわるエピソードを考えれば、実際に起きたのは後者なのでしょう。知らない方がお互い幸せなこともある。何でも真実を知ればいいというものでもない。そして、これはどう生きるかという話で、どう生還したかっていう話ではないのだと思う。そして、リチャード・パーカーと共にいなければ、パイは生き抜くことができなかったのだと思う。
そして、これは宗教観とか世界観とかの話でもあるんだと思う。パイは子供の頃から3つの宗教に関心を持っていた。ヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教。どれも神を信仰しているのだけど、それぞれが発展していく過程で、それぞれの神が造られていく。映画だけだとパイの中でこの3つの宗教が、それぞれどんな意味を持ち、どんなバランスで存在しているのか分かりにくかったのだけど、漂流している間パイがすがっていた神はおそらく、どの宗教の神でもなかったってことなんじゃないかと・・・ そして、パイはミーアキャットの島で仏陀にも触れている。日本人船員(シマウマ)は仏教徒、母親(オランウータン)はヒンドゥー教徒、コック(ハイエナ)はフランス人なのでおそらくキリスト教徒。それら全ての矛盾点を排除し、良いところを取り込んだパイ(リチャード・パーカー)ってことで、そのどれでもない神=奇跡を信じたからパイは生還することができたということなのかな・・・ うーん。この辺りのことになると、それぞれの宗教について調べなければならくなるし、宗教学にも関係してくるのかなと思うので、この辺にしておくかな。全く詳しくないのに、適当なことを言ってしまうのはダメだと思うので・・・(o´ェ`o)ゞ でも、ファンタジー的な画で見せられていたことは、パイの衝撃の告白よりももっと衝撃的というか、奥が深いんだと思う。
キャストはパイのスラージ・シャマルは300人の中から選ばれた新人だそうだけど、ほぼ1人芝居をよく頑張ったと思う。パイが決して諦めず生き抜く姿を、少しコミカルに熱くなり過ぎずに演じていて良かった。少し頼りなげな容姿も応援したくなる感じでイイ。褒めてます(笑) お母さんのTABUは見たことあると思ったら『その名にちなんで』のお母さん役の人だね。優しいけれど強い母を好演。短いながらも印象を残したので、実は乗っていたというボートでの姿も浮かぶ。現在のパイは『その名にちなんで』『スラムドッグ・ミリオネア』のイルファン・カーン。全てを語り終えた姿がもう導師のように神々しかった。素晴らしい!
3Dの効果についてはトビウオ、そしてリチャード・パーカーが飛び出してくるシーンくらしかないような気がしなくもないけど、ホントに美しい映像だった。撮影はインドと台湾で行われたそう。原作者のマーテルが「インドはとても多くのことが可能な場所」と語ったそうだけれど、インドの場面は全て美しかった。海のシーンは台中のかつて空港だった場所に70×30×4mの波を作るタンクを造り撮影したそうだけど、本当に海にいるみたいでスゴイ映像。リチャード・パーカーはほぼCGだそうで、この映像を作った制作会社は倒産してしまったんだとか

見るのも感想書くのも遅くなっちゃったから、そろそろ上映終わっちゃうかな? これは大人のファンタジー。オススメ!
